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第19話

その人と初めて出会ったのは、施設の中でだった。濃くメイクをして、甘い香りの強い香水をつけ、いつも違う人と一緒に、僕に会いにくる。そして遠くから僕を指差して、一緒にいる人と談笑していた。 ある日、施設の先生がその女の人を連れて僕のところへ来た。その人はとても美人で、そのうえいつもお菓子をくれる。とっても優しい人だと思った。何度か会ううちに、僕は彼女が大好きになった。 そして僕はその人に引き取られることになった。僕はとても嬉しくて、でも、施設のみんなには言ったらかわいそうだからいわなかった。 それなのに、僕がその人と一緒にその人の車に乗る前、施設の先生はなぜか悲しげな顔をした。幸せな僕をかわいそうだという目で見ている気がして、とても不思議だった。 車から降りると、大きな家の前に来た。その人はその大きな家の中に入り、そして、僕を連れて地下へ向かい、ここがあなたの部屋よと絵本や勉強道具などが沢山置いてある部屋に連れていった。 ガチャ、と鍵がかけられると、僕はその中に1人で、決められた時間に用意される美味しくてでも冷たい食事が1日3度用意された。 僕が部屋を出れるのは家事の手伝いをするときと、その人がともだちをつれてきたときだ。 初めてその人が友達を連れてきて、彼よ、と僕を紹介したときは、久しぶりに違う人に出会えて嬉しかった。友達もとても美人で優しそうだった。 だから、そのあと行われたことは、僕には信じられなかった。2人とも笑顔で、あースッキリするわ、と言いながら僕を容赦なく殴った。僕にはそれが悪魔の微笑みに見えた。 痛すぎて意識が飛びそうになると、頬を叩かれて無理やり起こされた。その行為は彼女たちの気の済むまで行われた。 初めては、ゆめだ、と思ったけれど、食事以外で彼女がこちらにやってくるときは、いつも殺されるのではないかというくらい殴られけられ、踏まれていた。 7歳になると、学校に行かされた。学校に行っている間は彼女の監視下にないため気は楽だったが、周りとどう接していいかわからず、また傷だらけの体が恥ずかしかった。 時に、おそらく骨が折れていて片足が使えないような時でも、バカに興味はないのと言われて休まず学校に行かされた。行こうとしないとまた殴られるから、這いつくばってでも徒歩10分の道のりを何倍もかけて歩いた。 何年か経つと、何も感じなくなった。すると、お腹など内臓に響く位置まで殴られるようになり、何度も血を吐いた。 無表情でいられてもたのしくないでしょう?と、殴っても反応がないときは、彼女はそう言った。とても怒っているようだった。 そして数え年で13の冬、もう小学校教育が終わった僕は、毎日毎日どんどんエスカレートしていく彼女とその友人の暴行に耐えていた。 這いつくばってでも無理やり行かされた学校は、それでも大切な時間だったのだと思った。学校の休憩中は1人でできる好きなことができたし、文字を書いたり単純な計算をしたりは、あまり苦痛ではなかった。 いつも友人は女の人で、ストレスがたまっているから助かるわ、と僕の苦痛を見ながら笑っていた。 ある日僕は暴行中に死んだ。正確には死んだと自分でも思った。アシュリーの話を聞く限り死んだと思って冬の路地裏に放置されていたのだろう。 ノアの家で見たのは、忘れもしない、その人だった。一生見たくないその顔は、やはり濃い化粧の綺麗で、そして甘い香りの香水をふんだんにつけて、僕を彼女が名付けた名前で呼んだ。 もちろん、彼女は勘違いだと思っているかもしれないが、彼女が僕に照らし合わせたのは紛れもなく昔の僕だろう。 もし仮に、戻れと言われたらどうしよう。アシュリーなら絶対に言わないとわかっていても、どうしても少し考えてしまうのだ。 もう一度あそこに戻ったら、きっと、すぐに死んでしまうのだろうな。脆い僕は。

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