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美形は眩しいから離れて見てるくらいが丁度いい
高校1年目の春。
出席番号順、真後ろの席になった奴は、俺と同じ名字の男だった。
但し、同じなのは読みだけ。
そいつは『榊 礼也』なんてちょっとカッコイイ漢字の列 びで。
俺は『坂木 圭』
なんとも平凡な文字列。
しかも、俺に遅れて席に着いたそいつは、おんなじ男の俺をもってして、思わず見入っちゃうくらいの美形サマだった。
◆
「坂木くん?」
「っ‼……あ、え?…俺?」
背後から声を掛けられて振り返る。
「あれ? 坂木君じゃなかった?」
「…ううん。……坂木です」
「そっか。よかった」
男はふわりと笑った。
「───!!」
ふぇぇっ…!
ナニこの人の笑顔、めっちゃキラキラ眩しいんだけど!!?
いいの!? 一般人がこんなに煌めいてていいの!?
「俺もおなじ“サカキ”なんだ。よろしくね」
心臓ドキバクが抑えられない俺に気づかないのか、それともそんな反応には慣れっこなのか。
“サカキ”は整いまくった顔にキラキラの増した笑みを乗せ、なんと俺に握手を求めてきた……!
……えっと、でも、握手…って………?
公立中学には無かった文化だから、ちょっと戸惑いつつ差し出された手を握り返す。
握手って、手ぇ繋いで2〜3回ブンブンすればいい…のかな……?
確かテレビで見たおじさんは、そんな風にしてたような……。
「んと……、よろしく…?」
これでいいのかな…?
「うん。よろしく」キラキラ
……いい…みたいだ。多分。
キラキラ度がアップした。
それにしても、この人…、なんだろ……。美形のクセに…って言っちゃアレだけど……。
ちょっと気障?で眩しすぎるわりに、チャラい感じ全然ないし、嫌な感じもしない。てか、むしろ なんだかイイヤツっぽい…?
切れ長の目の美形で、背も高いし、爽やかキラキラ。間違いなくモテ男。
目がおっきい以外は平凡な、黒目黒髪地味低身長、女子とは無縁の俺とは正反対。
光の下の住人と、陰でひっそり暮らす俺。
モテ運動部(多分)と帰宅部ゲーマー。
普段なら絶対関わり合いにならないようなタイプだけど。
まあ、向こうから話しかけてきてくれたんだし、同じ名字って縁もあるし、よろしくするのも吝 かじゃない。
って言うか、逆にこの眩しい『榊くん』は、名字がおんなじって理由だけで、仲良くしようって相手が俺なんかで構わないんだろうか……。
しかも、厳密には同じじゃないし。
「あの……さ」
「ん?」
美形くんってのは、小首を傾げるだけでキラキラ音がするもんなんだな……。
「字が…違うじゃん…?」
「“サカキ”の漢字?」
「うん。………漢字、そっちのがカッコイイ。名前も、確か…礼也 …って言ったっけ?」
「うん」
「ほらカッコイイ。俺、ただの 圭 だもん」
「圭も良いと思うけどな。それに、格好いいって言ってくれてるトコ なんだけど……、なんだか俺の名前、厨二っぽくない?」
パラリと取り出されたのは、校門で配られたクラス分け表。
『坂木 圭』の下に並ぶ『榊 礼也』の三文字。
平凡の下の、その文字列は………
「……ぷっ。確かに。少年漫画のライバルキャラっぽい!」
「あっ、笑ったな」
「クールなイケメンで、女の子に王子って呼ばれてキャーキャー言われてる系の!」
「もう、バカにして」
そんなこと言いながら、拗ねてる顔すらカッコイイ美形に、世の中の不公平を訴えたい。
「褒めてんのにぃ」
倣って拗ねてみせるけど、やっぱりなんか違うんだよなぁ……。顔?キラキラ?
「褒めてるって……、じゃあ坂木くんからは俺が王子なクールイケメンに見えてるってこと? ……んー。クールなイケメンって…、こんなかな?」
キラーン☆
「っ………!!」
ほら! わざと格好付けてみせたポーズでさえも、人の常識を超えるカッコ良さ。
このまま直視してたら、同性 相手にガッツリ赤面しそうだわ、俺。
なんでもないフリしてないと、コイツ男が好きなんじゃ…って疑われそうだ。
「えと…、クールはわかんないけど、イケメンだよね。イケメンてーか、美形過ぎて目がチカチカするレベル」
「そっか…。惚れちゃった?」
「惚れてはない」
惚れてはない。……けど、ドキドキする。
美形がさ、机に置いた手にあご乗せて、下からキラキラ覗き込んできて……
持て余した方の指先で、喉元こしょこしょって擽られてみ?
ドキドキしない方がおかしいから! 流しちゃえる人の方が絶対特殊だから!
この人、相手の性別とか気にしないのかな!? これが同性に対する接し方か!?
なんなの、美形サマの行動&距離感!! 男だろうが妊娠するわ!!
