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第1話

雰囲気の良いダイニングバーの個室から、ゆるふわボブの小柄な女性がポーチを片手に笑顔で出てきた。シャーベットトーンのピンクパンプスを履き、店の奥に向かって歩いていく。どうやら化粧直しに立ったらしい。 廊下に出たところで、彼女の足が止まった。一人の男性が待ち構えていたのだ。猫カフェの話題で盛り上がり、いい雰囲気になっていた彼だ。 長めの前下がりマッシュをミルクティーカラーに染め、ほっそりとした長身に洗いざらしの白いシャツと細身のデニムを纏っている。肌馴染みの良さそうなオーバーサイズのカーディガンから、気持ち程度出している指が萌え袖風であざと可愛い。 「ねえねえ、たくみちゃんって呼んでいい? この後二人で抜けようよ。飲みいこ」 「ええと、安島さん、でしたっけ。でもみんな二次会行くって言ってましたよ。カラオケ40分待ちだから今から行ったらちょうどいいだろう、って」 「鷹斗って呼んでよ。後ろの方歩いてさ、こっそりいなくなればいいでしょ。たくみちゃん真面目ちゃんだねーかわいい!!」 困り顔のたくみの手をぎゅっと握りしめながら、安島が腰を屈めた。きゅるーんと擬音のしそうな角度で首を傾げている。母性本能をくすぐる可愛らしい笑顔には、邪気が全く感じられない。 「しょうがないなあ。じゃあ付き合ってあげるけど、飲みに行くとこは私が決めちゃっていい?」 「全然いいよー!!たくみちゃんのこともっと知りたいから、通ってる店全部教えて欲しいくらい」 「安島さん発言だけだとストーカーっぽい」 「ひどいなあ。たくみちゃんに夢中なだけなんだけど!!」 店を出て、気づかれないよう少しずつみんなと距離を取り、手を繋いで走って、そしてーーーー ___________ ーーーーおかしいな、こんなはずじゃなかったのに。 「安島さん大丈夫?」 「大丈夫、じゃないかも……すっごい気持ち悪い」 繁華街のビルの隙間で、安島はたくみに背中をさすられていた。 一次会後、1軒目のバーでは意識もはっきりしていた。2軒目でなぜかビリヤード対決をすることになってから風向きがおかしくなったのだろうか。 負けたらテキーラショット一気、という条件を持ち出してきたのは一体誰だったのだろう。 しかし負ける気がしない上たくみを効率的に潰せるとあって快諾したのは間違いなく安島だった。 負かして飲ませまくって潰して、あとはヤるだけヤってポイ捨て。安島の常套手段だ。 それがまさかのノーミスでたくみの完勝。いや圧勝とは。負かされて飲まされまくって潰れたのは情けなくも安島の方だったのである。 「安島さん、もっと奥に行こ。ね。ほら、壁にもたれて。手ついて」 言われるがまま奥に移動した安島は、人目のつかない闇の中でしたたかに吐いた。 「首苦しいでしょ。ボタン外してあげるね」 こんな状況じゃなかったらとてつもなく嬉しい申し出なのだが、今はひたすら楽になりたい。むしろ横になりたい。 「たくみちゃん、あの、……、ほんと申し訳ないんだけど、どこかで休みたい……」 「いいですよ休んでて。でも、どこにも行かせませんけど、ね」 「……は?」 手が。手がベルトを引き抜く音がする。誰の。俺の。だってたくみちゃんは可愛らしいワンピース姿だ。どうしてたくみちゃんが俺のズボンとパンツ下ろしてんの。なんで。 「安島鷹斗。私大経済学部3年。女の子に借金させたり貢がせたり、ヤリ捨てするクソクズ野郎……」 「たくみ、ちゃん」 たくみの細い手首がしなり、安島の髪を引っ掴んだ。虚ろな目には、優しげな女の子、ではなく、獰猛な目をして凄みのある笑みを浮かべた“たくみ”が映っていた。 