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4-2 リアル萌え源

「それより。お堅い委員長が、授業サボってこんな話してていーの?」  自然なさり気なさで、(かい)が話題を変えた。 「もういいよ。今は委員長の顔剥げてるしな。お前こそ親に怒られたりしない? 中途でここ入るの大変だったろ。教育熱心なんじゃないのか?」 「全然平気。母親は、俺が毎日元気に学校行ってれば何も気にしねぇからさ」 「父親は?」 「親父はー……死んじゃったからいない」  え!? 「ごめん。よけいなこと言って……」 「気使わなくていーよ。あいつ悪いことしてたから自業自得ってやつ」  言葉を発せずに、開いた口を閉じる。 「お前んちは? ねえちゃんと教育熱心な両親?」  聞かれて、凱の父親については触れないことにした。 「うちの親は事務所やってて、子どもにかまってる暇はない人たちでさ。小さい頃から俺と紗羅(さら)はいつも二人で留守番、家事、勉強してたよ。そのおかげか趣味も一緒で、今も親友みたいな関係かな。あ、両親も時間のある時は目一杯遊んでくれたから、仲はいいんだよね」  ついベラベラと喋っちゃったよ。  何か場をもたせなきゃいけない気がして。 「姉弟で親友っていーね」  凱はあたたかい瞳で微笑んでる。 「事務所って何やってんの?」 「探偵事務所。好きな映画かなんかの影響で始めたらしい」 「へー面白そーじゃん」 「実際は、浮気調査が多くて地味な仕事らしいけどな」 「悪いことしてるヤツのシッポ掴むための尾行とか証拠撮影って楽しいぜ、きっと。でも、毎日じゃ大変かー」  ははっと笑いながら、さっきの凱のコメントで気になっていたことを聞きたくてウズウズしてきた。  紗羅との話を出したせいで。俺の中の腐男子が存在感を主張して、満足させろとせっついている。 「なぁ……。さっきの話に戻るけど……」 「どの話?」  うっ。警戒した顔しないで。  惺煌(せいこう)も取引も親父さんも、全く関係ない話だから! 「お前、言ってただろ。男にやらせるのは疲れる。突っ込むのはいつでもいいって」 「みんなそーじゃないの?」 「みんながどうか知らないし、俺は経験ないからわからないけど。聞きたいのは……突っ込むって女だけ? 男も?」 「うん。どっちも。だって同じじゃん?」  えーそれは違うんじゃ……!?   ()れるとこ同じじゃないだろ? まさか凱は同じとこ挿れてるとか?  まぁ……今は細かいことはいい。  とにかく、腐男子としてこの情報はありがたい。 「じゃあお前、攻めも受けもいけるんだよな。うちの学園リバって少ないから、貴重なリアル萌え源として紗羅のヤツに……」  ひぃー!!!  何言っちゃってんだ俺!  マズい。何とかごまかさねば……。 「攻めと受けってタチとネコのこと? 変な言葉使うねお前」  あーまずそこ引っかかったの。  リアルゲイでは普通タチネコで、受けは言うけど攻めって言葉ほとんど使わないもんな。  BL用語優先の俺の頭がヤバい。 「そうそうタチとネコ。お前がリバか確認しただけ。ただの好奇心だから気にするな」  さっさとこの話を終えようとする俺に、凱が目を眇める。 「ふうん? じゃ、リアルモエゲンって何? あと、紗羅のヤツにって。俺がリバだとお前のねえちゃんに何かメリットあんの?」  わー全部引っかかってる!  腐ってる俺だけはバレたくないのに。バラさないで説明する方法は……。  やむをえまい。  姉を売ろう。  許せ紗羅。その代わりにリアルモエゲンを提供してやるからな。 「実は紗羅のやつ、ガチ腐女子なんだよ。いずれ()ェニックスになるレベルの。腐りきってるからさ。俺の周りにいるゲイの生態を自分が萌えるために知りたがるの。BLと現実は違うんだけど、素材としてうまく頭の中で合成して使えるからな」  あ……れ? 凱がキョトンとしてる。 「フジョシ? フェニックス? 腐りきってるって。ねえちゃん鳥なの? 賞味期限でもあんの? BLって肉のランク?」  わークエスチョンばっかり……!  そうだった。  普通の男子高校生は、腐女子なんて生き物に馴染みはないんだった。  女子高生の中に腐女子は予想以上に棲息してるけど、表面上は腐ってないフリしてるしな。  うーん。  腐女子の定義から説明してる時間は今ないだろう。 「凱。まず、俺の言ったは、生物学的な意味とは別次元の表現で、紗羅は健康な女子高生だ。で、腐女子については今度ゆっくり説明するよ。かなり深い世界だから」 「ん。わかった。今度ね」  ほんと素直に聞き分けるな。  こういうところ、男女問わず萌えポイントになるんじゃないか?  腐男子発言からくる追求を逃れてホッとした矢先。凱が突然首を横に向けて、廊下のほうを睨むように見つめた。  その細めた目と、一瞬にして警戒モードにシフトした雰囲気を見て驚く俺。 「どうした? 凱……?」 「早瀬。お前は腹痛の俺を介抱してた。いいな?」 「は!? 何だよいったい……」  コンコンコンッ! 「おい! 開けろ!」  その声の出どころを見やると、美術室のドア上部のガラス面にいかつい男の顔。  現国の鷲尾(わしお)だ。 「開けてやれ。うまくやれよ?」  視線を戻す俺の瞳を見て、腹を押さえて上体を傾けた凱がニヤリと笑った。  腹痛って……え!?  詐病(さびょう)でサボりの言い訳するつもり……?  そんな子供だましが通用するのかと疑いつつ。凱の意図がわかり、急いで鷲尾の待つドアへと向かう。  あー……よりによって不純同性交遊のチェックが厳しい鷲尾に見つかるとは……。  せっかく、素の自分で友人と語らう楽しい昼休みを過ごしてたのに……って、もう5限目だけどさ。  楽しいというより、もっとずっとエキサイティングだったしな。  いろんな意味で。  溜息とともにいつもの委員長仮面を着け直し、憂鬱な気分でドアロックに手を伸ばす俺。  不安気な顔が言い訳の状況に合ってることが、せめてもの救いだよな。

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