105 / 246

28-1 朝の作戦会議

 翌日の金曜日。  いつもより早く、昨日よりは少し遅い時間に学校に到着した。  早朝の教室にいたのは予想通り、御坂と鈴屋。  朝の挨拶をして、すでに窓辺で会談中の二人に仲間入り。 「杉原、大丈夫だった?」  御坂が尋ねる。 「(かい)がさ。將梧(そうご)といたら、痛いの感じないくらい舞い上がってるはずだって」 「あー涼弥、肋骨2本ヒビ入ってた。あと、耳に穴開けられてたよ」 「え? マジ? 全然気づかなかった」 「病院行ったから、一応大丈夫。ちゃんと安静にしてろって言ってあるし」 「何でそんなことするのかな。暴力って嫌い」 「俺も」  鈴屋に御坂も同意する。 「俺もだよ。涼弥は昔からよくケンカしてるけどさ」 「凱と高畑も、慣れた感じだったね」 「二人とも見た目を裏切るよな」 「昨日のは見てないけど、斉木さんの時の凱は鮮やかだった」  御坂と俺のコメントに、鈴屋が頷いて続ける。 「1年の時、高畑が3年生二人相手にケンカしてるとこ出くわしたことあるんだ。一瞬でひとり倒して、もうひとりはジワジワ追いつめてた。楽しそうで……ちょっと怖かったよ」  玲史がサドなのは、セックスだけじゃないのか。 「でも。昨日は、凱も高畑も不要な暴力はふるわなかったんでしょ? 水本さんとは違う」 「何で江藤と仲いいんだろうな?」 「幼馴染みみたい。斉木さんに聞いた」  俺の疑問に、鈴屋が即答する。 「江藤さんの情報ほしかったから、昨日は愛想よくして。それで、御坂には言ったけど今日……凱が江藤さんと話する時、僕は斉木さんのとこにいるから」 「は……何で?」 「隣なんだ。寮の部屋。普通の話し声は聞こえなくても、叫んだり壁蹴ったりは気づけるはず。あと、防犯ブザー持たせるって言うから」  え……隣? 防犯ブザー? 「ちょっと待って。鈴屋、斉木の部屋に行くの? それ、お前は大丈夫なのか?」 「うん。僕もブザー持ってくし、斉木さんと取引したし。心配要らないよ」  取引って……よけい心配になるんだけど。  鈴屋と斉木の関係に口挟む気はないけどさ。  それに……。 「いや、防犯ブザー持ってれば襲われないわけじゃないだろ。鳴らす余裕あるなら、ケータイ画面触ってこっちと通話状態にしたほうが……」 「俺だったら、ケータイは見えるところに置かせるか預かる。話してるの録音されたくないし、今言ったみたいに通話で聞かれないように。江藤もそのくらい考えてるって」  御坂の説明に納得。 「でも、防犯ブザーってあれだよな? ピン抜くと警告音鳴り響くやつ」 「そう。最大130デシベル。車のクラクションよりデカい音だから、ちょっと離れた場所でも聞こえるだろ」 「鳴らすヒマなかったら役に立たないじゃん?」 「凱の案、自動で鳴るようにするってさ」 「どうやって……?」  御坂と鈴屋が、顔を見合わせて口角を上げる。 「腰に本体、ベルトの端にピン引っ張るとこつければオッケー。ベルト外さなきゃ脱がせられないから。それ聞いて笑った。シンプルだけどバッチリだよな」  確かに……ムリヤリ何かされそうになった時に。  ケータイ触れなくて連絡出来なくても。  口塞がれて叫べなくても。  手足拘束されて動けなくても。  ズボン下ろされそうになって防犯ブザーが勝手に鳴ってくれるなら、SOSは出せる。 「よく思いついたな」 「凱の思考回路は高性能だよね。でも、ブザーつけてっても鳴ることはないって確信してる」  御坂と目を合わせたまま、眉を寄せた。 「江藤が自分をレイプすることはないってさ」 「え……だって、噂の検証のためだろ? 可能性あるから話するんじゃん? てか、根拠何? 聞いたか?」 「集会のあと、昇降口のとこで会って喋った時。取り巻き連中の前で。江藤が左手の人差し指で親指に爪立てて握りしめて、右手でその腕掴んでたって。話してる間ずっと」  その場に俺もいたけど……江藤が自分の腕掴んでたかどうかなんて見てない。 「自分抑えて演技してる、本当の自分を知らないヤツらの前だから。凱はそう言うんだけど……どう思う?」 「どう……だろう。そもそも、凱だって知らないから確かめるんじゃ……凱!」  いつの間にか人の増えた教室に、ちょうど凱が入ってきた。 「おはよー。將梧、元気じゃん。涼弥にやられてねぇんだな」  自分の席にカバンを置いて俺たちに加わる凱の言葉に、呆れつつも笑う。 「おはよう。涼弥の肋骨ヒビ2本。治るまでやらないけど……やってたら俺、元気じゃなくてどうなってる?」 「立って歩くのもキツい感じ」  嫌だなソレ。 「じゃあ、初めてやるのは休みの前の日にするよ。それより……」  御坂と鈴屋と目を合わせ、凱に視線を戻す。 「お前のプラン聞いてたとこ。江藤のこと、何で信用出来る? あいつが、どんな本性隠してるっていうんだ?」  さっそくの質問に、お馴染の凱の笑顔。  コイツの無邪気さは、装ってるんじゃなくて素だ。  ただ、そこに共存する狡猾な邪は、今はシッカリとしまわれてるんだと思う。 「心配してんの? 俺があいつにやられんじゃねぇかって?」 「あたりまえだろ。レイプ魔の噂がある男だ」 「逆は?」 「は……!?」 「俺が江藤をやる心配はねぇの?」 「ない。お前、ムリヤリは許さないって……自分がレイプする側になんか、ならないだろ」 「うん。でもさー俺の見た感じ、あいつはされる側だぜ?」 「え……?」 「ナイフで脅されてやり返したじゃん? あん時、口では余裕そうだったのに震えてたから。レイプされたことあんのかもな。トラウマ、残ってるうちは身体が勝手に反応すんの」  笑みの消えた凱と見つめ合う。 「江藤がレイプ魔だって聞いて、ほんとにそーなら潰す気だったけど。違そうだからさ。被害者いねぇなら別にかまわねぇよ。何でそんな噂作ってんのか聞くだけ。せっかくだしねー」 「その読み、自信あるのか?」 「トラウマがあるってのは8割。あいつが俺を襲わねぇのは99パーセント」 「あるんだな。信じるよ」 「たださー俺に突っ込もうとはしねぇけど、自分をやらせようとはするかも」  それって……襲い受け……ってことか……!?

ともだちにシェアしよう!