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滅びゆく 上
滅びゆく世界で…。あたり一面、砂だらけでゴミみたいな人間しかいないと思っていた。滅びるなら滅びろ。こんなクソみたいな世界とも早くおさらばしたいと思っていたが、死ねなかった。怖かった。よくわからないものは怖い。死んでどうなるのかがわからないのだ。皮肉にも俺のその臆病な心が彼と出会わせてくれた。彼と出会わなければ俺は…。俺は暗闇の中、一筋の光を追った。
人類は滅亡間近だ。なぜって、男しか生きていないからだ。女はあるウィルスによって滅亡した。ちょうど10年前だったと思う。人類最後の女が死んだのは。温暖化によって海面が上昇し、大地は少なくなった。また、大地は砂漠に覆われた。残された男たちの心も荒れ果て、殺しや窃盗が平気で行われている。完全な無法地帯だ。10年前俺の両親が死に、6年前俺の弟がある暴力的なチームによって殺された。俺は許せなかった。残らずそのチームを皆殺しにした。俺は恐れられ、誰も近づかなくなった。〈皆殺しのタケル〉と呼ばれていたらしい。長いこと一人で孤独に生きた。誰とも話さないばかりか会わなかった。最初は苦しかったが慣れてしまいもう習慣になった。
ある格別に暑い日のことだった。近くに住んでいるなじみのスナネコと戯れていると足音がした。動物ではない。これはもしかして人間の足音? 何のために来たのか。俺は一応自分の家(といっても小さい小屋だが)から刀と銃を取り出してきた。目をこらして見るとフードをかぶった男一人のようだ。武器は持っていないように見える。俺は銃を構え怒鳴った。
「何の用だ! さっさと消えろ。殺すぞ」
フードの男は立ち止まり、叫んだ。
「俺はあなたに危害を加えるつもりはありません! 話を聞いてください!」
「呼んでねえんだよ! 失せろ!」
「両手を挙げて近づきますからお願いします。撃たないでください!」
「いや近づいたら撃つ」
「俺は弟さんを知ってます」
何。なんて。弟という言葉を聞いた途端、俺は熱くなった。
「嘘をつけ! 絶対殺す! その言葉を発するんじゃねえ!」
「俺は弟さんの友達でした」
「発するな!って言ってんだろうが!!!」
俺はカッとなって、撃った。だが、フードの男の腕を少しかすめただけだった。フードの男は腕から血を流したまま腕を上げ続けていた。痛いだろうに。こいつ!! 俺は気後れして銃を構えたまま自ら近づいた。
「お願いします…。痛っ…」
「両手を下ろせ」
フードの男はゆっくり腕を下ろした。俺は彼のフードを思い切って外した。顔があらわになった。今まで見たことないほどの美少年だった。黒髪に真っ白な肌、どこかミステリアスな瞳、目の下のセクシーなほくろ。整った顔立ち。年は若い。20歳前半くらいだろうか。久しぶりに人間に会ったから美しく感じるのだろうか。人間はこうも美しかっただろうか。俺はおもわずしばらく男を見つめていた。はっとなり、話かける。
「何の用だ。話せ」
「あの。お願いがあって来たんです。俺の力になってほしくて」
「図々しいやつだ。そのお願いとやらは?」
「ある男を殺してほしいんです」
「はあ? なんで見ず知らずのお前なんかのためにそんなことしなきゃならないんだ」
「報酬はもちろん渡します」
「報酬は?」
「俺があなたの奴隷になります」
「は??」
「俺が生涯あなたに仕えます」
「笑わせる。奴隷なんていらない」
「何でもします」
男は魅惑的にささやいた。
「いや、いらない」
俺は意地を張って言った。
「しばらく考えてください。また来ますから。では」
男はお辞儀をして、去ろうとした。
「おい! 待て! その傷みっともねえから手当してやる。来い」
