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アクティブレスト 10

逸の腕がゆっくりと解けていく。 それが腰辺りまで下りたところでまた強く抱き竦められ、敬吾は弛んでいた目元を細めた。 「敬吾さん、好きです」 「!」 「大好き……」 「………っ今言うな、馬鹿」 諫めてはいても熱の灯っている敬吾の声に、逸は素直に体を離す。 ほとんど見えないけれどきっと、敬吾は顔を顰めながらも赤くなっているに違いない。 (見たいな……) が、そんなことをしたら我も時間も忘れてしまう。 足元の伝票を拾い上げて、逸は最後に敬吾の頬を撫でた。 「じゃ……俺行きますね。今日も多分遅いです」 「うん……、カレーくらいなら作っとくけど」 「やった!」 「………」 心底嬉しそうな笑い声を残し、敬吾の髪を撫でてすぐに逸は出て行った。 遠くの方で小さく「お疲れ様です」と声が聞こえて、敬吾はぴくりと背筋を伸ばす。 一瞬ひやりとはしたものの………… まだ、顔が熱い気がする。 顔が、と言うか、触れられたところが。 唇の触れた首がざわつく。 ーー全く、あの馬鹿。 逸の顔を頭から追い出すよう、店に戻ってからの仕事のことなど考えてみる。 (しかしなんっか忘れてる気がすんだよな………) 冷たいコンクリートの壁に凭れ、しばらく熱を移してから敬吾は倉庫を出た。

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