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こんにちは、僕の番くん
――運命の番とやらが、存在するらしい。
そう聞いたのは学校で第二次性別検査を行う時だった。
「拓実、今日はコンビニ寄る?」
「寄る。新商品の飴が出てるらしいから」
「無類の飴好き過ぎないか?」
竹内 拓実 。高校二年生。とくにこれと言って目立つものはなく、俺自身もそこまで向上心がないせいか自己紹介などで他の事を口にすることがない。
まあ、強いて言うなら飴が好きってぐらいだが、これも他人にわざわざ口にするネタではないと判断しているため、友達という友達ぐらいしか知らない事だ。
「慎吾 は?なに買うんだ?」
「あー、俺アレ買わなきゃだからドラッグストア行かなきゃなぁ」
「あー。アレなー」
そして友達の一人、慎吾は幼稚園の時から一緒の幼馴染みだ。
お調子者で怖いもの知らず。時々、ひやっとする場面もあるが、慎吾だしいいかな――と流す。
なんつーか、第二の性別以外は周りと比べて普通なんだと思う。
「慎吾は市販のでいいんだっけ?」
「ああ、最近の市販薬は進化している証拠だ」
「俺も買おっかなー。無くなってはいないけど、ストックも必要だろうし」
「じゃあコンビニじゃなくてそのままドラッグストアに行こうぜ?あるだろ、飴ぐらい」
「新商品だぞ……あるかな」
「あるあるー。あー、オメガって面倒ぇ」
そう言って慎吾はたまたま靴に当たった石を再度蹴って眺めていた。
――オメガ。この世の中には男と女の性別以外にも、第二の性別が存在する。
【α-アルファ】【β-ベータ】【Ω-オメガ】
ベータは一般的で人口的にも多く存在するもので、特別なにかがあるわけじゃない。しかしアルファとオメガには差別かってぐらいいろいろな差があり、大昔は大変だったらしい。
歴史に詳しい父さんが言っていたのを覚えてる。
根本的に昔と一緒でも今の方がだいぶ物の見方が変わってきてて生きやすくなってるんじゃないかなって。
重かったんだと。Ωの性は。
αの性は比較的に出来の良い人間が多く、オメガはアルファやベータよりも出来が悪い人間が多かったと。
稀にアルファを越すオメガも存在するらしいけど都市伝説なみの話だって言ってたなぁ。
まあ、そんなわけで俺も慎吾も第二次性別検査結果では【Ω】だ。大昔の時代なら俺はもう死んでたかもしれない、オメガ。
嫌か嫌じゃないかといえば、どっちも言えないのが本心。ただ、めんどくさいことに定期的に訪れる発情期を抑える薬を飲まないといけない。
それがなければオメガだろうがなんだろうが、どうでもよかったんだが……。
幸いにも俺と慎吾は市販の薬で抑えられる程度だから、他のオメガよりは運が良いのかもしれないな。
副作用もないし、順調な体に感謝する毎日だ。――若干、感謝の気持ちを盛ってしまったが。
「ちょっとトイレ行ってくる。でっかい方だから拓実はそこら辺で待っててくれ」
「お前きたねぇな」
はやく行ってこい、の合図で手をシッシッをはらう。
ベンチに座って時間確認ついでに今日の晩ご飯はなにかと母親に連絡を入れて、静かに慎吾を待つ俺。
第二の性別が存在するからといって、俺がオメガだからといって、やっぱり特別なにか変わったことはない。むしろこのまま鉄板人生を歩むのかな、なんて考えていたりもする。
結婚するのは第二の性別同士。たまに違う性の人達もいるみたいだが、基本が基本だ。――まあ俺の両親はアルファとオメガの男同士なんだが。
それもあってなかなか驚かない。偏見もない。
運命の番って言葉にも、それほど驚かなかった。
「こんにちは、僕の運命の番くん」
「……」
「こんなところでどうしたの?」
「……」
ぼーっと慎吾を待っていたら、変なのに絡まれた。ちなみに今日の晩ご飯は焼肉丼。