男は意外そうな顔をした。俺は男を家に連れて行って、手当てをした。そのとき、話をした。男はタクミという名前らしい。ここの近くの町(町といえるほど町じゃないが)に住んでいるらしい。町に住んでるのなら仕事をしているのかと聞くとはぐらかされた。言いにくい仕事でもしてるのか。なぜ殺しを頼むのか聞くと、兄を殺されたかららしい。兄を殺した人を殺してほしいらしい。自分と少し一致していて親近感が湧いた。話をすると彼にいい印象を持った。瞳はあいかわらずミステリアスに輝いているが、意外と子供のような純粋な笑顔を見せた。それはどこか…弟の笑顔に似ていた。その笑顔がタケルは気に入った。手当てが済むとタクミは帰っていった。俺はそれからもずっとタクミのことを考えていた。人恋しかったのだろうともう一人の自分が冷やかす。実際そうなのかもしれない。しかし、今まで会った人間とは一味違った感情を湧き起こされた。
もうタクミは来ないのではないかとタケルは恐れた。時間がとてもつらく長く感じた。しかし、1週間後タクミは約束通り訪ねてきた。タケルの答えは決まっていた。
「久しぶりです。で、どうしますか?」
タクミは単刀直入に聞いてきた。ミステリアスな瞳と視線が合った。その瞳は俺に少し恐怖を感じさせた。闇に連れていかれそうな。いいだろう。それでも。闇がどうした。今までいたのがもはや闇じゃないのか。
「お願いとやらを聞いてやるよ。お前は一生俺の奴隷だ。俺のそばを一生離れるな」
「はい。ありがとうございます」
タクミは喜んでいるようだった。奴隷になるというのに。そして、あの子供っぽい笑顔を浮かべた。
それからタクミは俺と住むことになった。奴隷にすると言ったが、俺は奴隷とはどう扱えばいいのかわからなかった。猟で捕まえてきた獲物を調理しながら俺たちは話していた。
「タケルさん。俺は奴隷なんだからもっとこき使っていいんだよ」
「タケルでいいって何回も言ってんだろ。こき使うっていったってなあ…」
「思ってたのとぜんぜん違うよ。皆殺しのタケルっていうのだからいかつくて、マッチョなのを想像してたけど。見た目はそこまでごつくないし。しかも、わりとイケメンなほう。性格も言葉は強いけどすごく優しいし」
「お前らが勝手に変なもの想像してるからだろ」
気のない返事をしたがイケメンで優しいと言われ少し嬉しかった。
「あ、でもね。弟さんに少し話で聞いてたけど…」
タクミは少しはっとして俺の顔を見た。
「もう撃たねえから安心しな。その…腕の怪我は大丈夫か? 本当にすまない」
「大丈夫だよ。いつもタケルが手当てしてくれるからよくなってきてるし」
「で、話の続きは?」
「そう。弟さん…。ミナトに話で聞いてたんだけど最高のお兄ちゃんっていうのは聞いてたから、優しい人なんだっていうのは分かってたよ。俺がミナトが死んだことを聞いたのは実は最近なんだ。友達なのになんで?と思うかもしれないけど。まあ事情は後で話すよ。タケルはミナトに手を出したチーム、スノウを皆殺しにした。他の奴らもそうだと思ってたけど、実際は違ったんだ」
「なんだ…生き残りがいるっていうのか?」
俺は目の色を変えて言った。
「うん。一人生きていて逃げたんだ。そして、そのクズが俺の大好きな兄を殺した」
「そんなバカな。生きてるなんて。それは確かな情報なのか? 何でそんなこと知ってるんだ」
「僕はこの近くの町で稼いで、町一番の、遠くからもよく客が来るほど有名な情報屋に情報を売ってもらってたんだ。その人に証拠も見せてもらった。タケルもそれを見せてもらえばいいよ。明日町に行こうか」
「町か。気が進まないがそれは俺にとっても重要な情報だな」
