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うっかり喚び出したのはスーツの邪神でした。
「あ……っああ…っ、い…やだ、もうやめ…っ」
ずるずると体内を這いずる悍ましい存在が、恐怖と生理的嫌悪感を凌駕する快楽を与えてくる。
流されてしまいそうな意識をつなぎとめるのは、こちらを楽しそうに観察する男の声だ。
「嫌だという顔ではないな。やめて欲しい?もっとして欲しいの間違いじゃないのか」
「ち…がう、ほん、とうに……あっ、ヒ、あぁあっ」
ぐり、とねじれた細い触手の束が思い知らせるように内部の感じるポイントを強く刺激して、まどかは身悶えた。
全身をぬるついた太い触手に拘束されて、身動きできない身体をまた別の紐のような細い触手に弄られている。
「やっ…やめ…っそこは、入るとこじゃない…っ」
紐のようなものの先が割れ、中から更に細い触手が乳首に潜り込むようにして先端を攻める。
そこから体内へと侵入されそうな恐怖にぞっとしたはずが、より一層赤く熟れた突起を凝らせ、勃ち上がったままの性器からも期待するように蜜が溢れた。
どうしてこんなことに――――――
高良 まどかは数時間前の軽率な自分を心の底から呪った。
この春大学生になるまどかは、進学と同時に、二ヶ月前に事故で急逝した伯父の家に住むことになった。
変わり者で、少し怖いと思うこともあったが、謎めいたところのある伯父が、まどかは好きだった。
大学で学びたいと思っている文化人類学に興味を持ったのも伯父の影響だ。
まだ五十歳にもならなかった伯父だが、自分の死を予見でもしていたのだろうか、弁護士から伝えられた遺言書には、土地と家をまどかの父に譲るということと、いらなければ放棄して構わない、ただしどちらの場合も屋根裏にあるものは全て破壊して処分して欲しいということだけが書かれていた。
父は相続を決め、大学に行くには便利なためまどかが家を管理がてら住むことになったのである。
彼にもう会えないことはとても悲しい。それでもその家を受け継ぐようにして住めること、そして初めての一人暮らしは素直に嬉しかった。
共働きの両親は毎日忙しく、遺品の整理などにはまだ来ることができずにいたため、無くなった直後に葬儀や相続に必要なものを取りに入ってから今まで誰もこの家に足を踏み入れていない。
「うわ…埃が」
玄関の扉を開けると、ふわっと埃が舞ってまどかは苦笑した。
人の手の入らない家というのは劣化が早いというのは本当のようだ。
伯父もマメに掃除をするタイプではなかったので、生前から積もっていた埃もあるかもしれない。
とりあえず今日は生活できるスペースを作ろうと、なかった場合を想定して持ってきた雑巾や洗剤などの入ったバッグを置く。
そういえば、屋根裏の物を処分して欲しいという遺言があったな、と思い出して、しかしすぐに首を傾げた。
「屋根裏…?」
入った覚えはないが、ここにそんなものがあったのか。
二階に上がり、伯父の部屋に入るが、本ばかり目に入ってそれらしいものはない。
ふと目にした押し入れに閃くものがあり、そこを開けてみた。
「(これだ……!)」
一段目には布団やよくわからないものがいっぱいに入っていて、だが二段目には何も置かれておらず、体を乗り出して上を見ると、人が一人上がれそうな隙間が空いている。
まどかは探検しているようなワクワクを感じながら、屋根裏とおぼしき場所を目指した。
上がってはみたものの暗すぎて何も見えない。
「いてっ」
目を凝らせば何とかならないかと思ったが、膝に何か固いものがぶつかり、さすがに危機感を覚えてスマホを取り出してライトをつけた。
