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第33話 こんな展開は予想をしてなかった。

 とっさに顔を背けようと思ったら後頭部を押さえられる。こいつ絶対に口開いたら舌を入れてくる気だ。思いきり文句を言ってやりたくても、迂闊に声を出せない。なんでこうなるんだよ! 「笠原、さん?」  身をよじって光喜から逃れようともがいているとふいに声をかけられた。唯一動かせる視線を声の先へ向ければ、外灯に照らされた鶴橋がそこに立っている。その姿に一瞬心臓がひやりとした。 「ちょっと、光喜さん!」 「……ああ、随分と遅いご登場だね」  俺と目が合うと鶴橋は慌てた様子で光喜の肩を強く引く。その手にようやく光喜は俺の唇を解放して後ろを振り返った。緩慢とも言える動きで振り返った光喜に鶴橋はあからさまに眉をひそめる。けれど光喜はその顔を鼻で笑うと俺を抱き寄せた。 「勝利は俺がいいんだって」 「なっ! ……んぐっ」  いきなり勝手なことを言い出す光喜に文句を言おうとしたら、それを遮るように顔を肩口に押しつけられる。押さえつけるように頭を抱き込まれてもがくことしか出来ない。 「それよりさ、いままでなにしてたの? ねぇ、その人誰?」  鶴橋に視線を向けていた光喜の声がふいに一段低くなった。その声に驚いて顔を見上げるとやけにキツい目をしている。先ほどの言葉も気になり鶴橋にも視線を向けるが、光喜の言うその人、の姿はいまの角度からは見えなかった。 「そんなことより、笠原さんを離してあげてください」 「そんなこと? そんなことじゃないでしょ。勝利、あんたから連絡がないって泣いてたよ」 「え?」 「いまってそうやって女と遊んでる場合なの? いまは一番、勝利に時間を割く時じゃないの? あんたにとって勝利はその程度ってこと?」  光喜の吐き出す言葉にまた心臓が縮み上がる。ふっと離された手に促されるように身体を持ち上げれば、鶴橋が立っているのがまっすぐに見えた。それと共にその後ろに立っている人も。 「冬悟、その子たち知り合いなの?」  小さく首を傾げて俺たちを見下ろすのは、ロングコートの上からでもわかる豊満な体つきをした女の人。目鼻立ちがはっきりしていて、瞬くたびに長まつげが揺れる。  訝しげな顔で鶴橋を見上げたその人は、ごく自然に腕を絡めて身体を寄せた。

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