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たぶん、きみを、すきになる
SIDE 大石龍臣
前の職場は交通アクセスが良い地域だったので自家用車なんて必要なかったけど、この春から赴任したあたりは駅まで徒歩で1時間くらいかかるしバスも一日4本しかない。もちろんクルマでもいいんだけど、もっと気軽に使いたかったからバイクを買うことにした。町に一件しかない自動車整備工場兼バイクショップは職場のすぐ近くだし、いつも愛想のいいオヤジさんも好印象だったから。
「こんにちは」
「やあ大石さん、おつかれさん。どうしたの」
「やっぱり、バイク買おうと思って」
「おお、それはありがたいな、この辺で乗るんならオフロードもいいんじゃない? 中免は持ってるのかな?」
「中型免許はあります。でも仕事でしか乗ったことが無いからバイクについてはまったく知識がなくて」
「へえ、だったら、おーい、遼太郎!」
「はーい」
リョウタロウ?
そう呼ばれて出てきたのは、俺より少しだけ背が低くて、明るい長めの髪を後ろで縛った、青いツナギ姿の若い男性だった。
「こんにちは」
「こんに、ちは」
濡れて身体に張り付いた白いTシャツ、頬に付いた黒い汚れはオイルのそれだろうか。手の甲で汗を拭う仕草に目を奪われた。
「こないだ言っただろ? 先月からそこに配属された大石さん」
「ああ、」
「バイク買ってくれるんだって。相談に乗ってあげてよ」
「もちろん、青木遼太郎 です。よろしく」
袖を腰で巻いたツナギのお尻のあたりで、ごしごしと拭かれた右手を差し出される。
「大石龍臣 です。宜しくお願いします」
俺も慌てて右手を出した。
そして一目ぼれをしてしまったんだ。
SIDE 青木遼太郎
つまんねえよな、こんなクソド田舎、なんていつも思うけど、出て行こうとまでは思わない程度に愛着がある。
ガキの頃からバイクが好きで、近所にある自動車整備工場がおれの遊び場兼勉強部屋だった。店主の今津さんはおれの死んだばあちゃんの同級生で、親に捨てられたおれを可哀そうに思ってか何かとよく構ってくれていた。中学生のとき、ヤンキーになりかけたおれを泣きながらボコボコにしてマトモに戻してくれたことには今でも感謝している。高校を卒業したらちゃんと働きたかったおれは工業高校で自動車整備を学んで、いまでは今津さんの助手になっている。
「おーい、遼太郎!」
「はーい」
ハイエースの下に潜っていると今津さんが大声でおれを呼ぶ。サービスクリーパーから出ると油まみれで汗臭いツナギから腕を抜いて腰で縛った。まだ5月だってのに、ふう、暑っちいな。
「こんにちは」
「こ、んにちは」
今津さんの横には、真新しい制服を着て、
「こないだ言っただろ? 先月からそこに配属された大石さん」
「ああ、」
「バイク買ってくれるんだって。相談に乗ってあげてよ」
「青木遼太郎です。よろしく」
涼しげな笑顔を浮かべた若い警察官が、背筋を伸ばして立っていた。
SIDE 大石龍臣
かと言って好きになったヒトが俺と同じようにゲイだなんて、奇跡のような偶然はまず起こらない。だから俺はいつもこっそりと恋をして、勝手に静かに失恋している。今まで、それを何度となく繰り返して過ごしてきた。それでも恋しい夜は身体だけの相手を作って気持ちをごまかしたり。そりゃこんな田舎だとそういう相手を探すのは大変だけど。
「車種って、決めてたりする?」
「いや、それがまったく」
「免許は?」
「中型です」
「じゃあいろいろ見てみようよ。最初の一台か。楽しみだな」
あれから、親切な青木くんは無知な俺にいろいろなアドバイスをしてくれるようになった。メーカーによって違う特性や簡単なメンテナンスに始まり、同年代が少ないこんな場所だからそのうちにバイク以外の話もするようになって。好きなバンドやゲーム、それに贔屓のスポーツチームのこと。驚くほどに好みが似ていたから、ひと月もかからずにお互いの家で宅呑みできるほどにも仲良くなっていて。でも、
……さっきから連続して入ってくるラインの通知音が気になって仕方がない。
「見なくていいんですか?」
「うん、いいや」