照らし出されたそこは、思ったよりも広く、立ち上がれるほどではないが座って読書をするくらいはできる高さがあり、秘密基地などを作って遊んだ童心をくすぐられる。
膝にぶつかったものは何か磨りガラスのようなものだ。踏んでいたら割れていたかもしれない。
あとは下の部屋と同じく本がたくさんあるが、どれも手に取るのをためらうような古びてカビ臭い代物だ。
「(別にわざわざ遺言書に書かなくてもとっておきたくもないようなものだけど…なんの本なんだろ、コレ)」
開いてみるが、英語ですらなくて、内容は意味がわからない。
パラパラとめくっては見たもののつまらなくなって、すぐに閉じた。
何冊か見てみるが、どれも同じ。
しかし伯父の走り書きが挟んである本があり、興味を引かれてそのメモを手にとって読んでみる。
「ふんぐるい…むぐるうなふ…くとぅるう…るるいえ…うがふなぐる…ふたぐん……?復活の呪文かな」
聞いたところによると昔のゲームはロードするのにパスワードの入力が必要だったらしい。
ここで夜毎ゲームにでも興じていたのだろうか。
なんとなくあまりイメージではない気がするし、やはり遺言書に書いて捨てさせるほどのものでもないような。
その時、近くから突然強い光が差して、驚いてまどかはしゃがんだ状態で振り返ろうとして、尻餅をついた。
『……ほう、繋ぐとは、素質があるようだな』
頭に直接響くような声がしたかと思うと、光の収束と共に何もなかった場所に人が現れた。
「なっ…なん…っ」
泥棒?幽霊?とにかくここは伯父の家で、祖父母は既に他界しているしその子供はまどかの父と兄である伯父だけで、伯父は結婚していなかったのだから、こんなところにいるのは不法侵入者か人ならざるものの二択の可能性が高い。
身の危険を感じ、反射的に後ずさると、そこはこの場所への入口、すなわち押入れへの下降口だった。
背中からずるっと落ち、衝撃に驚いて身を起こそうとしたところについた手は空で、無様に伯父の部屋の本の山の上に落下する。
「いっつ…………」
「間抜けな奴だな。大丈夫か?」
「…………………っ」
痛みに呻く間もなく息を飲んだのも無理はない。
落ちた先に先回りしたように、屋根裏の不審人物が立っていたのだから。
「お、前は…誰、だ」
「喚び出しておいて、誰はないだろう。…まあ、喚んだつもりがなかったのは、その様子を見ればわかるが」
先程からやたらと尊大な様子の侵入者は、すらりとした長身に整った顔立ちで、柔らかそうな金髪をゆるく後ろに流し、皮肉気に細められた瞳は深い海の色をしている。
ネイビーの三つ揃えのスーツは光の加減によって光沢の具合を変えて、今は南向きの窓から差し込む日差しによってキラキラと輝いていた。
物語に出てくる王子様のような容姿で、これで不審者でなければお近付きになりたい女性は相当多いだろう。
日本人ではないようだが、言葉は完璧に日本語だ。
…日本語、なのだが、話は通じていない気がする。何を言っているのかわからず首を傾げた。
「よん、だ……?」
「お前の伯父はあの場所でコソコソと私を覗き見ていたぞ」
「なっ…え、そんな」
男の言葉に目を瞠る。
覗きは犯罪だ。しかも、同性の、こんな美青年を覗きとか、色々とまずい気がする。
もしかしたらその証拠があの屋根裏にあるから全て破棄するようにと…?
パズルのピースがはまるように急速に合っていく辻褄に、まどかは唖然として黙り込んだ。
謝るべきなのか、だが、この男が真実を話しているとは限らない。
伯父は真面目な人で、変人で、なんというか、人間に興味がなさそうに見えた。
「へえ、お前、人のことをよく見ているな。確かにお前の伯父が見ていたのは、人ではない」
「は……?」
覗かれていたというこの男が、伯父が見ていたのは人ではないと言う。
いや、だがその前に自分は考えていたことを口にしてしまっていたのか?
