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酔いどれ狼 9
ベッドの上、自分の肩を押す逸の顔を敬吾は掬うように見つめていた。
やはり酔ってはいるのだろう、逸の表情は余裕がなく既に興奮しきっている。
「岩井、お前大丈夫…………んっ!!」
不調法に指で割り入っておいて、敬吾が鋭く声を上げ肩を縮めても悪びれもしない。
「っあ、…………っちょ、っと岩井、…………っ」
苦しく敬吾が諌めても形ばかりに小さく返事をするだけで、少々乱暴な濡れた音のほうが大きいくらいだった。
「なに、いきなりすぎる、だろっーーんっ!」
「ん……すみません、もう……入れたくて」
「!」
苦笑しながら、逸は久しぶりに敬吾の顔を見る。
それが、限界まで興奮しているくせに優しげで、切なそうでーー
敬吾は言葉を飲む他なかった。
どうしてこうこの男は判断力を鈍らせるのだと、胸中に悪態をつきながら。
その不服そうな敬吾の顔が、自分を甘やかしてくれている時のものだと朧げながら逸は確信していた。
嬉しくて愛しくて爆発してしまいそうだがーー
そのたおやかな喜びを、毒々しい征服欲が侵食していく。
この人にそんな表情をさせられるのも、我儘を聞いてもらえるのも、快楽を刻みつけてやれるのも自分だけだーー。
「ん…………っ」
「敬吾さん、かわいい……」
強引ではあるがそうしていつものように囁く逸に、敬吾は眩しそうに目を細めた。
怖いようで、やはり安心するようで、心がさざめく。
どういう気持ちでいれば良いのか分からない。
かと言って逸に預けてしまうのはーー
ーーきっと溺れてしまう。
「……敬吾さん、入れていい?」
掠れた声で呼ばわれるとやはり背中が震えた。
ほとんど触れられていないだけに、更の肌に熱が走る様を嫌と言うほど自覚させられて敬吾は歯を食いしばる。
「…………っ、どうせ、聞かねえくせに……………っ」
必死に声を引き絞る様子が、どうしようもなく逸の腹の底を掻き立てた。
どんな表情も可愛いが、こうして快楽に抗おうとする顔は格別に好きだ。
「……敬吾さんに、いいよってゆってほしいの」
ーーそれが、完全に溺れて淫らに歪んだところは、もっと好きだ……………。
「…………敬吾さん?」
「っ……………」
「入れていい?」
敬吾の唇を啄みながら、逸は熱い先端をひたひたと押し当てる。
鼻薬でも嗅がせるように。
「………っやだ、」
「あれー」
興醒めしたように顔を引き、逸は指の背で敬吾の頬を撫でる。
くしゃくしゃに引き攣った顔は無論、本心から言っていないことの証左でしかないが。
意地を張られるとやはりーーーー
「またそんな嘘ついて」
ーーーーーいじめたくなる。
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