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[第1話] 化けの皮

 どうやら俺は目で人を殺せるらしい。  例えば絶世の美女が武器にする流し目のような色っぽいものではなく、友人らに言わせると、ただ目線を向けただけで睨んでるとされてしまう目付きの悪さで、だが。 「わーん、お母さーん!!」 「……(泣きたいのはこっちだよ)」  勿論、そんな泣き言は口には出来ず、心の中でそう独りごちる。風で飛んできた帽子を手渡しただけなのに、小学校低学年くらいのその子は泣きながら母親のもとへと駆けて行ってしまった。  ほんと、子供は正直で困る。こんな時はどんな顔をしたらいいんだろう。周りの視線が痛すぎた俺は、 「……こほん」  わざとらしい咳でごまかしてその場を後にした。  こう見えて俺は子供が大好きだったりする。だから恐がらせるつもりなんて全くなかったのに、またいつものように泣かせてしまった。  こちらを遠巻きに見ている人に目線を向けるだけでも凄んでいるように見えるようで、瞬時に目を逸らされてしまう。本当の俺は虫も殺せないようなやつなのに、この顔のせいでとんでもない殺人鬼のように見られているらしい。 「こわ。あれ鬼島(きじま)だよね」 「確かBシネマのプリンスだっけ」 「ぷっ。あれがプリンスって顔?」 「しっ。聞こえるよ」  女子高生たちにはそんな噂話をされ、俺は慌ててその場から立ち去った。  因みに俺は『鬼島』などと言う何気に恐ろしい名字ではなく、ましてや『勇武(いさむ)』などと言ういかつい名前でもない。本名は藤崎(ふじさき)(ゆかり)で、どちらかと言えば女の子のような名前だったりする。  だがしかし、俺は主にBシネマでちんぴら役や殺し屋役をやっている売れない役者で、この顔の恐さがSNSで拡散されてから若い子達の間でも顔が知られることになってしまった。 「はあ……」  本当は恐いのが苦手で、お化けと雷は特にその場でフリーズしてしまうぐらいだ。高い所も同じでジェットコースターなんか絶対に乗れないし、本当なら屋上から飛び降りる演技(スタント)もしたくない。  ただ、仕事を選んでなんかいられないし、スタントマンをつけるような立場でもないんだよな。  本当は可愛いものや甘いものが大好きなのに、その手のお店にも行けない。だから、もっぱらツイッターや動画を見て満足するだけでいたのだが、 「……出来た!」  最近は忠実に再現すること(お菓子作り)に熱中するようになってしまった。  撮影が終わった足で急いで家に帰り、早速こないだ動画で見付けたパンケーを作ってみる。生憎(あいにく)、味を確認することは出来ないが、自慢じゃないけど見た目だけは動画そっくりで、そこらのパティシエにも負けない腕前だと思う。 「(ぱくっ)…………!!」 (ああ、どうしよう。美味すぎる!)  ホイップクリームとメイプルの甘さ加減も絶妙で、俺は人を殺せそうだと揶揄(やゆ)される顔に満面の笑みを浮かべた。まあ、誰にも見られてないからこそ出来る芸当だ。

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