103 / 246

27-6 もう……失くせない

 瞬間、空間がフリーズ。  身体に苦痛を受けたかのように、涼弥の顔が歪む。 「そう……か」 「涼弥……」 「悪い。思ってたより……キツい」 「涼弥。俺……」 「今は何も言うな。あとで……」 「聞けって! 今、これだけ」  ショックを受けてるらしき涼弥に。  (かい)と御坂の説を信じて。 「俺が抱いたんだ」  一瞬の空白後。涼弥が目を(みは)る。  そんな意外なのか、やっぱり。 「だから俺、抱かれたことはないよ」 「そうか……」  今度の涼弥の『そうか』は、ホッとしてる感が……てことは、ほんとに違うんだな。同じセックスしたにしても。  受けと攻めが逆なだけで、そんなに?……って思うのは。その違いがわかる域に、俺の恋愛感覚が達してないからかもしれない。 「俺が誰かに抱かれてたら、抱いたことあるよりショックなのか?」 「そりゃ……そうだろ」 「その感覚がわからないからさ。理由あるなら教えて」  眉を寄せて暫し考えるふうにしてから、涼弥が苦笑い。 「ただの嫉妬だ。俺の知らないお前をそいつは知ってる。俺が見たことないお前を、そいつは見たのかってな」 「俺が抱いた……男もそうじゃん。深音(みお)も」  相手が凱だってことは、今は言わず。  涼弥の言う通り、やってからのほうがいい。第六感もそう助言してる。 「そいつにも、彼女にも嫉妬してる。けど、度合いが違うだろ。俺は、お前を抱きたいが……抱かれたいと思ったことはねぇからな」  それって、同じ立場の相手により嫉妬心が湧くってこと?  もし、涼弥を抱いた男がいたとして。俺はその男より悠に嫉妬するのか?  うーん…。  誰かにやられてたら、それはそれで嫌な気分になると思うけど?  俺が涼弥を抱きたいわけじゃなくてもさ。 「そういうもんなのか。なんにしろ……お前が少しは楽ならよかった」 「將梧(そうご)。もし、お前が今までに何人の男とやってたとしても、気持ちは変わらねぇ。たとえ嫉妬に怒り狂ってもだ」 「俺もだよ」  見つめ合う。  俺をまっすぐに見るその瞳にクラッとする。 「今日までだったら、俺はお前を失くす覚悟も出来た。実際は、可能性だけで腑抜け寸前になったが……それでもな」 「もう要らないだろ。そんな覚悟」 「要るとしても出来ねぇ。お前の気持ち知っちまった今は、もう……失くせない」 「心配するな。俺はどこにもいかない。お前に愛想つかしたりもしないからさ」  涼弥の表情が険しくなる。 「いいのか? 本気にするぞ」 「本気で言ってる。信じろよ。俺も同じだって。お前を失くしたくないのも、お前がほしいのも」 「將梧……」  今も。瞳を見て、涼弥が何をしたいかわかった……同じ気持ちだから。  だけど、自重しないと……せっかく収まったんだしね? 「お前が大事なのも。俺、そろそろ帰るからさ。今日はもう安静にして早く休め。肋骨って、今より明日のほうが痛むじゃん? 早く治したいなら、無理するな」 「キスしたい」 「聞けよ! また今度……土曜に。その時いくらでも出来るだろ?」  涼弥に腕を掴まれ。引っ張られはせず。 「嫌か?」 「お前それ……」  ズルくないけど、正々堂々としてるけど……なんかズルい気がする。  いや。やっぱズルくないか。  嫌って言えない俺の問題だ。  あぐらをかいた涼弥に足の間に入り込むように、膝立ちで近づいた。 「嫌じゃない」  普段より高い目線から見る涼弥の瞳が笑う。 「わかってて、しれっと聞いてるのか?」 「嫌な時もあるだろ」 「ない。ダメな時はあるな。学校とか。人目があるとことか」  俺の腕を掴んでた涼弥の手が腰へと回され、もともと少ない距離が縮まる。 「我慢出来るか、自信がねぇ」 「何でそんなに(さか)ってるんだよ。お前のキャラじゃないだろ」  俺もな。  心の中で呟く。 「お前だからだ。ほしいのも、こんな俺を知ってるのも……お前だけでいい」 「涼弥……」  あーもう、ギュッとしたい!  思った1秒後にはしてた。  抱きしめた身体は熱くて、熱出てるんじゃって心配になったけど。  ちゃんと飯食ったら早く寝て、朝も薬飲んで無理しないっていうのを信じて。  激し過ぎないキスをした。  軽くなんて無理だし。  かといって、欲望のままに激しく濃厚なのしてたら収まらなくなるし。収まらなくなって解放してもらうわけにもいかないし!  涼弥はよく平気だよね? どう考えても俺と同様、もしくは俺以上に勃ってそうなのに……どうやって(しず)めてるんだろうな?  俺自身。涼弥を求める気持ちに終わりがないから、止めるのは大変だったけど。なんとか、涼弥を宥めて。ペニスも通常モードに戻して。  久しぶりの涼弥の家を後にした。  涼弥の家から歩いて20分弱。  昨日とほぼ同時刻の7時50分頃。家に着いて玄関を開けると、沙羅が出迎えに走ってきた。  俺の帰宅を待ってましたとばかりのその姿に、ちょと困惑。 「お帰り!」 「ただいま……」  靴を脱いで上がったところでハグされる。  確かに、俺たちは仲のいい姉弟だけど。ハグなんてめったにしないのに。 「どうした? なんか……」  あったのか?  そう聞く前に、腕を解いた沙羅が満面の笑みを見せる。 「よかったね。涼弥と! ほんとに心配だったから……もう嬉しくて」 「あ……ありがと……」 「ご飯食べたら、ゆっくり話聞かせてもらうから」  呆気にとられる俺を残し、沙羅はキッチンへと戻っていった。

ともだちにシェアしよう!