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Ⅵ いつかの朝のように……
「あなたは!陛下の召集にも応じず、いつまで歌ってるんですかッ」
「なんでーッ」
バタンッ
ドアを割る勢いで入ってきた姿は、
忘れもしない。
忘れる訳がない。
ゴーグルの下の翡翠色の碧眼を。
特務隊隊長 アドラー・クラレ
「プレヤーデンの特務隊がなぜッ」
「逆ですよ。私は我が国の特務隊・潜入調査官です。その名前も偽名です」
えっ……
アドラー・クラレ(仮名)は味方?
「ある御方の密命を受けてあなたを陰よりお護りいたしました。もっとも最後は想定外の事態に見舞われ、あなたに銃を向けましたが」
想定外?
「そんな事より、本日こそ召集に応じて頂きます」
「嫌です。俺は仮初めの皇族。兄上の傀儡 になる必要もない」
……『君は全く……不敬罪だな』
声は胸の奧をくすぐった。
知っている。
あなたを、この声を。
白銀のフルメタルアーマー
空色の羽
「私にも教えてくれないかい?君の口ずさんでいた歌を」
記憶が鮮やかに甦る。
「グランツ!」
否。
この名だって仮初めで。
でも!
お前はグランツで、俺の騎士。
「俺の夫だ」
「そして君の兄だよ」
銀の仮面から零れた黒髪
黒曜石の瞳
「あなたは……」
毎朝俺にコーヒーを淹れてくれた……
「執事さん!」
「すまないね、あの頃は身分を隠していたんだ。父に君と逢う事を止められていて。ああするしかなかった」
兄の顔を知らないんじゃなくて……
俺が気づかなかっただけ。
俺は、あなたに愛されていたのか?
「そうだよ。今も昔も。これからも、君を愛しているよ」
「でも『グランツ』はっ」
「クーデターだったのですよ。先代に政 の座から退いて頂くための」
兄上が仕組んだ……って事?
「最初からグランツ殿下に成り代わっていた。有事が起きれば君は仮初めの皇族として見捨てられる。君を護るには、私が敵国の皇族となればいい。権力も使いたい放題だ。最も有効な手段だろう」
《ブロイエ ファルケ》は俺の兄上
「正確には陛下が成り代わった時から、その有能さ故に彼 の呼称がつきました」
兄上凄い!
俺は兄上に愛されていて……
愛され続けていて……
「私は悪逆の謗 りを受ける皇帝だ。ゆえに」
悪は悪らしく
君を奪いにきたよ。
『グランツ』から、君を………
「誓いの指輪を左手の薬指にはめてほしい」
愛している、昴
空色の羽が風に舞った。
青い鳥のように、空へ
《fin》
「美味しいコーヒーを淹れてあげるよ」
……朝まで一緒にいようね。
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