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番外編 波紋

「しかし、毎日暑いね。未知、体調が悪いのにごめんね」 ううん、首を横に振った。 遥琉、未知を貸して欲しいの。 心さんに頼まれ、渋々ながらも承諾した彼。 部屋の縁側に心さんと並んで腰を下ろすと、弾よけの若い衆が辺りをぐるりと取り囲んだ。 「何もここまでしなくてもいいのにね」 思わず苦笑いを浮かべる心さん。 「遥琉も柚原も心配性なんだから。いつまでも子供扱いしないで欲しい。てか、柚原の方が僕より子供だと思わない⁉」 聞かれてうんと即答した。 「でしょう、未知もそう思うでしょう」 プッと吹き出す心さん。重苦しい雰囲気を和らげるためかわざと明るく振る舞っているようだった。 「あのね未知・・・」 拳をギュッと握り締めて、低い声でぽつりと呟く心さん。 意を決したような真剣な眼差しで見詰められた。 「僕も柚原も、兄《あのひと》に大切な物を奪われた。僕は人としての尊厳を、柚原は唯一の肉親だった人を・・・」 予想もしていなかったまさかの告白に驚き、どう返していいか言葉に詰まった。 十年前に何があったのか、心さんが話しをしてくれた。 ごく普通の家庭で生まれ育ち、大学に進学し青春を謳歌していた心さん。 バイトの帰り道、突如として現れた人相の悪い強面の男たちに拉致されそのまま監禁された。 「兄《あのひと》にそこで初めて会って、自分には兄が二人いることを知った。兄が僕に命じたのは、黙って男たちの慰みものになれだった」 そこで一旦言葉を止めると、着ていたTシャツの衿を引っ張り、肩の付け根に掘られた一センチほどの揚羽蝶の刺青を見せてくれた。 「兄は自分がモノにした女にこの刺青を彫らせていた。僕も訳が分からないうちに手足を拘束され、刺青を彫られて……皆が見ている前で兄に無理矢理……」 言葉に詰まり目蓋に溢れた涙をごしごしと手の甲で拭う心さん。 もういいから…… じゅうぶん分かったから…… 伝わるか分からなかったけれど彼の肩を何度も揺すぶった。

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