「でも、ずっと鳴ってますよ、俺は気にしないんで。急ぎの用件かもしれないし……」
「元カノだから」
「あ、」
気まずい空気感、ぴよぴよと鳴りつづけるヒヨコの声は止みそうにない。
「あーもう……ごめん、ちょっと電話してくる」
「はい、いってらっしゃい」
曇りガラスの引き戸の向こうで青木くんが何かを話している。ぽりぽりと頭を掻く仕草。通知音を青木くんはスルーしていたというのに、俺はわざわざ気付いて突っ込んで、勝手に傷ついている。仲良くなるのは嬉しいけれど、そういう意味ではちゃんと自重しないと。だって青木くんはゲイじゃない、
「ごめん」
「ううん、全然」
「難しいな、レンアイって」
「……そう、で、すね」
「大石さんは、彼女は?」
「え?」
「恋人、いないの」
いつもならちゃんと聞き流せるこんな質問なんだけど。
「うん、いません」
「じゃあさ、今度合コンしようよ。町役場のとなりにある山田病院のナースから誰か紹介してって言われ、」「ごめん」
もうこれ以上、このままなのは危険だと判断する。多分だけど、少し距離を拡げた方がいい。離れるなら早い方がいいに決まってる。だって、俺はもうかなり青木くんを好きになっているから。
「俺、ゲイだから」
「あ、」
想定内のリアクションと少し間の抜けた返答。こういう反応をされるのは慣れているし、むしろ脈がないことに早く気付けて安心する。
「そうだったんだ」
「引かないの?」
「別に」
だって大石さんは大石さんでしょ、そう言って青木くんは俺の向かいにまた座る。さっきとまったく変わらない距離感。まだ主張を始めるヒヨコ。
「そっか」
青木くんが、そうなんだ、ともう一回呟いて、冷めてしまったから揚げを指先でつまんで口に入れた。短く切り揃えられた爪の先はオイルで黒くなっている。俺は梅味のチューハイの残りを一気に喉に流し込んだ。気の抜けたチューハイなんて甘ったるいだけでちっともおいしくない。たぶん、青木くんが飲んでいるそれも、きっと同じはずだろう。
SIDE 青木遼太郎
驚いた。なんとかして平気な風を装ってはいたけど、おれは明らかにめちゃくちゃ動揺していた。さびしそうな表情でゲイだと言った大石さんの顔が頭からずっと離れない。おれはちゃんと対応できていたんだろうか。もしかして、おれの反応で大石さんを傷つけてはいなかっただろうか。あれからそんなことばかり、ずっと考えている。
「ため息なんて初めて見るぞ、おい」
銜えたばこで、新聞を開く今津さんが毒づいてくる。
「ねえ、今津さん」
「んん?」
「今津さんて、なんで結婚しなかったの? 子どもだって好きでしょ?」
今まで聞いたことはなかったけど、もしかしたら今津さんも。
「好きな女がいたんだけど、出会った時にはもう他の男のモンだったからな」
だよね。そんなの、決してよくある話じゃあない。
「俺ってわがままだからさ、一番好きな女としか一緒にいたいと思わなかったってわけ」
「だから誰とも結婚しなかったって?」
「そそ。まあ、もしその女以上に好きになれるやつが現れていたら、そいつと結婚していただろうけどな」
「そ、っか」
「なんだよ、急に。好きなヤツでもできたのか?」
やたらと気の合う新しい友人。たぶん、大人になってから初めてトモダチになれた人。それだけのことだけど、なんとなく他のダチとは違う感じがしていた。用がなくても会っているし、特に話題が無いのに一緒にいても心地いい。ふたりでゴロゴロしながら対戦するスマホゲーム、みかんの皮の剥き方で言い合いになったこともあったけど。好きか嫌いかと二択で聞かれたとしたら。
「どうだろ」
「なんだ、それ」
「なんかさ、今までと全然違うんだよな」
全然、どころじゃない。じゃあ、もしも大石さんが女だったら? そう考えてみるけど。……いやそういうことじゃない。大石さんは大石さんだ。
「バカの癖に小難しいこと考えてんじゃねえよ」
そうなんだよね。今までの彼女のことを思い浮かべてみる。あ、こいつかわいいな、とかそれぐらいの感情が『スキ』ってことになるのか? そしたらみかんが好きと同じだぞ。いや待て。いくらみかんが好きでもみかんとセックスしたいわけじゃない。
ん? おれは大石さんとセックスしたいのか? 男同志だぞ?