「坂木君もね、可愛いよ」
「ふぇぇっ…!?」
「あはは、赤くなった」
しかも……なんで突然 爆弾落とすかなあ!?
自分の顔の影響力! 正しく理解してて!!
美形怖い!!
「もーっ、変なこと言って揶揄 うな!」
「えー?揶揄ってなんかないのになぁ。心外」
あーっ、もう! 顔が熱い!!
「とにかくさ、榊の“榊”のがカッコイイじゃん! “坂に木”の俺より、って話!」
「そう? じゃあ、将来、同性婚出来るようになったらうちにお嫁さんに来ちゃえば? 俺と同じ“榊”になれるよ」
「っっ!? お……まえ、凄いこと言うな………。てか、榊は俺が嫁でいいの? 名前のみならず、顔も中身もちょー平凡なんだけどっ」
「平凡じゃないよ。圭ちゃん可愛いから大歓迎。圭ちゃんこそ俺でいいの?」
「圭ちゃんて………」
軽いな……。
なるほど。冗談か。
そう云う言葉遊びな。
分かりました。乗ってやるよ。
「礼也、俺でいいの?ってさ……、お前 自分がどんだけカッコイイか理解してないの?」
「俺 格好いい? ふふっ、嬉しいなぁ」
いや嬉しいって…! お前レベルなら余裕で言われ慣れてる言葉だろうが。喜ぶな。
ほら、お前がムダにバラ撒くキラキラの所為で、今一人の女子が足元から崩れ落ちたぞ。
「……つか、俺から無理とか言ったら女子に殺されかねないんだけど」
なあ、気付いてますか? 榊くん。
さっきから君に向けられてるロックオンの数々に。
ついでに、俺に向けられた「何故あいつに」って言いたげな白い目に。
「じゃあ、断る理由はないよね。圭ちゃん、結婚しよう!」
「はいはい、結婚ね。法律変わったらな」
「やった! 約束だよ」
でも、キラキラの発生源は周囲の反応なんてお構い無しで。
キラキラの笑顔の上にポンポン花まで咲かせて。
ちょっと抑えてくんないと眩しくて目、開けてらんない。
キャーッって聞こえるのはきっと、礼也の流れ弾もとい流れ笑顔に当たっちゃった女子たちの悲鳴だ。
そんな笑顔を真正面から一直線に向けられてる俺。
赤くなんなって方が無理って話だ。あちーあちー。
美形の眼力。熱い視線に居た堪れなくなって、顔を逸らして胸元を弛める。
「………圭ちゃん、俺を誘惑してくれるのは嬉しいんだけど、ここだと他の人にも見られちゃうから……」
「ん? なにが?」
「なにが、じゃなくて。他の野郎共に目付けられたらどうするの」
「は……?」
視線を戻すと、なんでかムッとした顔を向けられた。
いやはや、美形サマは、不機嫌な表情も美しいんですね。
「だから、他の奴まで誘惑しちゃダメだって」
「えっ…、なに??」
「浮気厳禁」
唐突に伸びてきた手に襟元をぎゅっと寄せられて、ボタンを一番上まできっちり掛けられた。更にネクタイもキュッ。………謎。
「今日から俺たち恋人同士なんだから、一切余所見しないように。わかった?」
「は?……え………と……、それ、マジなやつ…?」
「何言ってるの。結婚前提のお付き合いしてる相手がいるのに、つまみ食いしていい筈がないだろ。男だけじゃなく、当然 女の子もカウントします」
「…………ですよねぇ………」
って………
冗談じゃなかったのか────!!!
◆
そんな訳で俺は、高校入学と同時に、キラッキラの友達と将来の伴侶とを一気にゲットしたらしい。
突拍子も無い成り行きで恋人関係になっちゃったけど、なんだかまあ…その……、満更でもないって言うか………
この笑顔を独り占めできんのも悪くない話なんじゃないかなぁ、なんて………。
願わくば、この美形の興味や好意がいつまでも続きます様に………とか…?
「圭ちゃん、なんか食べてる?」
「あ、おー。飴舐めてる。お前もいる?」
「うん、ありがとう。
……はっ…! これは……、いちごミルク………?
っっ───圭ちゃんといちごミルク!?
どっ…、どうしよう?! 圭ちゃんがかわいすぎて辛いっっ! 今すぐ抱き締めたい!!」キラキラキラーン
「ふわあぁぁっ…!? くっつくな! はーなーせ〜〜っっっ!!」
あ、やっぱりさっきの無し!ムリ!
礼也のキラキラ半端ない!
くっ……、目が開かない…! 間近は辛い!
美形おそるべし……っっ!!
俺は気付いた。お付き合い早々に、気付いてしまった。
今、声を大にして、それを世界中に訴えたい。
礼也の隣に立ち続けるなんてムリだ。
正面なんて、もっとムリ! 視力落ちる!
俺は悟った。
すなわち───
美形は眩しいから、離れて見てるくらいが丁度いい!!
◆おわり◆
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