81 / 280

悪魔の証明

敬吾は久しぶりに台所に立っていた。 店が混雑したらしく、逸から遅くなると連絡があったのでこんな時くらいはと夕食づくりを請け負ったのだ。 しかし、味も見た目も逸に出して恥ずかしくないものはほとんど作れないーー逸は恐らく気にしないだろうがーーので、献立はカレーとサラダ、顆粒コンソメを使ったスープである。 「ただいまっすー、うわ良い匂いする!」 「お疲れ。まあ、案の定のカレーですよ」 「敬吾さんの手料理とか、なんでも嬉しいですよ」 思った通りの発言をしつつ嬉しげに敬吾に抱きついて、その肩の上から逸が鍋を覗く。 と、見事にその腹が鳴った。敬吾が噴き出す。 いくら口で嬉しいとは言われても、こうも率直に体現されるとやはり敵わない。悪い気はしなかった。 「んじゃ飯にするか」 「やったー、……あ、今日敬吾さんにお客さん来てましたよ」 「え、誰?」 「名前聞いたら大した用じゃないからって言って帰っちゃったんですけどね。すげー背の高い……」 「ああ、後藤か」 「それだけで分かるんすね」 白米をよそいながら、敬吾は久しぶりにその顔を思い返していた。長いこと会っていないその男は、高校までの同級生だった。 逸をして一言目に長身だと言うくらいだから実際上背はかなり高く、そんな人間は敬吾の知り合いには一人しかいない。 そしてその体格が、悪い方向に活きてしまった人物でもあった。 「なんだろな、しばらく会ってねえけど。メールとかじゃなくいきなり店来るって」 そう言えば、自分のバイト先をどこで知ったのだろうーー?と敬吾がぼんやり考えると、逸はそれを複雑そうな顔で眺めていた。 「……友達ってほどでもない感じですか?」 「やー、友達……、腐れ縁?付き合いは長いんだけど遊ぶだなんだはほとんどしてないな……」 特に、高校以降は。 こちらも少々複雑な気持ちになりながら敬吾は皿を運ぶ。 逸もそれに続いてテーブルにつき、敬吾のその表情を盗み見た。 「?なんだよ」 「いえ、なんでもないです。いただきまーす」 「……?いただきます」 「んー、うまいっすー」 「カレーだからなあ」 余程のことがなければ誰が作ってもこんなものだ。 そうは思うものの、とりあえずその余程のことにならなくてよかったと、敬吾は苦笑しつつ幸せそうな逸の顔を面映い気持ちで眺めていた。

ともだちにシェアしよう!