飯を食い、俺たちは早めに寝ることにした。他に寝る場所がないので、いつも同じベッドで寝ている。しかし、慣れない。ときどき寝返りをうって触れ合うとびくっとしてしまう。
「ねえ、タケル起きてる?」
「なんだ。明日は町に行くから早く寝るぞ」
タクミの手が俺の腰に触れた。俺はまたびくっとしてしまう。
「俺は奴隷だから何でもしてあげるよ」
「何もしなくていいって言ってんだろ」
「たまってないの? 自分でしてるの? 二人でした方が気持ちいいよ」
「何言ってんだ! そんな破廉恥なことばっか言いやがって」
「タケルは品がいいね」
タクミの手が今度は俺の顔の向きを変えた。タクミの顔が目の前にある。物欲しげな顔でこちらを見ている。そして、ゆっくりと形の良い唇が迫り…。
「#$%&&!!」
俺は長い官能的なキスに耐え切れず顔を真っ赤にしてタクミを突き飛ばした。
「いったいなあ。もしかして初キス?」
「うるさい! 今度襲ってきたら殺すからな!」
「はい、はい。寝よう」
俺はそのキスのせいで眠れなかった。心臓がのたうって暴れまわってるかと思うほどバクバクしている。何回も何回もさっきキスした感覚が脳内の映像にリプレイされる。それに比べタクミのほうは1分後にもうすやすやと寝息をたてていた。こいつこういうのに慣れてるのか? ちらっと見たタクミの寝顔は月明かりに照らされてとてもきれいだった。
俺は寝不足のせいでクマだらけの目をこすりながら、外に出た。今日も変わらず暑い。タクミもいる。今日は町に出て、情報屋に重要な情報の証拠を見せてもらうことになっている。町に出るのなんて、何年ぶりだろう。家族がいたときは俺はその町に住んでいた。俺は深くフードをかぶった。タクミも最初会った時のように深くフードをかぶっている。そのメインの情報の他にもタクミに関することも分かればいいなと思った。なにしろ自分のことをあまり話さないからだ。砂漠の中を歩いて30分くらいして町に着いた。町は少し変わっていた。前にも言ったが町といってもかなり小規模だ。人口の低下により、町はもう数か所しかないうえにかなり小規模で、小汚い建物が数軒並んでいるだけ。町にいるのは30人程度だ。だから、町に住んでいる人たちはお互いのことをよく知っていて、よそ者が来るとすぐわかる。しかも、フードを深くかぶっている俺たちはかなり怪しく見えただろう情報屋がやってるというバーに行く前に俺たちは男数人に止められた。そして、銃を突き付けられ、
「どう見ても怪しい! お前らフードをおろして顔を見せろ!」
「いったい何の用で来やがったんだ! 早くしないないと撃つぞ!」
俺たちは仕方なくフードをおろした。
「何だと。タクミじゃねえか!」
「横の奴は誰だ?」
タクミが言った。
「タケルだよ」
「タケルって、まさかあの皆殺しのタケルか?」
「そうだね」
「うわあ~! 逃げろ!」
数人の男たちは散り散りに逃げていった。俺たちは先を急いだ。するとまたある人物に止められた。卑しい顔をした男だ。
「おお、タクミじゃねえか。町を出たのかと思ったぜ。良かった。そいつは客か?」
タクミが無視して行こうとするとさらに追いすがってきた。
「今度ヤってくれよ。な? 金はたんまりはずむから」
「もう俺はそういう仕事辞めたんだよ。失せろ」
「マジかよ。お前にとって天職だろ」
タクミは苛立たしげに走ってその男から逃げた。俺も後を追う。もしかして、タクミがやってた仕事って…。そのうちバーに着いた。このバーは俺が町にいたときはなかったはずだ。けっこうしゃれている。若いバーテンダーの男とロボットのバーテンダーがいた。客は5人くらいいいる。若いバーテンダーの男がはっとこっちを見た。
「タクミと…もしかしてタケルか」
「なんで俺のことを」
「情報屋だからね。知らないことはないよ」
チャシャ猫のようにニヤっと笑った。20代後半くらいの男だ。
