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酔いどれ狼
小さいライブハウスを膨脹させるほどの熱気が、分厚いドアが開くと同時に流れ出ていく。
あまりの温度差に気流でも生まれているのか飲まれるように通路に出ると、どこか遠くから呼ばれているような気がした。
が、一時的に耳の機能は何割か失われている。
どこから呼ばれたのか、知っている人間の声なのか、そもそも本当に呼ばれたのかどうかも怪しい。
長く爆音と熱狂に酔い痴れたせいで、耳どころか脳自体が少々呆然としている。
声の正体は早々に意識の外に放り出し小さなロッカーを開けると。
背後からその扉をコンコンとノックされた。
「いーわーいーくん!無視?」
耳の中はざわざわと雑音が満ちているし周囲も興奮まみれの人いきれで騒がしく、はっきりしないその声に聞き覚えはなかった。
が。
振り仰いだその顔は、いくら冴えない頭でも見逃しようがない。
「げ…………」
「げって」
すし詰め状態の人混みの中、逸と後藤の頭がひょこりと一段高い所で向かい合っていた。
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