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第1話 運命の物語
「あの…俺いつも、見てます…!これからも、応援してます!…それと、ありがとうございます!」
その瞬間から、俺の運命の物語は始まった。
震える手で、目の前の繊細で綺麗な手を握る。
ふわっと俺の世界がたくさんの花に包まれた気がした。
きゅっと握り返されて、胸がいつも以上に高鳴る。
一瞬で頭が真っ白になって、前から用意していた言葉なんて全然覚えていなくて言えるわけがないし、言うならば自分が今何を発しているのかさえ分からない。
笑顔を浮かべていた目の前の人が、口を開きかける。
「すみません。次の方いるので」
運命の物語は、呆気なく終わった。
多分何か言いかけてたんだろうけど、後ろのスタッフに誘導され聞くことができなかった。
なぜか周りはいつも以上に興奮して騒がしかったし、警備しているスタッフもピリピリしている気がして、流しが早かった。
少し振り返って何を言ったか思いだせば、顔が熱くなって冷や汗がどっと流れる。
我ながら意味わかんないし、ストーカーみたいな台詞だったなあ…
少し肩を落としながら階段をのぼる。
もうちょっと話したかった…なんて我儘は言えない歳だし…
俺は階段をのぼりきり、外へ出る。
しばらくとぼとぼと歩き、丁度いい手すりに腰をかけ、ぼうっとする。
あーー…思ってたより、手大きかった…
俺は、青空に向かって手を伸ばし、握られた時の感覚を思い出す。
綺麗なのに、男らしくかたくて熱くて…
俺の手なんて…ほっせえし死んだみたいに白いし…
細く白い指の間から太陽がチラチラと照らし、俺はグッと力を込めて握った。
いや、それにしても…やっぱり、かっこよかった…
『今話題の男性アイドルグループ!Sniper!』
音のする方へ目を向ければ、大型ビジョンに映し出される三人の男達。
歩いていた女の子達が、足を止めてはキャッキャと叫ぶ。
他にも、サラリーマンやら子供やら、犬猫も。
俺も釘付けで、目を追う。
そして彼らが何かの宣伝でもしているのか喋り始めると、女の子たちは携帯を持ち始めた。
多分動画でも取っているのだろう。そして何故か自分の方にもカメラを向けていた。
大型ビジョンから彼らの姿が消えると、何事もなかったかのように止まっていた人達は歩き始める。
それをぼうっと眺めながら、ポケットからイヤホンを取り出して携帯に差し込めば、先程の大型ビジョンから流れた声がイヤホンから直接伝わってくる。
けれど、少し違うところがあり、それはテンポ感があってリズムにのっているところだ。
彼らのつい最近出した曲が俺の鼓膜を震わせる。
グッと噛み締め、胸の高鳴りが止まらない。
いい曲は何度聴いてもいい曲なのだ。今にでも自分が踊りだしそう。
なんてオタクすぎる自分が恥ずかして誇らしかった。
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