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第8話
背後から、あの時のお礼だって言ってくるんだけど俺には何の事だかさっぱりだ。
「ムカつくんだよ! お前みたいなナメたガキ!」
「ナメてねぇしガキでもねぇよっ」
言い返すと振り上げられた鉄パイプが視界の端に見えて、もう一発食らう覚悟をした。
「うるせぇ! 今日は気が済むまで殴らせ…ろっ?」
…痛みがこない。
その代わり、ガサガサと俺から後退る足音が聞こえて奴等は分かりやすく慌て始めた。
「俺のお気に入りに何やってんだよ」
「と…藤堂迅! やべっ逃げるぞ!」
「待てよ」
「か、勘弁してくれ! 俺はこの金髪に仕返ししたかっただけだ!」
「知るか。 最近ケンカしてねぇから加減間違えるかも」
──あ、迅だ。
なんで迅がと思いながら振り向くと、早くも鉄パイプを奪って地面に投げ捨てる迅の姿があった。
俺はもっさん達のすぐ横に倒れ込んで、三人の相手をものの数分で地面に転がした迅の背中にキュン…とした。
やっぱ強い。
迅はめちゃくちゃ強い。
一発も食らわずに三人まとめて気絶させるなんて、俺の脛一撃法とは訳が違う。
「帰るのに鞄忘れるってどういう事だよ」
肩を回しながら、迅が俺の傍までやって来た。
「……あ、鞄忘れてた?」
「お前至近距離強えのになんでやり返さねぇのかと思ったら…コイツら庇ってたんだな」
「うん。 もっさん赤ちゃん産んでた」
背後から不意打ちしてくるクソヤンキーは、躊躇なくもっさん達を痛め付ける気がして咄嗟だった。
「へぇ、可愛いじゃん」
「迅も可愛いって思うんだ…」
「俺、犬より猫派」
「そうなんだ、痛てて…」
背中の痛みに顔を歪ませた俺の体を、迅はゆっくり起こしてくれた。
子猫と俺を交互に見て、可愛いと言った迅の顔が優しい。
「…もっさんとチビらまとめて俺ん家で飼うか」
「い、いいの!?」
「ついでに雷にゃんも欲しいんだけど」
まさかの申し出に朦朧としてた意識が覚醒した。
と同時に迅が妙な事を言うんで、俺は大袈裟に首を傾げてもっさんを撫でる。
すると迅は、わざとらしく大きな溜め息を吐いた。
「お前さ、鈍い鈍いと思ってたけどガチじゃん。 いい加減気付けよ」
「気付くって何を?」
「…一発抜いてて遅くなった自分を殺してぇ」
「抜いたんだ」
「お前のトロ顔想像して抜いた」
「なんで俺で抜くんだよ! それこそAV観たら…」
「だからお前は鈍いっつってんの。 もっさん達運ぶから俺ん家来い」
迅は、着てたカッターシャツを脱いでタオルに見立てて子猫達ごともっさんを抱き抱えた。
不思議な事に、迅が子猫達に触れてももっさんは怒らない。
見た目で動物嫌いそうって勝手に判断してたけど、嫌いどころか、抱っこしたもっさんを撫でて「すげぇもふってんなコイツ」って、もう可愛がり始めてる。
もっさんも「なぁぁ」とご機嫌に返事してるし。
「なぁ雷にゃん。 俺が犬より猫派っつった意味も分かってねぇだろ」
「俺も俺も! 猫派! てかやっぱ迅は強えな。 あんまりカッコイイから見惚れたぜ!」
「じゃあ今夜頂きます」
「何を? あ、晩飯?」
迅の家でもっさん達の寝床を準備してやってると、急に晩飯の話をされた。
背中の手当てしてたら遅くなるだろうし、食って帰ればって事だな。
「はぁ…」
また迅が溜め息吐いてる。
「俺らの事、迅雷コンビって翼が言うんだけど、明日から迅雷カップルって呼べって言うわ」
「ぶはっ、なんだそれ! それより晩飯なに?」
子猫達を人差し指でソッと撫でてたら、横で迅がまたまたでっかい溜め息を吐いた。
なんだよ、溜め息ばっかり吐いて。
三人を一瞬でやっつけてたからさすがに疲れたのか?
「それよりって…。 俺がマジになってんのにヒドくね? もっさん、俺の気持ち分かってくれるか」
え、どういう意味?と振り返った俺を苦笑いで眺める迅と、なぁぁ〜とまるで返事みたいに返したもっさんを交互に見やる。
……んーと、俺、なんか変な事言った…?
終
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