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~エピローグ~

「俺、思ったんだ」 その時、それまで黙っていた由貴が口を開いた。 「俺達が居る限り、きっと誰かをまた不幸にしていくって…」 由貴の独り言のような呟きに返事はない。 馨の顔には珍しく、焦りみたいなものが浮かんでいる。 車はスピードを上げて下り坂を進んでいく。 だんだんと険しくなっていく馨の顔に対して由貴の顔は静かだ。 前を向いたまま由貴は再び口を開く。 「諦めなよ」 「………え?」 「いくらブレーキを踏んでも、止まらないよ」 「おまえ…まさか…?」 必死にハンドルを握る馨を振り返り、初めて由貴はニッコリと笑った。 「このスピードじゃ飛び降りることもできないね。おまけにこの先は急カーブだ」 「お前…こんな事をして、わかっているのか…お前自身も、助からないぞ」 「助かろうなんて思ってないよ」 由貴の言葉に、馨が黙る。 「俺を馨の物にしたいんでしょ。この方法だと完璧だと思わない?」 「……………」 馨はその時、由貴の顔を見詰めた。 馨と由貴は、そこで初めて見詰め合う。 雨は激しく降り続き、急カーブが見えてきた。 「それとも、僕と一緒じゃ不満?」 それまで探るように由貴の瞳を見詰めていた馨は、ハンドルから放した手を由貴に伸ばす。 馨にキツく抱き締められた由貴はそのまま目を閉じ、馨の背中に腕を回して微笑んだ。 ……………………………………………………。 …………………………。 ……………。 ……………。 …………………………。 ……………………………………………………。 -車はスピードを落とさずガードレールを突き破ると、崖下に落ちていった-。                   《完》

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