「この人が例の情報屋だよ」
タクミがこっちを見て言った。タクミは情報屋の近くに寄り小声で言った。
「あの俺にも見せてくれたあの人の証拠をタケルにも見せてほしいんだ」
「無料で?」
「チッ…お前にはたんまり払ってるのにまけてくれないのか。これくらいでどうだ」
「はした金ですけど…まあこのくらいにしといてあげましょう。お二人ともこちらへどうぞ」
バーの奥の部屋に案内された。ドアがかなり頑丈だ。何か異質で殺風景な部屋だった。机といすしかなかった。窓もない。盗聴や侵入などできないようになっているのだろう。いすに座らせられる。
「証拠を持ってきますからちょっと待っててくださいね」
しばらくして情報屋がPCを持ってきた。
「タケルさんははじめましてですね。私、情報屋のジンと申します。よろしく。依頼があったらいつでも言ってくださいな」
俺は胡散臭そうなやつだと思いながらも会釈した。
「さあ、さっそく本題に入らせていただきますね。あなたが皆殺しにした犯罪チーム、スノウですが、生き残りの男がいたとはタクミさんに聞きましたね」
「ああ」
「その証拠なのですがこちらです。まず、これを見てください。これがあなたの殺した全員の死体の写真です」
情報屋は俺にPCを向けて示した。俺はとても気分が悪くなった。また見ることになるとは思わなかった。罪の意識と嫌悪の気持ちが渦巻いた。
「この中に一人顔が分からないほどグチャグチャになっている死体がありますね。これなのですが…。あなたがスノウを殲滅しているところを見ていた人がいましてね。その人の証言によるとあなたは顔はこのようになるまでは激しい攻撃をしてなかったと言っておられるんです。そうですか?」
「思い出したくないし覚えてもない。あの時は我を忘れていたからな」
「まあその証言をもとに私が調べましたところ、その皆殺しがあった日、一人男がこことは別の町から消えております。ということは、スノウの誰かが生きていて、誰かを殺して自分の身代わりにさせたということは考えられますね。私は死体を掘り起こして、もうこれは大変だったんですよ…。調べたところね、身長などが彼と全く違うんですよ。むしろ身長は別の町で消えた男と一致していました。誰かを脅してデータを改ざんしていたんでしょうね。まあそれがこちらですね」
PCがまたこちらに向けられた。個人情報登録のページと死体の横に巻き尺が置かれている写真がのっている。
「それと…スノウの全員の顔写真がこちらです。死体が顔がグチャグチャで分からなかった男はこのヤクという男ですね。知り合いに伝えて網を張っていたところついに奴は網にかかったんですよ。知り合いの言う場所に行き、接触しました。写真も撮りましたよ。ほら」
「確かに顔が一致してる」
「声紋も調査したところ一致しました。こちらがスノウの会議を盗聴した音声で、こちらが私が直接会って録った音声です」
なかなか信ぴょう性が高い情報だと思う。あの情報屋かなり怪しいが…。俺たちはバーを後にした。さっき聞いた情報について、小声で話しながら歩いた。それは突然だった。大きな黒い車が急に俺たちに突っ込んできた。俺たちは間一髪でなんとかかわした。大きな車はそのまま近くのボロボロの店に突っ込んで破壊した。車の中からいかにもいかつい男が6人出てきた。いったいなんなんだ。
「お前らだな。探りをいれてるやつは」
さっきの情報と関係があるのか。もしかして、スノウの生き残りのやつにもう勘付かれているのか。あんな厳重な部屋からでも盗聴できたのか。または、情報屋に接触しただけでも怪しいと認定されたのか。
「死ね」
