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褒めて伸ばして 3

何事か諦めたようなため息をつく敬吾に、逸は恐る恐る問いかけた。 敬吾の鋭い視線が返ってきて思わず姿勢を正す。 「ーーもし良い子出来たらご褒美をやる。」 「!」 ぴょこんと正座した逸が可愛らしかったが、敬吾はなんとか喉元で微笑みを殺してやった。 「ご褒美!って………!!?」 そんなもの敬吾も考えていない。 「なんか好きなの言ってみろ、それに応じて期間を設定する」 「なるほど」 得心が行ったように瞬きをして、逸は考え始めた。 思いの外乗り気なようで敬吾は安心する。 「ハイ」 逸が挙手した。岩井くん、と敬吾が促してやる。 「青か……」 「50年。お前ぶっ殺すぞ」 「オナニー見せてくだ」 「30年。お前さあ、焼肉おごれとかそーゆーこと言えねーの?」 「そんなもん、むしろ俺おごりますからさせて下さいよ」 「……破綻しすぎだろ」 やはり罰は無意味だったかと再確認して敬吾は腕組みし、また考え込む逸を見下ろした。 「…………じゃああの、コスプレ………とかは」 「………………。着るだけ?」 「や、プレイ……」 敬吾が盛大にため息をつく。 「………………ものによる。」 「じょ、女装ーー」 「っはーーーー…………。具体的に」 呆れたように敬吾が言うと、逸は品定めでもするような視線で敬吾を炙った。 口元に手を宛てがい、唇をなぞりながら。 敬吾は背中が冷えるのを感じていた。 「……普通の、OLさんみたいなかっこでいいです。綺麗系の」 「ーーーーーー」 逸の声が低く掠れている。 これはもう、とっくに欲情していて、その頭の中ではきっとその格好をした自分が好きにされているーーー。 その視線が耐え難く、逃げるように敬吾がシーツの皺を睨んでいると逸が敬吾を呼んだ。 「ーーー!?」 「何日ですか」 「え…………、っあ、」 すっかり狼狽えてしまった敬吾が勘案するのを、逸はやはり熱で底光りする瞳で追っていた。 「じゃ、じゃあ五週間」 「長いですよ」 「長くねえよ女装だぞ!ほんとは二ヶ月くらいだ、嫌なら他のにしろよ」 「もう駄目です想像しちゃったんで。期待しまくってるんですから」 「……知るかよ……………」 「敬吾さん、三週間は?」 「ダメだ、じゃあ四週間」 「でも………」 声は未だ肉食獣のような獰猛さのまま、逸はふいと寂しげに下を向いた。 敬吾の視線もそれを追う。 「ーーそしたら俺、敬吾さんにひどいことしちゃうかもしれない………………」 「ーーーーーーーー」 呆気にとられて、敬吾はぽかりと顎を落とした。 それをちらりと流し見た逸の目が、生意気でーーーー 「てめっ脅す気かよ!」 「まさか。だって危ないじゃないですか……」 「ーーーー」 本当にそう思っているのかもしれないが、こうも欲情しきった目で睨めつけられていては敬吾としては慇懃無礼、いや、不平等な裏取引でも突きつけられているようにしか感じなかった。 だが、逸の本意はどうであれそろそろここらが落としどころだ。 締め上げ過ぎるのも、結局痛い目を見る。 敬吾がまたため息をついた。 「ーーじゃあ、25日」 「…………………っ」 逸はこの上なく渋い顔をしたが、文字通り喉をごくりと苦しげに鳴らしてその条件を飲んだ。 「今日は一日目に入りますよね?」 「入んねーよバカ!明日からだ!!」 「ちぇー……」

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