2 / 19

Ⅰ どうして、こんな出逢いしかなかったの?①

仄暗く…… 手から滑ったカップから、ぽたりと一滴。 落ちたコーヒーが白いシャツに波紋を描くように。 生暖かい汁が肌を侵す感触に苛まれる。 黒い液体が胸元を締めつける。 鏡の中のお前は誰だ? 仮面のない顔は、昨日までの私ではない。 私はいないのだ。 (もうすぐ私は……) ガシャンッ けたたましい衝撃で、陶器の弾ける音が鳴り響いた背後。 「いけないね」 淹れたてのアールグレイの香りは、きな臭い硝煙で消し飛んだ。 「勝手に入って。いけない子だ」 手鏡の中に映った君の顔は青ざめていた。 ティーカップを落とした事にすら気づかぬほどに。 無理もない。 私の引いたトリガーは、生命を淘汰(とうた)したのだから 「入室を許可した覚えはない」 悪い子には、お仕置きだ。 命で(あがな)ってもらおうか。 お前は消えろ

ともだちにシェアしよう!