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16.雨降ってそして……

 あれから亮介とは一度も話してない。  休み時間は参考書を開いて勉強してて近寄りがたいし、昼休みはすぐいなくなってしまう。放課後は放課後で、教室まで迎えに来た子と一緒にささっと帰っちゃうから。  そんな状態がもう2週間以上続いてて、気がついたら3月になってた。 「智さ、亮介とケンカでもしたの?」  雅人に言われてしまった。信一も梨奈ちゃんも愛理ちゃんも心配そうな顔だ。 「ゴメン……」  そうみんなに謝るしかできない。オレだってわかんないよ。 「よくわかんないけどさ、ケンカしてるなら早めに仲直りした方がいいぜ」 「うん……、そうだね」  それ以上何も言えなかった。  今日も亮介は迎えにきた子と一緒に帰って行った。それを見てズキンと心が痛くなる。ねえ、何でオレにキスしたの? あのときの亮介はウソだったの?  涙が出そうで思わず屋上へ走って向かった。  皮肉なことに、屋上から亮介が見えてしまった。迎えに来た子と一緒に歩いてる亮介が。校門を出たところで、その子が亮介に腕を絡ませた。  ズキン  心臓のあたりが痛い。オレどうしちゃったんだろ?  腕を絡めて歩いてる亮介たちをまた見たら、そしたらまたズキンって胸が痛くなった。  この気持ちは何?  オレは……。  オレは……、亮介のことが、……好きなんだ。  パズルのピースがストンと当てはまったようなカンジ。いつ好きになったかわかんない。気がついたら、今気がついたら好きだった。だから胸が痛かったんだ。そんな女の子じゃなくてオレのことを見て。  やっと自分の気持ちに気がついた。でも、もしかして、遅すぎた? 「あら智クン、どうしたの?」  どうしても亮介と話したくて、夜遅くに亮介の家に電話をかけた。スマホじゃなく家の電話に。 「ちょっと亮介とケンカしちゃって……。謝ろうと思うんで、こんな時間だけど、そっちに行ってもいいですか? きっと亮介のスマホにかけても出てもらえないと思うから」  ゴメンおばさん、ケンカしたってのはウソ。でも、亮介と話したいのはホントなんだ。 「珍しいわねぇケンカなんて。こっちに来てもかまわないけど、ちゃんとご両親の了解を取ってから来てね」 「ハイ、ありがとうございます」  それからオレは、お母さんに話をして亮介の家に向かった。お母さんは「ちゃんと仲直りするのよ」って言ってくれた。それと家の鍵を持って行くようにとも言われた。そうだね、もう遅いからね。帰ってきたとしても寝てる時間だ。 「いらっしゃい。今ちょうど智クンのお母さんから電話もらったところよ」 「夜分遅くスイマセン」  呼び鈴を押したらおばさんが出てくれた。  何回も遊びに来てるし亮介の部屋も分かるから、オレはひとりで亮介の部屋の前に立った。少しの間ドアの前に佇んで、それから意を決して……。  トン、トン  ハイと言う返事があったから、オレは何も言わずドアを開けた。 「智っ、なんで……」  久しぶりに亮介の顔をまともに見た気がする。亮介はすっごく疲れたような顔をしてた。 「亮介に……会いに来た。どうしても亮介と話したくて」 「智、オレは……」 「亮介さ……、何で……、何でオレのこと無視するんだよ! もうオレのこと嫌いになっちゃったの?。オレもうヤダよ、亮介に無視されるのなんて」 「ゴメ……」 「オレのこと好きだって言ったのウソだったの?」 「違うっ」 「じゃあなんで? なんでだよ……」  もっと冷静に話そうと思ってたんだけど無理。言葉と一緒に涙も出てきた。オレ今グチャグチャに泣いてる。 「ゴメン、智ゴメン」 オレを抱きしめながら、亮介はそう言った。 「ゴメンな智。オレ智にツライ思いさせたかったワケじゃないんだ。でも……ゴメン。オレが弱すぎるだけなんだ。ホントは智と話したかったんだ。でも、顔見るのがツラくて……、ゴメン」  亮介も泣いてるみたいだった。 「亮介さ、今でもオレのこと好き?」 「すっげー好き。好き過ぎて抑えてらんないくらい好き。……ゴメンな」 「オレも……、亮介のこと……好きだよ」 「…………え?」 「いつ好きになったかなんて、自分でも分かんないんだ。気がついたら好きだったみたい。オレ鈍感だからさ、気づくのにすげー時間かかっちゃってさ、やっとそれに気がついた」 「智が……、オレのこと……好き?」  唖然とした顔でオレのこと見てる。こんな顔初めて見る。滅多に見れない顔。何だろ、鳩が豆鉄砲食らった顔って、きっとこんな顔なんだろうなって思う。 「オレが鈍感すぎちゃったせいで、亮介を傷つけちゃったんだと思う。だからゴメンな」  そう言ってオレは、亮介の顔を自分の方へ引き寄せた。驚きすぎた亮介は、もうオレを抱きしめてる腕にも力が入ってなくて、オレは易々と引き寄せることができたんだ。  そして亮介にキスをした。触れるだけのキスだけど、自分から、初めて自分から。 「ダッセー顔! いつまでそんな顔してんだよ!」  ちょっと……、いや、かなり恥ずかしかったんで、わざと明るくそう言ってみた。 「智っ! 智!智!智っ!」  くっ、くるしい…。亮介、力強すぎ……。

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