「心の声くらい読めて当然だろう。私は神だぞ」
「…………………は…………………?」
「まあ、人間には邪神としてあがめられているがな」
ニヤリとして胸を張った不審者に、まどかは確信した。
あっ、これ通報の案件だった。
頭がアレな不法侵入者だと、スマホを取り出そうとして、先ほど驚いた拍子に屋根裏に落としてきてしまったことに気づいて内心舌打ちする。
「信じていないようだな。ならば少し邪神らしいことでもして見せるか」
「いやっ…いいです大丈夫で…」
不穏なことを言い出したので慌てて制止しようとしたまどかは、男の影がこちらに向かって伸びるのを見て凍りついた。
「な……………っ!?」
影から、何か触手のようなものが伸びて四肢を絡め取る。
一瞬のうちにまどかは宙づりになっていた。
「な、何これ………っちょ、や、やめろ…!」
ジタバタと抵抗しようとするが絡みついたものはびくともしない。
不安定な態勢は苦しく、積み上がる本や、雑多に物の置かれたデスクを見下ろすという日常とは違う視点が、心許なさを煽る。
「お前の伯父にはたっぷりと視姦されたからな。せめて甥のお前にお返しをしてやらなくては」
「ほ、本当に伯父はそんなことを……!?何かの勘違いじゃあ」
「残念ながら本当だ。お前が先程躓いたあのガラスは、少し特殊な加工を施したもので、あの連句を唱えることで異次元を覗くことができるようになっている」
「おっ…お前は、そこから出てきたとでもいうのか」
「察しがいいな」
ありえない。
だが、この男がただの妄想癖のある不審人物だったら、この状況はなんだ?
ただの人間にこんなことができるとは思えない。
「っな、に……熱ッ……!?」
手足を拘束している触手が不意に熱くなったかと思うと滑りを帯びて、その分泌液が服を溶かしていくのを見てギョッとする。
「な、なんだこれ…っ」
「安心しろ、身体を傷つけるものではない」
ホッとしかけて、しかし安心している場合ではないと我に返った。
みるみるうちに溶けていく洋服。
拘束されている場所からじわじわと、肌色が露わになっていく。
「やっ…嫌だ…っ」
「戦いとも労働とも無縁の、貧相な体だ」
評価に、唇を噛んだ。
まどかは同年代の友達の中では平均的な体格だ。スタイルは悪くない方だし、顔も、かわいいと言われてしまうことはあるが、つまり不細工ではない。
だが、デスクの前に置かれたキャスター付きの椅子に座り、長い足を組んでゆったりとこちらを眺めている男は不審者でもなんでもない、経済誌でインタビューを受ける社会的成功者のようにも見えて、明らかに自分よりもビジュアル偏差値の高い相手にじろじろと検分されると、いたたまれなかった。
「伯父にも、こっ…こんなことを?」
「いや、お前の伯父は用心深かったからな。私を顕現させる隙は作らなかった」
伯父さん…そんな用心深さがあったなら、遺言書に「メモを読み上げるな」とかくらい書いておいてくれてもよかったのに…!
