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第1話 俺はそんな出会いは求めていない!

 この世の中にはルーチンで生きているやつが意外と多くいる。毎日同じ道を通り同じ店で同じものを買い、そしていつもと変わらぬ時間に家路につく。それが身に染みついて、繰り返しの日々に気づいていない人もいるのではないかと思う。例えばいま目の前にいるこの人とか。 「872円です」  週に三回。ペットボトルの紅茶、惣菜パンを二つに煙草一箱。毎回同じものを同じだけ買っていく。週に三回も同じものを食べて飽きやしないのかと思うのだが、まあそこは俺の知ったところではない。 「最近寒いですよね。風邪ですか?」 「えっ?」  会計を済ませたものを袋に詰めながら、思わず口から出た言葉にしまったと手を止めてしまう。案の定、目の前でマスクをしたその男は上擦ったような声を上げた。その反応にどう切り返すべきか悩んだが、俺はなにごともなかったように袋に詰めたものを男に差し出した。 「ありがとうございました」  しかし袋の持ち手をそちら側へ向けるものの、目の前の男は俺の顔をじっと見ながら動かない。不思議に思い見つめていると、少しマスクをずらして俺に向けて声をかけてきた。 「……あ、あの」 「はい?」  意図せず見つめ合う形になるが、なにが悲しくて自分より一回りは年上に見える男といつまでも顔を突き合わせていなくてはならないのだ。男しか駄目なゲイの俺でもありえない。なるべく不自然さが出ないように営業スマイルを貼り付ける。 「なにかご用ですか?」 「あの、笠原さん。今度食事に付き合ってください。いまお相手いませんよね?」 「は?」 「三軒隣の部屋に住んでる、鶴橋と言います。付き合ってください」  男の言葉に思わず目を見開く。三軒隣の住人は俺が朝帰りするたびにじろじろ見てくる黒縁眼鏡のダサ男。だが目の前にいるのは、目鼻立ちのはっきりした割と整った顔。大して好みではなかったし、明らかにノンケだったのでスルーしていた。 「えーと、あの、なに言ってるのか、よくわからないです。人違いじゃ」 「明日、お返事いただきに来ます」  やばい、これは変なのに引っかかった。やたら真剣な目にひきつった笑いしか浮かんでこない。

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