「誰のことを言ってんのかは、知らねえけどよ」
ばあちゃんがいなくなってしまった今でも、ときどき、ほんのごく珠にだけど、今津さんは保護者ヅラしておれに言う。
「一緒にいたい、て思うことは好きってことなんじゃねえのか」
そんなにカンタンなことか? 好きか嫌いかって。
好きだからヤりたい、気持ちよくなりたい。だからセックスするんだ。でも相手も気持ちよくさせてあげたいって思ってるし、それは絶対に排泄欲だけなんかじゃない。
「昔から言うんだよ、馬には乗ってみよ、人には添うてみよ、ってな」
「なあ、今津さんの好きだった女って、」
もしかして、だけどさ。
「ひょっとしておれのばあちゃん?」
「さー、どうだろうな」
今津さんは息をいっぱい吸ってからおれの顔にふうーっと煙を吹きかける。「くっせ」
「おまえが誰か教えてくれたら、教えてやるよ」
そして黄色い歯を見せてにやっと笑ってから、おれの頭をわしわしと掻いた。
SIDE 大石龍臣
驚いたことに、ゲイだとカミングアウトしてからも青木くんとの関係は変わらなかった。暑くなり、寒くなり、そんなふうに季節が一巡りしても月に何度かは一緒にご飯を食べて、どちらかの家で少しだけ酒を呑んでいた。俺は当然「好き」という気持ちにすっぽりと蓋をしたまま青木くんのそばに居続けた。告白なんてするわけない。青木くんは理解があって、俺たちはただのトモダチ。青木くんの恋路を邪魔する気はないと、自分にそう言い聞かせながら。ただ、青木くんは彼女の話も合コンの話も一切しなくなっていた。
そして、次の俺の休みに遠出しようかという話になって。
「……なんていいと思うんだけど」
「うん、俺も好き。断然みそラーメン派」
「OK、じゃあ決定。朝早く出たいし前日からおれん家泊まる?」
「え、」
「あ、いや、イヤならいいけど、」
「いや、イヤとかじゃなくて、」
あたふたする俺を見て青木くんはふうん、と笑って新しい缶チューハイを開ける。弾けた飛沫が俺の瞼まで届いた。
「痛って、」
「あ、ごめん、」
飛んできたライムの果汁が目に染みて思わずぎゅっと瞑った。青木くんが指先で俺の瞼を拭う、だったはずなのに、気づくと俺の唇には青木くんの唇が触れていて。
「え」
……これは『キス』だ。事故じゃない。故意に唇に触れている。
触れただけの唇は五秒くらいそのままで、それから音も立てずにゆっくりと離れていく。
「青木くん、」
「はい」
「これはキスだと思うんですが」
「おれもそう思うよ」
「なんで?」
「いや、タイミングかなって」
「なにそれ……、酔っ払ってるの?」
「いやぜんぜん。お酒のチカラを借りたのは事実だけど」
「チカラを借りたとは?」
「だからずっと大石さんにキスしたいな、と思ってたからチカラを借りたってコトだよ」
「……つまり、それって」
青木くんは俺の手を握り、指先にキスをする。
「青木、くん」
抵抗しないでいるとその指先が口内へ導かれ、甘噛みされる。ちろちろと舐められ強めの力でしゃぶられ、蹂躙される。間違いなく青木くんの舌が俺の一部を味わっている。
「ねえ、青木くん、」
「嫌ならやめるけど?」
指から唇を外した青木くんが俺の手を握る。熱を帯びた目で見つめてくるから何も答えられないでいると。
「スキあり」
手を握ったまま、あっという間に唇を塞がれた。でもそれはさっきまで指先を弄んでいたものとは違って、そっと触れるだけの優しいキスで。
「俺、ゲイだって言いましたよね」
「うん」
「こういう冗談は笑えないです」
「冗談でキスなんてしないけど」
真顔でそう答えられて混乱する。
「それって」
「つまり、大石さんに触りたいってことですよ」
……え?