「と、とにかくもういいだろ、離せよ…っ」
辱めならもう十分ではないかと訴えたが、男は肩を竦め首を横に振る。
「まさか。お楽しみはこれからだろう?」
「ヒ……ッ」
影から更に、身体を拘束しているものよりも細い触手が勢いよく伸びてきて、まどかに絡みついた。
絶妙な力加減で巻き付くと、様々な場所を這い回る。
「や…っそん、なところ…っ」
乳首を、脇を、足の指の間を、臍を、竦んでいる性器と、そしてその更に奥の蕾を同時に刺激され、鳥肌が立つ。
「隷属させても大した役にはたちそうもないが…その危機感の足りなさは悪くないな。絶望させてみたくなる」
恐ろしい呟きにゾッとしたが、抗議の声はざわりとした体感に打ち消された。
細い触手が這った場所が、熱い。
先程の熱さとは違う、ゾクゾクして、力が抜けていくような――――――
「な……に、これ……っ」
「催淫効果のある分泌液だ。楽しめ」
「うそ……あッ」
呼吸が荒くなり、全身にじっとりと汗をかきはじめる。
胸を這う触手は、中心にぎゅっと寄って、熱を持ち始めている乳首を絞るように巻き付く動きを繰り返す。
太めの触手がぬるりと伸びてきた。
それはほかのものと違って半透明で先端が切断されたかのように平らで、よく見ると筒状になっている。
男の前でよく見えるように開かれた足の間で既に勃ち上がっていた性器が飲み込まれて、あまりの快感にひゅっと息を呑んだ。
女性器を模して造られたオナホールのように複雑なヒダに扱かれる。
「アッ、ああ、あっ、あっ」
背筋を駆け上る圧倒的な悦楽。
自分の手以外の感触を知らないまどかに耐えられるはずもない。
呆気なく弾ければ、筒の奥でじゅるじゅるとそれをすする音がして、耳をふさぎたくなるが拘束されている腕ではそれは叶わなかった。
「は…はあっ………あっ…!や、やあ…っ」
快楽の余韻に浸ることなど許されず、脚を更に開かされ、細い触手が束になって双丘の間から会陰の辺りまでを擦る。
気持ちが悪いはずなのに、それだけで放出したばかりの性器がまた反応し始めるのがわかってまどかは泣きたくなった。
「(こんな…さ、催淫効果のせいだ…っ気持ちよくなんか、ない…っ)」
足の間に集まった触手の何本かが、ひゅっと尖ったかと思うと、細い鉤爪状になり、晒された蕾を開いて固定する。
まるで手術の際に使用する鉗子のように拡げられ、しかもそれを暇つぶしの見世物のような調子で観察されて、あまりの恥辱に堪えていた涙が溢れた。
「も…やめ……ろ…っどうして、俺が、こんな…っ」
何故自分がこんな目に遭わなくてはならないのか。
まだ、女の子とこんなことをしたこともないのに。
…いや、特にこういうプレイがしたいとかそういう意味ではなく。
「では人間ならいいのか?この姿に犯された方がお前は嬉しいか」
またまどかの心の中を読んだのか、的外れなことを言ってくる男にどんな二択だと思いながらも、快楽と恐怖や悲しみに混乱していたせいか律儀に天秤にかけてしまった。
同性か触手か。それが問題だ。
「ど、どっちも嫌に決まってるだろ……!」
「我儘な奴だな。何なら女性体になってやってもいいが」
「もう既にその姿見てるからアウト!」
「そうは言っていても、本当は伯父が好きだったのではないか?」
囁きが、耳を掠める。
そうだったのだろうか。
いつも気難しげな伯父が、まどかにはほんの少し打ち解けたように話すのが、本当は…………、
……ないな。ない。
「あるわけないだろ!」
そう都合よく一部の女性が喜ぶようなストーリーが進行しているわけもない。
微妙に想像してしまい、爆発寸前だった息子も少し元気がなくなっている。
吼えたまどかに、男はやけに楽しげに笑って肩をすくめた。
「そうか、残念だ。片想いしていた伯父の部屋で伯父が懸想していた男に犯されるとか中々冒涜的なシチュエーションかと思ったのだが」
クズだ。
「お前の変態行為に俺を巻き込むな…っ、や!嫌だ…っ!」
文句を言いかけた声が、悲鳴に変わる。
細い触手が寄り集まり太い束になると、開かされた場所へと押し付けられたからだ。
それは、それまでの擦ったり摘んだりするような行為とは違う、意思を持ってそこを貫こうとしている。
「開通だな」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!あ!…や!はいっ…る、な!」
