182 / 280
酔いどれ狼 4
敬吾が髪を拭き拭き浴室から出てくると、携帯が着信を知らせていた。
発信者は、後藤。
怪訝に思いながらも端末を耳に当てる。
「もしもし?」
『あー、良かった繋がった』
「え、何事?」
『今岩井くんと飲んでたんだけどさーーー』
「はぁ!!!!?」
前のめりになるほど驚いて敬吾が絶句していると、しばらくして小さな後藤の笑い声。
「……………飲んでる?岩井が?」
『そうーーーーえ?怒ってる?』
「…………………」
気軽だった後藤の声が神妙に抑えられ、それを遠くに聞きながら敬吾は考えていた。
逸が酒を飲んでいる?
怒っているかどうかは分からないが、いたく衝撃は受けていた。
『敬吾?聞いてるか?』
「……………おう」
『俺が勧めたんだよ、岩井くんは飲まねーっつってたんだけどさ。ごめんごめん』
慌てたような後藤の弁解に、敬吾は思わず詰めていた息を逃がす。
逸が自分から進んで飲んだわけではないらしいことが、いくらか気持ちを軽くした。
『んでさ、岩井くんちってどこ?送ってくわ』
「潰れてんの?」
『んー、そこまでじゃねえけど、一人じゃ無理だな』
潰れてるじゃねえか。
ぱたんと顔に手を当てて、敬吾はまたため息をついた。
何か醜態を晒していなければいいが。
「……じゃあ、俺の部屋連れてきてくれ」
『おぉー??』
「違うって、もともとアパートが一緒だったんだよ」
『へぇー??』
「………住所言うぞ!」
完全に囃し立てている後藤に苛つきつつ用件を済ませ、通話を切って敬吾はまたもやため息をついた。
「飲んだぁーー………?」
怒るべきか心配するべきかも、いまいち分からなかった。
ともだちにシェアしよう!