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第71話 スリーピーホロウ13p

「日下部、な、何してんだよっ!」 「いや、お前がどんな顔をしてるのかと思って」 「はぁ? だからって急に、お、押し倒すとか、どうかしてるだろ!」 「好きにしていいって言ったじゃん」  平気な顔でそう言われて、天谷の頭に血が上る。 (何だよ、こっちばっかり焦って、取り乱して、日下部のヤツは余裕かよ)  悔しい、と天谷は思ってしまう。 「言ったけど、そういう意味じゃなくって」 「そういう意味ってどういう意味?」  日下部が意地悪く言う。 「そんなこと訊くなよ、バカ。もう十分顔見ただろ。どけよ」 「まだちゃんと見て無い」 「っつ……」  天谷は片手で覆って顔を隠す。  きっと、どうしようもない顔をしているに違えないから、そんな顔を日下部に見られたくなかった。 (笑われてたまるか!) 「邪魔だろ」  そう言うと日下部は顔を隠している天谷の手を掴んでベッドに押し付けた。 「くっ! 離せ、日下部!」 「なら、抵抗すれば?」 「はぁ? 出来ないとでも思ってるのかよ!」  天谷の台詞を日下部はニヤリと笑って返した。 (こ、こいつ、笑いやがって。ばかにしてっ!)  もう片方の手にも日下部の手が重ねられる。  天谷の心臓が口から飛び出しそうなほど鼓動する。 「なぁ、今、何考えてんの?」  日下部の低い声がそう言う。 「な、何って、別にっ……何も考えてない」  天谷の消え入りそうな声を聞いて、日下部は、「ふーん」と言って天谷を、目を細めて眺める。 「何も考えて無い割には焦っちゃってるじゃん。なぁ、何でそんなに焦ってんの?」  訊かれて天谷はこっちが訊きたいよと思う。 (どうして俺はこんなに焦って緊張してパニック状態なんだ? 何でこんなに苦しいんだよ!)  イライラした感情を日下部の余裕の顔が刺激する。  天谷は日下部をキッと睨んだ。 「良い顔になって来たじゃん」  のんびりとした調子で日下部が言う。 「日下部、あんまりなめるなよ。怒るぞ」 「はぁーん。じゃあ、怒って見せろよ」  日下部の体がズシリと天谷にのめり込む。  絡まった手はさらに強く握られる。  天谷の手がじっとりと汗ばむ。 「お前、俺が今、何考えてると思う?」  訊かれて天谷は首を振る。 「知る訳ないだろ、ばかっ!」 「嘘、知ってるくせに」  日下部はニヤリとしてそう言う。  天谷は自分の体にゆっくりと日下部の体の重みが加わっていくのを沈むベッドでまるで時間が止まったかのように味わった。  この場ではジョークみたいな自分が着ているgive me moneyの文字の入ったティーシャツ越しに日下部の体温を感じてる。  天谷はめちゃくちゃに壊れた頭を何とか動かし声を出す。 「ちょっと、日下部? 冗談はいい加減に……」  もう、天谷は強がりを言えなくなっていた。 「は……なし、てっ……」  天谷は細い声でそう日下部に懇願する。  しかし「黙ってろよ」そう言うと、日下部は天谷を握る手に更に力を込めた。 「痛っ……」  天谷は痛みで顔を歪める。  日下部の手から力が少し抜けたようで、天谷はホッと息を漏らした。 「何、ホッとしてんだよ。抵抗しなくていいのかよ?」  そう言われても、天谷は胸が痛いばかりで何もできずにいた。

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