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一太と卯月さん
「酒は呑んでも呑まれないんですよ、彼は」
つまりはお酒に強いということ。男性にじろじろと穴があくくらい見詰められ、恥ずかしくなった。
「卯月だ。お前の名は?」
ドスのきいた低い声が夜の静寂に凜と響く。
「彼は口が聞けないと、弟さんが」
「ママ、だろ?でも、男、だよな?」
答えにくいことをズバッと聞かれた。見ず知らずの、今会ったばかりの人に。
【両性・・・なんです・・・】
そう正直に言おうかとも思ったけど。
「彼が母親代わり、だからでしょう」
「なるほどな」
「それよりもさっさと帰りますよ」
「やだ」
「はぁ⁉ふざけている場合じゃありませんよ」
「ふざけていない。さっきから旨そうな匂いがしててさぁ、腹が減った。飯、奢ってくれ」
マイバックを置きっぱなしにしていることを思い出した。
「図々しいにもほどがあります」
「別にいいだろう、飯くらい」
卯月だ。そう名乗った男性がむくっと体を起こし、視線を一太に向けた。
強面の顔が一瞬で緩むのが分かった。
目じりを下げ、笑顔で返しながら一太のいる玄関先へ這っていった。
「名前は?」
一太は瞬きもせず卯月さんをじぃっと眺めていた。
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