いかつい男たちはそれぞれ刃物を取り出して襲いかかってきた。俺は腰に差していた刀を取り出して、鞘を抜いた。やってやるよ。返り討ちにしてやる。トレーニングはしていたが長いこと実戦はしていなかった。ちゃんと動けるだろうか。しかし、体はなまっていなかった。俺はタクミを守るように前に立ちはだかってまた一人また一人と斬っていった。銃を持っているやつがいなくて良かった。6人ならなんとか…。しかし、その思いもつかの間、後ろからつまりはタクミの背後に向かってバイクでさらに6人突っ込んできた。なに…! こちらもまだ4人残っているから、そちらの相手をすることは無理だ。クソっ。タクミ!! タクミはゆっくりとバイクで来た6人のほうを振り向いた。そして、それからは目に何もうつらなかった。あまりに速かったからだ。あっという間にバイクに乗った6人がバタバタとバイクから落ち倒れた。タクミは血まみれのナイフを布でぬぐった。
「あ~あ。汚ねえな。タケル応援いる?」
「いらねえよ!」
タクミもかなり強いようだ。まったく心配いらなかった。俺は横目でそれを見ながら戦っていたが安心すると一気に片付けにかかった。4人とも倒せた。あたりは血だらけで人がたくさん倒れていて恐ろしい有様になった。まさに地獄絵図だ。
「逃げるぞ!!」
「うん」
俺たちはバイクを奪って二人乗りし、俺の家に戻った。追ってくる者はいなかった。
「お前強いんじゃないか」
「ナイフは得意だよ」
「一人で兄の敵を倒せるんじゃないのか?」
「一人は無理だ。相手はチームだから。俺と同じくらい強い相手がもう一人いるからタケルに声をかけたんだ。今日はいっぱい報酬があるな」
タクミはぼとぼと財布や貴重品らしきものをポケットから取り出した。
「なんだそれ?」
「俺ちょっと手癖が悪くて」
「お前そういうのはやめろよ…。みっともないだろ」
「つい。ごめん」
「どんどんタクミのことがわかってきた」
「俺のこと嫌いになった?」
タクミは悲しげにつぶやいた。
「いや…嫌いだったらああいうふうに守らないだろ」
タクミの目が輝いた。
「守る必要もなかったけど。ふふ、ありがとうね」
タクミのまぶしい笑顔に打ちのめされて俺はしばらくタクミの目がまともに見られなかった。
結局、ここも直にスノウの残党に嗅ぎつけられるだろう。その前にこちらから攻めてやることになった。タクミに聞いたところそのスノウの残党は新たにエスというグループを結成しており、その残党がリーダーらしい。エスはスノウより危険で、生き残りの技術者、科学者などのインテリ(科学者、技術者も死に絶え生き残っているのはわずかだ。そのせいで、一度発達した技術、化学も衰退してしまった)もその中にいるらしい。だから、ただの脳なしの荒れくれ者ばかりのスノウより危険ということだ。
「エスは危険地帯Ⅲの中にアジトがある」
「危険地帯Ⅲだって?」
危険地帯Ⅲとは有毒ガスが発生していて、その名の通り危険で封鎖されている場所だ。
「科学者、技術者によって有毒ガスを無効化する方法が考え出されたのかもね」
「そんな危ないところにアジトをかまえて何をしてんだ」
「怪しいね」
「なあ、話は変わるが、情報屋に聞いてもしかしてと思ったことがある」
「何?」
「タクミの殺された兄貴というのはスノウの残党の死体の代わりにされた男か?」
「…よくわかったな」
「すまん。つらい話をしてしまって。話変えるか」