力を入れて拒むこともできず、それは無慈悲にまどかの中へと入り込んできた。
痛くはない。
ぬるぬると蠢きながら狭い場所を拓いていくそれは、
「(嫌だ…っ気持ち、いい、なんて…っ)」
未開発のはずの場所が、確かに快楽を得ている。
悍ましい、なのに気持ちいい。
「や、…やっ、やぁ…っ」
強制的に引き出される快楽は、強い力で理性をさらっていく。
ねっとりとした動きで内部の膨らんだ場所を何度も刺激されてダラダラと先端からは白濁が溢れた。
無数の触手にそれに吸い付かれる感触ですら刺激になり、ガクガクと腰を揺らしてしまう。
「愉しそうだな」
「や…………も、う………」
もう、許して欲しい。
これ以上の快楽を与えられたら、本当にどうにかなってしまう。
「解放して欲しいか?」
優しい声だった。
優しくて、そして心の中に忍び込んでくるような、蠱惑的な声だ。
虚勢を張る余裕もなく、まどかは唯一自由になる首を何度も縦に振った。
その姿に男は、声と同様穏やかな笑みを浮かべた。
…が、
「あ!あああああああああっ!」
突然激しいピストンを始めた触手に電流でも流されたかのように悶える。
「あ!あ!あ!あっ」
もしかしたら解放してもらえるんじゃないかと――――――
息も絶え絶えに向けた視線の先には、満足そうな微笑があった。
「いいな、その貌。もっとそんな目で見てくれ」
「へん…変、態…っ!あ、あ、あああっあっ」
快楽に蕩けた目で睨んだ瞬間、急に動きが緩やかになったかと思うと、触手の束が膨れ上がり、内部にどっと粘度の高い液体が注ぎ込まれた。
「い…やぁ……」
ずる、と犯していたものが抜け出て、ぼたぼたと滴る粘液が畳を汚し続けている。
快楽の余韻が濃すぎて、何も考えられず、胸を喘がせていることしかできない。
このまま意識を失ってしまいたい。
そんな逃避を、しかし自称・邪神が許すはずもなかった。
「惚けるのはまだ早いぞ。人間同士では決して得られぬ快楽だ。もっと味わわせてやろう」
まだ、終わりではない――――――
それを聞いて、喜ばせると分かっていて尚、まどかは絶望に表情を凍らせた。
散々の蹂躪の後、意識を失う直前、するりと頬を撫でる感触があった。
ぬるついた触手のものではない、あたたかい、人の手の――――――
「存外楽しめたな。…たまにはこういうのも悪くないかもしれん」
そんな呟きを聞いたような気がしたが、疲弊しきったまどかは何かを思う余裕もなく目を閉じた。
肌寒さを感じて目を開けると、そこは伯父の部屋だ。
窓から見える空が赤く染まっていて、夕方であることがわかる。
ハッとして起き上がって、周りを見回すが、何の気配もない。
服は、朝着たものと同じで、溶けたような痕跡も汚れも何もなく、きちんと身につけている。
夢、だったのだろうか。
だが、全身に残る体感、そして違和感があまりにもリアルで、まだあの男の声が耳元で聞こえているような気がしてぞくりと体を震わせた。
恐ろしかったが、そのままにしておくのもそれはそれで恐ろしく、屋根裏に上ってみると、そこには何もなかった。
最初から何もなかったのか、それとも――――――
夢だ。
正直、夢だとしたら自分の脳内がちょっと心配だが、とびきりの悪夢ということで忘れてしまおう。
逃げ帰るようにして帰宅したまどかは、掃除が大変だからしばらくは実家から大学に通う、と両親に伝えた。
入学後。
楽しみにしていた初めての文化人類学の講義の日、扉を開けて現れた人物を見て、まどかは我が目を疑った。
すらりとした細身の長身、後ろに流した柔らかそうな金髪、そして深い海の色の瞳。
二人といないような端正な顔立ちを見間違うはずもない、この男は、あの日、まどかを――――――…
「文化人類学教授、九頭龍 琉璃夜 だ。よろしく」
女性向けのアプリにでも出てきそうな美青年の登場に浮き足立つ女子達になど目もくれず、自称・邪神はまどかにだけ、ニヤリと笑いかける。
よみがえる、触手の快楽――――――
「あ…ああああああああああああああ!?」
悪夢の再来に、教室中に絶叫が響き渡った。
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