「様をつけろよクソバカ野郎。お前なんかに下の名前ちゃん付けで呼ばれるいわれはねえんだよ」 「どういう……っあ!! 冷た……っ」 「お情けでローションとゴムは使ってやるよ。お前が先月付き合い続けたけりゃフーゾク行って貢げっつって蹴り入れた女から伝言。 ゴミみたいに犯されて痛みを思い知れ、だとよ」 ふん、と鼻を鳴らしてこちらを見下す小柄な女だった、はずのたくみの下半身には、ふっくらとした亀頭とカリ高の反り返った立派なモノがそそり立っている。 「なんだよそれ、え、たくみちゃんて、だって……」 「様つけろっつってんだろ!!」 「ぎっ、……ああ!!」 酒で弛緩しているからか、あてがわれた肉茎はぐぶぐぶと安島の腸内に飲み込まれていく。 「あーー……、すっげぎゅうぎゅう。おい安島。お前こっちの方が向いてんじゃねえの? 普通こんな入んねえよ。俺のオナホくらいにならしてやってもいいけど?」 「ふざけんな……!!今すぐ抜きやがれ」 「抜いてやるよ。お前のここで」 「あっ!! あっ!!」 ぐちゅんぐちゅん抽送を繰り返されるうちに、安島の肉茎もぱんぱんに膨らみ、よだれを垂れ流し始めた。 勃ったモノを女にハメたいなどという願望は浮かんでこなかった。体と心を支配しているのは獣欲にも似た衝動だった。 もっと先をえぐって欲しい。ちんこをシコって欲しい。 「俺はお前みたいなクソ生意気で下劣な奴を穴に堕とすのが大好きなんだよ。ちょっと可愛く女装してやりゃあ誘導灯に群がる蛾みたいに集りやがって胸糞悪い。 堕ちろ。汚ねえ路地裏でレイプされてイけ!!」 愛らしいメイクも、美麗な顔の作りも、シフォンレースのあしらわれた可憐なワンピースもそのままだ。だが、たくみはどこからどう見ても、雄々しい色香を纏わせた獰猛な獣だった。 喰われる。このまま、喰われるんだ。 ちんこが熱い。かゆくてかゆくてたまらない。腸内をえぐられるたびに、ローションじゃない何かが中から溢れるのが分かる。 ーーーー堕ちてしまえば、楽になれる。 「たくみ、さま、も、イかせてくれ、頼む……、俺のをシコって、出させて……」 「は? 調子乗んなよ。クソクズのオナホがそんなん許されると思ってんの? イきたけりゃてめえでシコってイけ!!」 「ひっ!! ああっ!! あ、そんな、したら、声、こえ、でちゃう……!!」 ばつんばつん腰を振られ、壊れるくらい抜き差しを繰り返された。かゆいまま爆発しそうでしないちんこから、とろとろと何かが漏れている。それが自分の精液なのだと知覚した瞬間、安島は震えながらたくみの膜越しの欲望を受け入れた。 __________ とあるカフェで、背の低い男が機敏に働き回っていた。 ギャルソンエプロンも、執事服を見立てたのだろうスーツも、まるで子供のそれに見えるアンバランスさながら、本人の眼光は鋭く、客の反応に敏感に対応する様子は軍用レーダーでも搭載しているのかと思うほどの精巧さだ。 手を挙げた客のテーブルに足を向け、お待たせいたしました、と笑みを返そうとして、男は目を丸くした。 「ちゃんと、前の彼女には謝って断り入れてきた。君のバイト先教えてくれたの、彼女なんだ。 反省してます。もう二度と、人のことを食い物にしたりしません。 あの、彼氏じゃなくていいので、俺のこと、たくみさまの専用オナホにして、ください……」 目元を赤くしながらもそもそ口の中で呟く安島に、たくみは破顔した。 「いーよ。俺本当はお前のことちょっと気に入ってたから。かわいいなって。 だから今回は特別に、彼氏にしてやるよ」

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