「いや…タケルだけには全部聞いてもらいたい。俺の兄、リュウ兄ちゃんはタケルに似た人だった。かっこよくて、強くて優しい。大好きな一番大切な人だった。今日行った町から1時間くらい西に歩いたところにある町で二人で住んでいた。両親は俺が8歳のときに死んだ。二人で協力し合って、質素で大変だけど楽しくてささやかな生活をしていた。なのに悪夢は突然はじまるんだ。ある夜、リュウ兄ちゃんが仕事から帰ってこなかった。そして、いつまでたっても帰ってこなかった。俺は探し続けた。町の人に聞きまわった。するとある男がリュウ兄ちゃんに関して何かを知っているようだった。その男は情報料がいると言った。俺はリュウ兄ちゃんが帰ってこないのでお金もなくギリギリで生きていた。親切な町人の施しでほとんど生きていた。お金がないと言うと体で払えと言われた。俺はよくわからなかったがどうしても知りたかったので体で払うと言った。俺は体を売った。色々な意味で衝撃的な一夜だった。体を売ってから…教えられた。リュウ兄ちゃんは死んだ。もう戻ってこない。隣町のある悪い奴の身代わりにされて殺された。しかも、おびき寄せるために俺を人質にしたらしい。ホントにクソだ。八つ裂きにしてやりたい。俺は有名な情報屋がいるというその隣町、今日行ったところだね。そこに移り住んで情報を集めることにした。情報屋には色仕掛けはダメで、金のみで取引だ。と言われたので、情報屋に金を払うため盗みや娼夫をして金をかき集めた。そして、情報を得た。復讐の計画は進んでいったが、一人では無理そうだということが障害だった。ある日俺はある客にタケルのことを聞いてとても興味がわいた。でも、悲しいことも知った。ミナトが死んだのを俺は知らなかった。それも最後に会ったときミナトが旅に出るからもうしばらく会えないと言っていたから。今思うと自分が死ぬのを知っていたから俺を悲しませないためにそのことを言ったんだと思う。ミナトがリュウ兄ちゃんを殺した奴のグループに殺されたことも知った。そして、その兄タケルがそのグループを皆殺しにした(結局は皆殺しではなかったけど)ことも。ミナトのお兄さんのタケル…俺と少し似ている境遇だし、強いから仲間にできたら最高だと思った。一か八か行ってみようと思ってここに来た。そして、タケルに出会った」
「ありがとうな。話してくれて。大変だったろう」
俺はタクミの手を優しく握りしめた。
「タクミが俺をリュウさんに似てると思ったように、俺もタクミがミナトに少し似ていると思ったんだ。特に笑顔が」
「そうなんだ。不思議だね。なんだか俺たちが出会ったのは偶然じゃない気がする。強く運命に結ばれているような…。でも、娼夫や盗みをしていたような奴になんか言われたくないよね」
「俺はタクミがそういうことをしていたとしてもみすぼらしいなんて思わない。話で聞いた限り、それは仕方がなかったようだしな」
「そう。じゃあ甘えて言わせてもらうけど俺はタケルのことが好きだよ。もちろん恋人になりたいっていう意味で」
タクミの真剣なまなざしが突き刺さる。俺は恥ずかしがりながらも声をふり絞ってかすれた声を紡いだ。
「俺も…好きだ」
そのときのタクミの嬉しそうな顔といったらとてもしおらしかった。幸せを静かにかみしめているようなそんな顔だった。俺は思わずキスをした。タクミの瞳がミステリアスに輝いてもっとと誘っている。俺はタクミをベッドに連れていって、しばし触れ合った。タクミは官能的だった。思わず理性が吹っ飛びそうになるのを必死で抑える。
「俺、客以外とヤるのはじめてだ。しかも、好きな人と」
「俺なんかヤったこともねえよ。あの…恥ずかしいけど教えてくれるか?」
「うん。俺がリードする」
「でもいいのか。俺はリュウさんと似ているんだろ」
「それをいうと俺もミナトに似てるんだよね」
「タクミはタクミだから。他の誰でもない。誰の代わりでもない」
「俺も同じこと思うよ」
その夜は熱く交わった。俺は愛という危険だけども心地よいあたたかさを放つ魔物に手を伸ばし始めていた。家の外ではあいかわらず砂漠の静かな闇が続いていた。
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