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番外編慶悟さん
翌朝、組事務所の前を何度も行ったり来たりする不審な若い男がいると鞠家さんから連絡が入った。
「男は四季と岩水の知り合いだと名乗っている。俺に用事があるみたいだから、子どもたちを小学校に送ってから事務所に寄ってくる」
「四季さんと岩水さんの同僚の方かな?」
「さぁ、どうだろうな」
彼とそんな会話をしていたら、パパ行くよ、遅れるよと子どもたちの元気な声が玄関から聞こえてきた。
「おぅ、すぐに行くから靴を履いて待ってろ」
背凭れに掛けてあった上着を肩に担ぐと、すやすやと寝ている陽葵の寝顔を覗き込み、優しく微笑みながら頬っぺをそっと撫でてくれた。
「じゃあ、行ってくる」軽くキスをしてくれた。じっと見詰められ、
「顔に何か付いてる?」
「あぁ、ご飯粒が付いてるぞ」
「え?嘘」
ドキッとして頬っぺに手を伸ばすと、
「嘘だよ。本当はご飯粒じゃなくて海苔だけどな」
悪戯っぽい笑みを浮かべながら口の端をぺろりと舐めると、次に手の甲を掲げもたげられて濡れた舌でべろりと舐められた。
その仕草がぞくぞくするくらい色っぽくて。見惚れてしまいドキドキしてしまった。
「朝っぱらラブラブでいいですね」
橘さんが部屋に入ってきた。
「いいだろう」
ニヤリと口角をあげてどや顔をする彼。
「一太くんたちを待たせておいて呑気なものですね」
「それを言うならマイペースといってほしいな」
橘さんに何を言われても彼は動じなかった。それどころかすこぶる機嫌が良かった。
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