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18.白い日の手作りクッキー
「ちょっとお話したいんだけど、いい?」
昼休みに隣のクラスの仲宗根さんがやってきた。アヤちゃんの友だち、友だちだった子だ。彼女に誘われて、オレと亮介は屋上へ向かった。まだちょっと寒いけど、聞かれたくない話をするならやっぱり屋上がベストだから。
「綾香学校辞めたよ。辞めたって言うか、もしかしたら実際は退学処分なのかも」
そう言って仲宗根さんは話し出した。
心配した通りのことがおこって、アヤちゃんは杉山先輩の子供を妊娠してたんだって。それを告げられた杉山先輩は、ヒドイ言葉を言ってアヤちゃんを振ったらしい。でも妊娠したことは親に隠し通せなくて、結局両家の親も含めての話し合いになったとか。
アヤちゃんは子供は絶対産むって言い張って、仕方なく周りがそれに折れたかたち。子供ができちゃったことに対する責任とかあるけれど、杉山先輩もまだ未成年だし高校卒業したばかりだから、当面は別々に暮らして、大学を卒業とともに籍を入れることに決まったそうだ。
オレは知らなかったけど、アヤちゃんはずーっと杉山先輩のことが好きだったんだって。杉山先輩はいろんな子と遊んでて、「バージンは相手にしない」ってのを公言してて、だからオレを利用した。
オレを振った後のアヤちゃんの杉山先輩へのアタックはすごかったらしい。何と言うか……、たった一週間だけ付き合ったアヤちゃんの印象からすると、全然イメージ湧かないんだけどね。女の子ってよくわかんないや。
それにしても……、アヤちゃんて、やり方は間違ってたと思うけど一途な子だったんだなって思った。でもオレにとっては、一歩間違えたらトラウマに成りかねない人だったと思う。もう会うことは無いと思うけど……。
一応教えておいた方が良いと思ったからって言って、仲宗根さんは戻って行った。
ふたりきりになったところで、オレは亮介の顔をチロりと見た。
「ん?」
「亮介さぁ、今までいろんな子と遊んでたんでしょ?」
「あ、ああ……」
「一歩間違えたら杉山先輩みたいになってたかもね」
ものすごーく困った顔。ちょっと意地悪だったかも?
「智ぉ……、今は智だけだよ」
そう言ってキスをした。
さよならアヤちゃん。オレもう、アヤちゃんのこと忘れるね。
教室に戻ったら、梨奈ちゃんたちはホワイトデーの話をしていた。6人の中で一番多くチョコを貰ったのはもちろん亮介だけど、その次は梨奈ちゃんだったんだ。
「毎年お返しが大変なのよ~」とは、梨奈ちゃんの弁。
「亮介はどうしてんの?」
「えっ、オレは返したことないや」
「えー、ヒドイ。私にはお返し頂戴よ!」
そうだよな。愛理ちゃんと梨奈ちゃんにはお返ししたいな。
どうしよっか? やっぱクッキーかな?
「お母さん、クッキーの作り方教えて!」
「えっ、智くんどうしたの?」
「バレンタインデーのお返し。亮介とオレとでクッキー作ることにしたの」
「亮介くんもなの?」
帰宅後、お母さんにお願いしてみたんだけど、オレ、何かヘンなこと言った? お母さんの目が笑ってるんだよな……。
「今日はムリだから明日でもいい? 材料はこっちで準備しておくから」
「うん、ありがとう」
「それにしても……、亮介くんがクッキー焼くのは想像できないわぁ」
そう言ってお母さんはクスクス笑い出した。
きっと今頃、亮介くしゃみしてるハズだ。
翌日、お母さんは全部準備しておいてくれた。オレと亮介と、それぞれ作れるようにって準備してくれてたんだ。
お母さんはすっごく丁寧に教えてくれたんだけど、ずーっと目が笑ってて、いつ笑い出すかと冷や冷やしちゃったし。あれ絶対亮介のことだと思う。
そんな亮介は、お母さんに教えられた通りマジメに一生懸命作ってたけど。
抜き型は、亮介がクマでオレが雪だるま。別々の型にしたのは、焼きあがったときにどっちの作った方かすぐ分かるから。これはお母さんのアイディア。
チョコペンも用意してあったから、顔とかいろいろ書いてみたよ。これは結構楽しかった。
焼きあがったら試食タイム。初めて自分で焼いたクッキーは、素朴な味で美味しかった。
「どぉ? 美味しくできた?」
「うん、お母さんありがとう!」
「あとはラッピングね。2~3人分って聞いてたけど、一応袋は5枚ずつ用意しておいたわよ。リボンも5色あるから分かりやすいでしょ。亮介くんは、せっかくだから、お母さんにもプレゼントしたら?」
「いや……、それは……」
お母さんの目はますますカマボコになってて、亮介はめちゃ照れていた。
「これは智にあげる。一番キレイに焼けたヤツ」
部屋に戻ったら、亮介がオレにクッキーをプレゼントしてくれた。
亮介が一生懸命作った出来立てホヤホヤのクッキー。
「同じこと考えてたんだ。オレも……、これ亮介に」
同じ味だけど、でもやっぱ、亮介のクッキーはすっごく美味しく感じた。
ホワイトデー当日、オレたちは梨奈ちゃんと愛理ちゃんに手作りクッキーをプレゼントした。ふたりとも手作りってのにすっごくビックリしてたけど、喜んでくれた。
「お母さんに教えてもらいながら作ったから、味は大丈夫だよ」
そう言ったら、大きな声で笑われた。え――、なんで?
それからオレは仲宗根さんにもプレゼントしたんだ。バレンタインデーにチョコ貰ったワケじゃないけど、アヤちゃんのことでいろいろあったから。一応感謝を込めて……かな?
余談だけど、亮介の手作りクッキーってすっごい噂になったらしいよ。愛理ちゃんがみんなに羨ましがられたとか。
オレも一緒に作ったんだけどな……。ちょっと複雑。
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