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第1話
円と研人の場合
円。→赤瀬円(あかせ えん)。先輩。研人よりも身長が低いのを気にしている。平均身長だと思っている168cmのツンデレさん。
顔は可愛らしいが負けん気は強い。押しに弱いので押し切られて関係を結ぶも、実は円も研人のことが好きだったと言うオチ付。
研人。→野村研人(のむら けんと)。後輩。やたら身長がある。2m近い。能天気で天然。ひたすら円が好き。
顔は堀が深くモデル並だがモテてる自覚なし。彼のご機嫌を取るのが日常の一コマとなっている。それもこれも好きの極み。彼の犬。
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遠足に行こう。
そう言い出したのは研人のほうだった。
「今日はいい天気だし、ふたりとも何もすることないんだから、遠足に行きましょうよ」
「遠足?」
「はい」
「お弁当持って公園とか行きましょうよ」
「……そういうの、ピクニックって言うんじゃないのか?」
「ぁ、そうでしたっけ」
「そう。ピクニックだ」
「ああ。遠足はそれにおやつ付きですね」
「……そういえばそうだけど」
「だったら公園に行く途中にお菓子屋さん寄りましょうよ。そこで何か買って」
「分かった分かった」
そんなわけで何もすることがないのをいいことに提案された遠足と言う行楽を楽しむことにする。
しかしそれからがやっかいで、円は二人分の弁当を作らなければならなかった。
「だいたい急に言うから材料からしてない」
「だったらコンビニで弁当も買って行きましょうよ」
「……お前、弁当まで買って行ったらちっとも遠足じゃないだろうが」
「………そりゃそうですけど……」
「弁当くらい持参して行かなきゃ」
「円さん律儀ですね」
「それを律儀とは言わない」
「だったら何て言うんです?」
「……分からないけど。だって遠足なんだろ?」
「そうですけど」
「だったらそれでいいじゃないかよ」
「そうですけど」
何だか不服そうにする研人を横目に、ない材料でどうにか弁当を作ってみる。出来たのはオニギリと卵焼き、それにタコさんウインナーくらいだ。
「これしかないっ」
「上等ですよ」
「うん……」
箱に入れるとスカスカなので、それならとキッチンペーパーで一人分づつ綺麗に包む。それでどうにか体裁が保てた。
「これでいっか」
「円さんいつでもカッコイイですね。何でも出来ちゃいますね」
「そうだろ?」
「はいっ」
「……」
喜ぶ顔が見たくていつでも工夫を繰り返す。円はニマニマと嬉しさを噛み締めながらそれを袋に入れたのだった。
○
お茶を持って弁当を持って店屋に行ってお菓子を買うと公園に向かう。日差しもちょうどいいし、緑も映えてていい感じだ。ふたりは手を繋いでこそいないが、まさにそん感じで足取り軽く歩道を通ると木陰を探してそこを陣取った。
「ぁ」
「?」
「忘れた……」
「何をですか?」
「シート。座るシート」
「あーーー。そうですね」
木陰はいいのだが、そこは芝生ではなくて土だったので座って食事を取ると言う気にはなれなかった。
「どうする……」
「今日はそんなに暑くないし、別に太陽あるとこでも構わないんじゃないですか?」
「暑くないか?」
「食べたら芝生でのんびりしましょうよ」
「そりゃいいけどさ……」
言いながら適当な場所を探す。
ふたりはよく陽の当たる芝生の上に腰を下ろすと袋から弁当を取り出した。
「この外で弁当を食べる感覚、いいですよね」
「そうだな」
のんびりと言う言葉がよく似合うような公園での食事は部屋で食べるのとはまた違う『おいしい』という感覚を刺激してきた。
「シートなくて正解でした?」
「まあ、そうだな」
「それにこの手弁当、やっぱ円さんが作るとおいしいですね」
