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第17話
アメリアさんの言っていた通り以上だ。全く期待を裏切らない。
「アメリアさんに起こすように頼まれたから。」
ノアはある程度目が覚めたらしく、ベッドを申し訳程度に整えてから自分のバッグから洋服を取り出していた。
「あー、着替えたら行く。」
「じゃあ顔洗う準備しておく。」
「さんきゅ。」
部屋を出てポットを火にかけると、アメリアさんがどうだった?と遠慮がちに聞いてきた。期待以上でした、と答えると本当にありがとうと感謝された。
どうやら彼女も起こしたくなかったらしい。役に立てて良かった。
ノアが起きてくると同時に、レオも起きてきた。レオは寝覚めがいいらしく、元気よく起きてくるとつまみ食いをしようとしてアメリアさんに怒られていた。
「食べるなら顔を洗ってからにしなさい。」
顔を洗ってからならいいのか。
そうこうしているうちに朝食ができたと言われそれを食べると、レオは学校があるから、といって出かけていった。
レオが出かけた後、アメリアさんが掃除をしているうちにノアと食器を洗うことにした。
「何か考えてる様子だな。」
「わかる?」
「見てれば、な。」
そんなにわかりやすく態度に出ていたか、と少し反省した。別に大したことじゃないが、たしかにアシュリーのこと以外にひとつ考え事をしていた。
「まあ、大したことじゃないから。」
「なら言ってみな。聞いてみて、俺になんとかできそうなら協力する。」
忙しいくせに、と思った。ノアは今日もこの後仕事に行くと言っていた。仕事はもちろん、私生活も充実して忙しいだろうに、こんな僕なんかに構おうとする。
ノアもアシュリーも、世話焼きだ。優しすぎる。
黙っているともう一度言えと促され、仕方なく言うことにした。
「…勉強、したいなって。」
そう呟くと、ノアは目を丸くした。
「え、なんの?」
「いや、小学校教育くらいじゃ自立できない気がして。ずっとお世話になるわけじゃないから、いずれ自立するためになんらかの知識をつけたいなと。
僕は文字が書けて、簡単な計算ができるだけだ。なんの能力もない。
アシュリーの部屋の本、少し開いたけど全然分からなかった。」
昨日アシュリーの部屋にある本やノートをみて感じたことだ。僕には何も理解できなかった。そして今日レオが学校に行くと聞いたときから、またあれこれ悩んでしまったのだ。
「…まあ、アシュリーさんの本はだいたい専門書だからな。
でも、勉強したいと思うのはいいことだ。時々教えにきてやる。俺が昔使ってた教材とか、今度持ってくるよ。」
俺にも解決できそうな問題だったな、と笑いながら言われ、驚いた。
「…わがままだって思わないのか?こんなの迷惑だ。」
そういうと、逆にノアの方が驚いた表情をした。なんで?と目が物語っている。そして今度はふふっと笑われた。
「やりたいことをやりたいって言って何が悪い。それに、テオに協力できるのは、素直に嬉しいことだよ。」
洗い物が終わると、また雑に頭を撫でられた。
そのままノアは支度をして仕事に行ってしまったので、唖然として僕は立ち尽くしてしまった。
「テオー、こっちへきて、手伝ってちょうだい。」
アメリアさんに外から呼ばれ、ハッとする。声の方へ駆けていくと洗濯を干している最中で風に飛ばされたのでとってきて、といわれた。
昨日から本当に賑やかで、きっと理想の、絵に描いたような生活の中にいるんだろうと思う。アシュリーと一緒に過ごす前は、きっとこんな日々を夢見ていた。
それなのに、いまはこの中にいても心の中にぽっかり穴が空いた感じがする。
僕はわがままだ。
アシュリーの幸せを願うのに、どうしても一緒にいたいという願いを捨てきれないのだから。
でも、思うだけだ。そう、思うだけなら許されたっていいだろう。
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