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第9話
悠一は顔から耳まで赤くなった。
こんなに自分の事を、二人のこれからを考えてくれてたなんて。
それなのに自分はといえば、早とちりした挙句感情に任せて罵って……恥ずかしい。やっぱり、まだまだ子どもだ。そして先生は、やっぱり大人なんだ。
「っ、センセ……」
泣き出しそうな悠一の目を覗きこみ、小首を傾げながら優しく言う。
「いつになったら名前で呼んでくれるの?悠。俺、まだ悠の先生止まり?」
「だって……」
「『だって』、何?」
「『貴之』って呼べって言ったけど、年上に呼び捨てなんか……」
「なにが年上に、だよ。普段人を人とも思わぬ扱いのクセにさ」
目は優しいまま、長谷部のささやかな反撃。
「じゃあ……貴之」
「ん?」
「今までずっと……ごめん。俺、子ども扱いされたくなくて背伸びして、いっつも生意気なことばかり言って……」
それを聞いた長谷部は、相変わらず嬉しそうに、幸せそうに笑って言った。
「いいんだよ。そんな悠が好きなんだから。これからも、今の悠のままでいいんだよ」
コツンとおでこをぶつけて、この時初めて唇を合わせた。
「た、たかゆ」
「悠一が卒業するまで我慢しようって思ってたんだけど、ごめん、無理だった」
茹で蛸のように真っ赤になる悠一と、少し赤くなって鼻の頭をかく長谷部。
「……キスだけじゃなくて、いろんなこと、我慢してるんだよ、これでも」
日ごろから長谷部が何もしてこないことに少々疑問というか不満を抱いていた悠一は、その時初めて長谷部の心の内を知ったのだった。
「さっきの話だけど。一緒に来てくれる?」
「えっと、フランスの話?」
「うん」
「でも俺、フランス語全然わからないんだけど」
「あは、大丈夫大丈夫。俺も全然わかんないから!」
「はっ?」
二人は顔を見合わせると、声をあげて笑った。
来年の誕生日は生きてきた中で最高に幸せな誕生日にする。悠一はそう決意した。
長谷部と二人でドライブする。運転はもちろん、悠一だ。十八の誕生日を迎えると同時に、免許を取ろう。長谷部のように道を間違えないし、いつでも好きな時に、好きなところへ二人で行ける。
疲れたら交代して、ずっと二人で同じ道を走ろう。
二人ならフランスだって地の果てだって、どこまでだって走り続けてやる。
そのころには俺だって、今より少しは大人になってるはずだから。
だから、その時は、さっきの続きをしてくれる?
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