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第11話

目を覚ましたら、すでに陽は高くなっていた。 頭にはぼんやりと霞がかかっているようで、カラダには甘く気だるい倦怠感と疲労感が満ちていた。 起き上がろうとすると背中が、そして腰が重ダルく、股関節、そして尻が痛んだ。 「イテテ…灰谷?」 出てきた声はガサガサで喉がひどく痛んだ。 あれ?声出ねえ。 「灰谷?」 灰谷の名を呼んでみるが部屋に人の気配はない。 いつ帰ったんだろう。声かけてくれればいいのに。 それにしてもカラダ中が痛い。 それにベタベタ。シャワー浴びてえ。 オレは苦労してベッドの上に起き上がる。 何時だ?12時? つうか今日始業式だった。ヤバイな。 ピンポーン。 チャイムが鳴る。 ピンポーン。ピンポーン。 もしかして、灰谷? オレは、そばに落ちていた服をテキトーに身につけると立ち上がった。 イタタ…。カラダ痛え。 苦労して玄関にたどり着き、ドアを開けると制服姿の中田が立っていた。 「中田」 あれ、やっぱ声がガサガサ。 「オマエ、なんだその声。つうかなんだその痣」 「え?何が」 「首」 「首?」 血相をかえた中田に腕を捕まれ、部屋の奥へ引っ張られる。 「痛いって中田」 部屋の隅に置いてある鏡の前で手を離される。 「見てみろ」 中田にうながされて鏡をのぞけば、首筋にうっ血した痣のようなものが浮かび上がっている。 その形はまるで指の痕のようで。 そうかオレ、灰谷に首を絞められて…。 「…なんでもないよ」 「なんでもないわけねえだろ。何があったんだよ!」 こんなに怖い中田の顔を見るのは、はじめてだった。 「オマエ、なんで電話切るんだよ!」 「お前らがオレをからかうから」 「からかってねえよ!」 何突然キレてんの? 中田はどちらかと言えばいつも冷静で滅多に声を荒げない。 その中田が…。 「全部ホントの事だよ……灰谷がオマエを見てたのも。オレが…オマエを見てたのも」 だから…もう…昨日からなんの告白大会だよ。 「今朝、息を引き取った」 「え?」 「……灰谷……死んだ」 「何言ってんだよ。冗談…」 オレを見る中田の顔は真剣で冗談なんかじゃないとわかった。 でもだって…。 「…だって灰谷は朝までオレとそこで…」 テーブルの上には手のつけられていないペプシのペットボトルと麦茶の入った飲みかけのグラスがあった。 ペプシ…灰谷が飲んだはずなのに。 それに…あれ? 灰谷がグチャグチャに並べたはずのテレビ前のボトルキャップフィギアがいつも通りにきれいに並んでいる。 なんで? 「昨日電話した時点で本当はかなり危なかったんだ」 何?なんなの?どういうこと?つうか中田は何言ってんの? 「だからオレ、会わせてもらえるかどうかわかんなかったけど、オマエが灰谷に会いに行ったほうがいいんじゃないかって。で、それがあんな言い方になっちゃったけど」 「…そんなわけないよ。オレ、朝まで灰谷といっしょにいた」 「何言ってんだよ」 「…お前らが帰った後、灰谷が訪ねてきて…」 「真島?」 「ホントだって…で…オレたち、オレと灰谷…」 「真島、しっかりしろよ!」 中田がオレの肩をつかんで揺さぶった。 あれ?オレ、まだ夢の中なの?いや、あれが夢だったの? いやだって…。 カラダには確かに灰谷の感触が残っている。 オレは中田の手を振りほどき、鏡の前に立ち全身を映す。 首筋についた指の形の痕にふれる。 あの細くて長い灰谷の指の痕。 Tシャツを脱ぎ捨てる。 オレのカラダには、無数の鬱血した痕があった。 肩にも胸にも腹にも。 腕を広げれば腕の内側にも。 背中を映せば背中にも。 灰谷がつけた痕だ。 灰谷が真島はオレのもんだとつけてくれた〈しるし〉だ。 灰谷はたしかにオレといた。 オレの〈はじめて〉をうばって、オレの〈全部〉をもらうと言ってくれた。 オレに〈全部〉をくれるって約束した。 「オマエ、なんだその痕…真島?真島!」 中田がなんか言ってるみたいだけど関係ない。 行かなきゃ…。 早く…行かなきゃ…。 とりあえずTシャツ着て。 それから…ええと…。 いや、違う。学校だから制服、制服着て…。 「真島、どうした。落ち着け」 シャツ…。シャツ…。 ボタン、ボタンが…。 アセればアセるほどシャツのボタンが掛からない。 「真島。おい、落ち着けって」 うるさい中田。どいてくれ。 ネクタイ。ネクタイいいや。 早く早く。 とにかく灰谷に会わなきゃ。 こいつらの冗談を終わりにしなくちゃ。 「おい真島!真島って!真島!」 中田がオレを後ろから羽交い締めにした。 「離せよ中田」 「だから!何アセってんだよ。落ち着けって」 中田の力は意外と強くて振りほどこうにもほどけない。 「学校。学校行かなきゃ」 「学校?もう終わる頃だよ」 終わる? じゃあ、灰谷んち。灰谷んちに。 あれ?ガクリと膝が落ちた。力が入らない。 「真島。おい」 「行かなきゃ…」 ぐらりと視界が揺れた。 意識が遠のく。 灰谷…。 「真島…真島…真島…」 遠くでオレを呼ぶ中田の声がする。 ブラックアウト。

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