「だから、スキあり過ぎだって」
また一度、触れるだけのキスをする。
「俺、ゲイだって言ったよね?」
「さっきも聞いたよ?」
「触りたいってどういうこと?」
「そのまんまの意味。大石さんと一緒にいると楽しいし、笑った顔が見たいし、もっと知りたいし、それに、」
「うん」
「気持ちいいこと、してあげたいと思うし」
「……うん」
「だからこれは好きってことで、間違いないんじゃない?」
「……ウソだ」
「ウソ、ってなに? 間違いなく好きだって」
そう言うと青木くんは俺の頬を両手で包んだ。
「ずっと考えてた。それで間違いなく、好きだって」
そして俺にまたキスをする。唇がなんども触れて濡れて、頭がくらくらする。
「それだけじゃダメですか?」
「……ダメじゃないです」
「大石さん、」
「うん?」
「おれが好き?」
青木くんは知ってたんだ。俺が青木くんを好きなことを。ずっと考えてた? 俺のことを?
「おれが好き、だよね」
「……はい」
「じゃあ、好きだって言って?」
「……青木くんが好き、です」
「おれも好き。大石さんが好きです」
「……うん」
言葉が出ない。なんて応えたらいいのかわからない。でもとにかく、
「めちゃくちゃ、うれしいです」
「よかった。それと、あと、教えて欲しいことがあってさ」
「なにを?」
「大石さんて、さ、」
入れられるほう? なんて耳元で甘い声で囁く。俺がそうだと答えると、じゃあ、もう遠慮しないから、と青木くんは笑ってキスをして、俺の唇をこじ開ける。温かくて分厚いそれは少しだけオイルの匂いが混じる、息苦しくなるくらいにちゃんとしたキスだった。
SIDE 青木遼太郎
「青木くんのそれ、キレイだけど結構古そうだよね」
約束した休日、その日は結局、今津さんの店の前で待ち合わせをした。大石さんはおれのバイクを見て目をキラキラさせている。
足りない脳みそと少しの恋愛経験から導き出したおれの答えは『大石さんが好き』だ。それに好意を抱かれているという自信も、もちろんあった。正確には8割くらいだけど。そして気付いてしまったからには、もう悩んだりする時間はもったいないとおれは思った。だから精一杯の勇気を振り絞って、好きだ、と告げた。なのに、この間はあんなにキスしたっていうのに、大石さんはおれの顔をみても全然平気な顔をしている。おれなんて今日のことが楽しみ過ぎて夕べはうまく眠れなくて、すっかり寝不足だっていうのに。
まさかなかったことになんてしてない、よ、な。
「うん、ヤマハの古いバイク。RZ250って言って、確か発売は1980年かな?」
「へえ、すごい! そんなに古いんだ」
「死んだ親父が昔乗ってたのがこのバイクらしくって、すっごく探して先月やっと手に入ったんだ。かなり傷んでたから結構イジることになっちゃったけど」
「ふうん」
初めて店に来た時にはオフロードとレーシングの区別すらついてなかったのに、今じゃあエンジンからマフラー周りまで興味津々で覗いてるんだもんな。おれよりふたつ年上のくせに、おれより6センチも背が高いくせに、こういう時の大石さんはとんでもなく可愛く見えるから参ってしまう。触れた指先はごつくて少しカサついていて、柔らかい女の子のそれとは全然違うけど。
「いい音するね。あ、ヨシムラだ」
「うん。でも違法改造はしてないから大丈夫だよ。あとでちょっと、乗ってみる?」
「……いいの?」
「もちろん、じゃあ走りやすい道になったら交代しよう」
