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27-6 もう……失くせない
瞬間、空間がフリーズ。
身体に苦痛を受けたかのように、涼弥の顔が歪む。
「そう……か」
「涼弥……」
「悪い。思ってたより……キツい」
「涼弥。俺……」
「今は何も言うな。あとで……」
「聞けって! 今、これだけ」
ショックを受けてるらしき涼弥に。
凱 と御坂の説を信じて。
「俺が抱いたんだ」
一瞬の空白後。涼弥が目を瞠 る。
そんな意外なのか、やっぱり。
「だから俺、抱かれたことはないよ」
「そうか……」
今度の涼弥の『そうか』は、ホッとしてる感が……てことは、ほんとに違うんだな。同じセックスしたにしても。
受けと攻めが逆なだけで、そんなに?……って思うのは。その違いがわかる域に、俺の恋愛感覚が達してないからかもしれない。
「俺が誰かに抱かれてたら、抱いたことあるよりショックなのか?」
「そりゃ……そうだろ」
「その感覚がわからないからさ。理由あるなら教えて」
眉を寄せて暫し考えるふうにしてから、涼弥が苦笑い。
「ただの嫉妬だ。俺の知らないお前をそいつは知ってる。俺が見たことないお前を、そいつは見たのかってな」
「俺が抱いた……男もそうじゃん。深音 も」
相手が凱だってことは、今は言わず。
涼弥の言う通り、やってからのほうがいい。第六感もそう助言してる。
「そいつにも、彼女にも嫉妬してる。けど、度合いが違うだろ。俺は、お前を抱きたいが……抱かれたいと思ったことはねぇからな」
それって、同じ立場の相手により嫉妬心が湧くってこと?
もし、涼弥を抱いた男がいたとして。俺はその男より悠に嫉妬するのか?
うーん…。
誰かにやられてたら、それはそれで嫌な気分になると思うけど?
俺が涼弥を抱きたいわけじゃなくてもさ。
「そういうもんなのか。なんにしろ……お前が少しは楽ならよかった」
「將梧 。もし、お前が今までに何人の男とやってたとしても、気持ちは変わらねぇ。たとえ嫉妬に怒り狂ってもだ」
「俺もだよ」
見つめ合う。
俺をまっすぐに見るその瞳にクラッとする。
「今日までだったら、俺はお前を失くす覚悟も出来た。実際は、可能性だけで腑抜け寸前になったが……それでもな」
「もう要らないだろ。そんな覚悟」
「要るとしても出来ねぇ。お前の気持ち知っちまった今は、もう……失くせない」
「心配するな。俺はどこにもいかない。お前に愛想つかしたりもしないからさ」
涼弥の表情が険しくなる。
「いいのか? 本気にするぞ」
「本気で言ってる。信じろよ。俺も同じだって。お前を失くしたくないのも、お前がほしいのも」
「將梧……」
今も。瞳を見て、涼弥が何をしたいかわかった……同じ気持ちだから。
だけど、自重しないと……せっかく収まったんだしね?
「お前が大事なのも。俺、そろそろ帰るからさ。今日はもう安静にして早く休め。肋骨って、今より明日のほうが痛むじゃん? 早く治したいなら、無理するな」
「キスしたい」
「聞けよ! また今度……土曜に。その時いくらでも出来るだろ?」
涼弥に腕を掴まれ。引っ張られはせず。
「嫌か?」
「お前それ……」
ズルくないけど、正々堂々としてるけど……なんかズルい気がする。
いや。やっぱズルくないか。
嫌って言えない俺の問題だ。
あぐらをかいた涼弥に足の間に入り込むように、膝立ちで近づいた。
「嫌じゃない」
普段より高い目線から見る涼弥の瞳が笑う。
「わかってて、しれっと聞いてるのか?」
「嫌な時もあるだろ」
「ない。ダメな時はあるな。学校とか。人目があるとことか」
俺の腕を掴んでた涼弥の手が腰へと回され、もともと少ない距離が縮まる。
「我慢出来るか、自信がねぇ」
「何でそんなに盛 ってるんだよ。お前のキャラじゃないだろ」
俺もな。
心の中で呟く。
「お前だからだ。ほしいのも、こんな俺を知ってるのも……お前だけでいい」
「涼弥……」
あーもう、ギュッとしたい!
思った1秒後にはしてた。
抱きしめた身体は熱くて、熱出てるんじゃって心配になったけど。
ちゃんと飯食ったら早く寝て、朝も薬飲んで無理しないっていうのを信じて。
激し過ぎないキスをした。
軽くなんて無理だし。
かといって、欲望のままに激しく濃厚なのしてたら収まらなくなるし。収まらなくなって解放してもらうわけにもいかないし!
涼弥はよく平気だよね? どう考えても俺と同様、もしくは俺以上に勃ってそうなのに……どうやって鎮 めてるんだろうな?
俺自身。涼弥を求める気持ちに終わりがないから、止めるのは大変だったけど。なんとか、涼弥を宥めて。ペニスも通常モードに戻して。
久しぶりの涼弥の家を後にした。
涼弥の家から歩いて20分弱。
昨日とほぼ同時刻の7時50分頃。家に着いて玄関を開けると、沙羅が出迎えに走ってきた。
俺の帰宅を待ってましたとばかりのその姿に、ちょと困惑。
「お帰り!」
「ただいま……」
靴を脱いで上がったところでハグされる。
確かに、俺たちは仲のいい姉弟だけど。ハグなんてめったにしないのに。
「どうした? なんか……」
あったのか?
そう聞く前に、腕を解いた沙羅が満面の笑みを見せる。
「よかったね。涼弥と! ほんとに心配だったから……もう嬉しくて」
「あ……ありがと……」
「ご飯食べたら、ゆっくり話聞かせてもらうから」
呆気にとられる俺を残し、沙羅はキッチンへと戻っていった。
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