それは一重に自分が作れないからに違いないのだが、あえてそれは口にしない。円は黙って自分の弁当を開けるとパクッとオニギリに食らいついた。
「うん。いいね」
「でしょ?」
「お前が言うのかよ」
「だって円さん全然自分のこと偉大とか思ってないし。そういう時は俺が言わないと」
「別にそんなこと言ってもらわなくても」
「でも言われると嬉しいでしょ?」
「……うんまぁ」
「円さんのお弁当おいしいな」
「……」
「俺、円さんの握るオニギリ好きですよ」
「それはお前が料理出来ないだけで」
「いやいや、そういうんじゃなくて。大きさとか形とか人によって違うでしょ?」
「そんなの毎日違うだろ」
「でも俺は円さんの握ったオニギリが好きなんです」
「……そうですか」
「はいっ」
ニコニコとされるともう否定出来なくなってしまう。円は恥ずかしいのをどうにか抑えようとそっぽを向いてオニギリを食べたのだった。しかしあまりに意識していたせいか、咳込んでしまい口から物が飛び出しそうになる。
それをどうにか抑えようと口に手を当てて防御するのだが、どうしてもそれだけでは収まらない。
「うえっ…げぇ…げぇ…」
「大丈夫ですか?」
「う…うん、どうにか……」
「ああ、ご飯落ちちゃいましたね。逆流とかしてないですよね? 大丈夫ですよね?」と背中をドンドンされて、それがまた異様に強くて手で振り払う。
「円さん……」
「痛いんだよ、お前のトントンはっ!」
「……」
「お前のはトントンじゃなくてドンドンなの! もうやめれ」
「だって……。本当に大丈夫ですか?」
「どうにかな」
だからやめろともう一度空中で振り払う仕草をする。
「お茶飲みましょうか」
「うん」
「念のために逆さにして振りましょうか」
「……お前、俺を何だと思ってるんだよっ」
「大切な大切な愛しい人ですよ?」
「だったら何でそんなことするって言うんだ。そりゃ大の大人にすることなのかよ」
「逆さにしても俺なら円さんを振り振りできます。よく赤ちゃんが物を詰まらせた時とかにやるでしょ?」
「俺は赤ちゃんじゃねぇぞ」
「分かってますよ?」
「だったら」
「知ってます? ご飯とか食道に入って行っちゃうと肺の中でカビたりして大変なことになるんですよ? 量が多いとか少ないとかの問題じゃなくて、入るか入らないかの問題でして」
「……何か、言い方がだんだんエロく聞こえてきたのは、俺の勘違いかな」
「……」
「俺の勘違いかな?!」
「……」
「聞いているっ!」
「……意図的です」
「良し、お前が悪いんだな?」
「はい、すみません……。って、全然方向が違うほうに行っているような」
「お前がそうしたんだろっ」
「だけど本当に逆さにして振ったほうがいいですよ」
「いいっ。もう大丈夫だから」
「駄目ですよ」
「大丈夫だって」
「死んでもいいんですかっ?」
「いや、大げさだから」
「大げさじゃありませんからっ。もう、駄目ですね。やっぱりちゃんとやっておかないと」
言うが早いか、円は足首を持たれて空中で何度もフリフリの刑にあったのだった。しかも公衆の面前でだ。
恥ずかしいことこの上ない。
地面に下ろされた時には恥ずかしくて顔が真っ赤になるほどだった。
「許さないからなっ!」
「許してもらわなくて結構ですっ。俺は円さんが病気になるのは嫌なので」
どちらが正しいのかは、この場合よく分からないが、円は恥ずかしくて無言で家に直行したのだった。
そしてその日は一日終わった。
円はだんまりになり、研人は謝ってきたのだが、それは言葉だけの上っ面な謝罪だと分かっているので口も聞かない。
大嫌いだっ!
でも本当は自分のためを思ってしてくれたのくらいちゃんと理解している。
だからこの状況をいつ打破するのか、今必死になって考えているところだ。
どうすればいいんだっ~!
「うーっ!」
終わり
20190511
タイトル「遠足に行こう」
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