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⑤嫁? 夫? 同居生活のはじまり
なぜこんな面倒くさいことになったんだろう。
それもこれもすべて月夜が温厚すぎるからいけないんだ!!
もうっ! どうすればいいんだよっ!!
「花音?」
503号室。玄関で立ち尽くし、頭を抱えてアレコレ悩んでいたら、月夜は俺の偽りの名を呼んだ。
振り向けば、月夜が心配そうに俺を見つめていた。
今日の彼の服装は、初めて会った時に着ていた袴ではなく、黒色のシャツにデニムパンツといった、男だった頃の俺と同じようなラフな格好だった。
月夜は何を着ても威厳と儚さがある。
儚いって思うのは、蜂蜜色の腰あたりまである長い髪と象牙色の肌のせいだろうか。
威厳を感じるのは……やっぱり、華道家の次期当主という名を背負っているからかもしれない。
対する俺の格好は――むしろ見たくもない。
……白のブラウスは……いいんだ。男でもなんとか着られるから。
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