「そういや友達を待っていたんだっけ。一人でいたら危ないよ?」
「……」
「隣、いいかな?」
「……」
「あ、でももうちょっと顔……いや、つむじを見ていたいからこのままでいようかな。そうだ、僕の名前は――」
そしてその変な奴はお構いなく喋る。ビビるぐらい喋ってくる。なんか名前言ってきたけど耳に入ってないからわからないな。
変質者、というべきか……慎吾、いい加減戻ってきてくれ。
「――というわけで、俺はアルファ。拓実くんはオメガ。俺と拓実くんは運命の番だから、付き合おう」
「え」
「やっと目が合った」
引っ掛かった言葉に思わず顔を上げてしまった。そしたらなんか、すげぇ良い顔の変な奴だった。
IQ2みたいな感想になってしまったが、そうとしか言えないイケメンだ。サラサラな黒髪、流した前髪を特徴にパッチリ二重。鼻もシュッとしてて唇が薄い。
背もきっと高いだろう。いや、高い。細身にしてはわかる、筋肉ありそうな体。半袖から見える腕は俺の腕と確実に違う。細マッチョってやつ?
というか、こいつが着ている制服ってアルファしか入れない超有名校のじゃないか……?
そんな奴が、なんで俺の名前やオメガなんてものを知ってるんだろうか。
第二の性別なんて――特に学生の間は口にしない方がいいって聞いたんだが、なんで知っているんだ?
「……お前、なんだ?」
「もう一度、最初からやり直しとく?」
その言葉の意味がわからず、つい頷いてしまったのだが――反応は合っているだろうか?
「はじめまして、僕の番」
「はじめまして。どういうことだ?気持ち悪ぃ」
ちゅっ、とキスされた頬を拭う。
ナチュラルにキスされた。頬っぺでも気分が下がる。俺、差別しないとか言いつつダメだな。いや、ダメなのか?
これは、正しい反応な気がするが……どうなんだろうか。
つーか、さっきからいい匂いがするなぁ。
「知らない?運命の番」
にこにこしていた表情から、首を傾げて尋ねてくる相手。
運命の番。
知っているには知っている。両親がその部類だし。慎吾からも聞いていた話だ。
アルファとオメガだけにしかない――出逢った瞬間、強烈に惹かれ合うって。慎吾はその後、少しだけバカにしていたが、俺の親はそれだぞって言ったらすげぇ興奮してたっけな。
まあ、なんだ。そのぐらい運命の番ってのはすごいものなわけで、この説明でいくと俺とこいつは運命の番ではない。
なぜなら、俺が強烈に惹かれてないからだ。こいつに。
「残念だが、人違いのようだな。俺はそう思わないぞ?」
「そうかい?僕はそう信じてやまないよ」
「お前が言ってるその運命の番とやらをウィッキー先生に聞くといい。なんなら俺も見てやるから」
「……そう?」
慎吾もまだ時間が掛かるだろう。暇潰しに、わけのわからないこいつと遊んでも怒らないだろうし。
ベンチのド真ん中に座っていた俺はこいつを座らせようと端に寄る。するとこいつも自然に座ってくれて、俺のスマホを覗いてきた。
YAFOO!!!ページに移り、すぐ検索ワードでウィッキー先生を入力。そのあとはすぐに辿り着ける【運命の番:とは?】のページ。
音読かのように読み進めるなか、最後にはまた同じだ。
「だからほら。こんにちは、僕の番くん」
「お前ってしつこいなー」
スマホを制服の胸ポケットにしまい、また静かに慎吾を待とうと溜め息を吐く。いろいろ気になる点はあるものの、そうそうに会うことはないと決めつけて無視。
俺の隣から全く動こうとしないこいつは、それ以来なにも発さなくなった。
――なんなんだ、このくそ甘い匂いは。
「お前、飴でも食ってんの?」
「……ほらね」
【こんにちは、僕の番くん-END】
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