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第1話

「ああもうなんなんだよ、アイツ!」 小さなサーカス団・クラウゼヴィッツ。 その花形スターになるはずだった空中ブランコ乗りのジェイミー・ローズベルは、燃えるような赤い巻き毛を振り乱し、親指の爪を噛みながら言いました。 彼が爪を噛むのは決まって機嫌が悪く苛立っているときか、どうしようもない不安を抱えているときです。 この場合、彼は苛立っており、また同時にどうしようもなく大きな不安を抱えてもいました。 「もうすぐ2年だ、2年経つんだぞ! それなのに僕はまだ一度も『飛んで』ない! アイツのせいで!」 より正確には、今日が1年と8ヶ月と11日目でした。 それはジェイミーのパートナーが空中ブランコに乗れなくなってしまってから、そして、ジェイミーがこのクラウゼヴィッツサーカス団に入ってから今日まで過ごした日数です。 つまり、ジェイミーはサーカスに入団したものの、一度もブランコ乗りとしてステージに立つことのないまま日々を過ごしてきたのです。 空中ブランコの演目のないサーカスなんて、イチゴの乗っていないショートケーキのようなものです。 お客たちはパンフレットに演目が載るのを心待ちにしていましたし、サーカスの団員たちも一日も早い再開を望んでいました。 けれど、半年が過ぎ、1年が経って…… そして今日まで、再開することはありませんでした。 「なあ、アマデオ。まだ無理なのか?」 「……ああ、すまない」 もちろん本番のステージに上がれないからと言って、ジェイミーは一日たりとも練習を欠かしたことはありません。 いつか『飛べる』日がきたときに、胸を張って花形スタートしてステージに上がれるように。 幼い頃から夢見たサーカス団で、スポットライトを浴びて『飛べる』ように。 その想いがあったからこそ、披露するあてもない演目の練習だって、ステージに上がり華やかな歓声を浴びる団員たちをテントの裏から眺めるだけの日々だって、辛くはありませんでした。 サーカス団のもう一人のブランコ乗り、アマデオ・ルッツがブランコに乗れなくなったのには、それなりに重大で悲しい理由がありました。 クラウゼヴィッツの団員たちがそろって『例の事件』と呼ぶ、とても不幸な出来事です。 それはジェイミーがクラウゼヴィッツにやってくる日の早朝に起こったので、詳しいことは知りません。 けれど、いつまでも知らないままではいられません。 知らないまま後から団員たちに尋ねて回り、聞き出した情報を総合すると、どうやらアマデオの双子の妹が関係しているらしいことがわかりました。

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