大石さんが乗るヴェルシスのテールを見ながら画策する。あれをなかったことになんてさせないからな。
SIDE 大石龍臣
見通しのいい海岸線の国道に出て青木くんとバイクを交換した。青木くんのヤマハは軽くスロットルをひねるだけで250CCとは思えないほど強い馬力を感じる。スマートな車体にスタイリッシュな赤と白のカラーリング。なのに、初めて乗った2ストロークエンジンは俺のバイクとは全然違っていて。太い何かで下からドンドンと突き上げられる感覚。回転数が変わるたびに大きくなる振動、力強いピストン、ヘルメットのなかで喉の奥から声が漏れた。なんだよ、これ。このバイクはだめだ。身体が、下半身が反応してしまう。やばいって、絶対だめだ、まだ5分も走ってないけどこのままじゃもう。迫ってくるものをなんとか遠くへ追いやって、青木くんに止まりたいと合図を出した。
ゆっくりとスピードを落としハザードを点けて脇に寄せると、青木くんも俺の後ろに同じように左端に寄せる。エンジンを切ってヘルメットを脱いだ。大きく深呼吸する。前は張りつめていてキツいし、後ろもすっかり反応している。ため息のつもりで出した声は明らかにそんな色ではなくて。はあ、サイアクだ。
振り返ると同じようにヘルメットを脱いだ青木くんが俺をみて、にやにやしている。
「イきそうだった?」
「……へ?」
「2ストってさ、慣れないとめちゃくちゃ気持ちイイんだよね。性的な意味で」
「青木くん、もしかして……わざと?」
「たぶん、大石さんならイイ反応してくれるんじゃないかなって」
「……ちょっと、めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど?」
「ほんとだ」
そう言うとバイクを降りて俺に触れる。「ガッチガチ」
それからどうしたって?
「どうしてくれる?」
「全力で責任取らせてイタダキマス」
交通量の少ない海岸線。この先にはかなり寂れたホテルが一軒。バイクが二台で入っていったって気にする人なんて誰もいない。
ドアを閉めた途端に青木くんは俺をぎゅうっと抱きしめる。すげえ好き、なんて小さく呟くから、応えるべき言葉がちっとも見つからなくて。
「ねえ、そろそろさ、」
「ん?」
「遼太郎、って呼んでよ、龍臣さん」
そんな健気な台詞をはにかんで言うなんて、狡い。
「遼太郎、くん」
見上げてくる熱い視線が眩しくて目を逸らすと、ぺろりと唇を舐められた。
「昨日さ、仕事中の龍臣さんを見たよ。制服姿がすっげえかっこよかった」
「おだてたって、なにも奢らないよ」
「おれの前だと、いつもこんなにかわいいのにな」
「ったく、君はいつも一言多いです」
遼太郎くんの唇を濡らすのが俺だけだといい。
「龍臣さん」
「なんですか?」
「今度さ、制服プレイしようか、おまわりさん」
「調子に乗るな、クソガキ」
好きな人に好きになってもらえるなんて奇跡は、そうそう起こるものじゃない。
「龍臣さんのこと、全部めちゃくちゃ好きだから」
遼太郎くんは俺の名前を何度も呼ぶ。視覚も触覚も聴覚も、ぜんぶが遼太郎くんでいっぱいになっていく。
「だから教えてよ。龍臣さんのことをもっと」
遼太郎くんのキスは、今日もオイルの匂いがする。
「もうやめて、ていうぐらい教えるよ。いろいろと、ね」
だから大事に、ゆっくり好きを続けていけたら、それだけでいい。願わくば。このままずっと。
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