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第1話

 ついてない。 ホンットに、ついてない。  入学早々、俺こと刈谷悠一はとっても機嫌が悪かった。担任が新米教師なんてイヤだ。今まで新米の担任が受け持ったクラスはロクなクラスにならなかった。  運が悪い。他のクラスは皆ベテラン、定年間際、と、中堅が揃っているのに。だいたい新入生に新米の担任なんておかしくないか?  ぶつぶつぶつぶつ……  思いつく限りの不平不満を頭の中で並べ立て、廊下を歩いていると。 「おーい、そこの新入生。早く自分の教室に入りなさい」  言われて俺は思わず相手を確かめる前に睨み上げた。もともとから目つきは鋭い方なので、凄みがある。目つきが悪いと言われることもしばしばだ。 「君、もしかして迷ったのか?何組?」  俺がくれてやったガンなど気にせず、子どもに言うように優しく声をかけてくるそいつに、俺はどうしようもなく腹が立った。 「バッカじゃねぇの」  捨て台詞だけ残して、さっさとお望み通り教室に入ってやった。 「皆さん、入学おめでとう。僕がこれから一年間みんなの担任を務める、長谷部貴之です。いろいろわからないことや困ったことなんかもあると思うので、そんな時はいつでも相談してきてください」  バカと吐き捨てた相手は、なんと自分の担任だった。そう、俺の不機嫌の根源。 しかし、思っていたほど軟弱な新米ではなかった。新米特有のいっぱいいっぱいで委縮したような、切羽詰まったような、そんな感じはなかった。  ひょろっとして気が弱そうではあるが、物腰が穏やかで大人びている。  決して大きすぎるわけではないけれどもよく透る声、誰にも嫌悪を抱かせない流暢な話し方、いつの時も絶やさぬ柔らかな笑顔。  彼の周りだけいつも日が差しているような、そんな印象だった。  そんな長谷部なので、一週間も経たぬうちに女子生徒たちが騒ぎ始めた。  俺はそんな連中を軽蔑している。  馬鹿馬鹿しい、相手は先生だろうに。おとなしく勉強を教えてもらってさえいればいいものを。  またまた皮肉な事に、担任でもあるそいつは、俺の唯一の苦手科目・現代文の担当だったのだ。 よりによって担任が現代文の先生とは、本当にどこまでもついてない。  現代文なんてできる奴の気が知れない。答えが有って無いような、曖昧さの極地。 あんなフィーリングで解くようなものは学問ではない、と俺は主張する。  したがって、現代文を専攻する人間など関わり合いにもなりたくないぐらい理解不能である。  俺の現代文アレルギーがバレてしまったのは、入学後すぐの実力考査の答案が返却された時。 「はい、岡田。次……刈谷?お前これ、真面目にやったか?」  出席番号順に答案を返す長谷部の表情が曇った。 「勿論です」  ぶっきらぼうに答える俺を見て、悲しそうなカオをしやがった。 「俺のこと、そんなに嫌いなのか……」   何を言ってるんだこの男は。そういう問題じゃないだろう。確かに嫌いだけど。 「俺は現代文が嫌いなだけです。担任の好き嫌いと成績は関係ありませんよ」  ……ヘンなヤツ。

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