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蒼良(そら)と海南(かな)の場合

「ねぇ、抱きしめていい?」 朝起きたら、唐突に言われた言葉だった。 「……はぁ?いきなりなに言ってんの?」 「いや、だから、抱きしめてもいいですか?って」 「なにを今更改まって…いつもやめろって言っても抱きついてくるくせに」 昨日、珍しく「一人はさみしいから一緒に寝よう」って言ってきた目の前にいる恋人の蒼良。 蒼良は、普段俺に“何かを聞く”という行為はしない。 と言うか、聞いてきたところで結論を告げる前にはもう行動を起こしているのでまるで意味をなさない。 「…なにかを、隠している?」 「……えっと、ね」 …口籠る…。 …俺の事を嫌いになったとか……他に好きな人が出来た、とか…? 充分にありえる… 仮にそうだとして、どうしてそれを今日に限って言うんだ。 …今日は 「いや、あの…ね? 別に隠してるとかそんなんじゃないんだけど……。 …海南と付き合って、2年経つから……今日くらいは、怒らせたくないなぁと思いまして……」 そう、2年目の記念日。 「………!!」 「どうしたの? 顔真っ赤にしちゃって。 可愛いなぁ」 「おま……覚えて……!?」 「しっつれいだなぁ……月単位で数えるのが面倒なだけで、記念日はしっかり覚えてますよ~ぅ。 ……去年は…予定外の用事が入っちゃったから、会えなかったけど…」 毎月毎月、記念日には必ずと言ってもいいほど予定が入るこいつは、1ヶ月目の記念日以外、俺といた試しがない。 「……っ!?!?」 「言葉になってないよー? 大丈夫~~?」 嬉しすぎて、言葉にできない。 「…マジで?」 思ったことが口に出ていたようで。 蒼良が顔を真っ赤にしている。 「…お前も、可愛いところあるんだな…」 そう呟くと 「……僕の恋人であって、僕より可愛い人に言われたくない」 と、言われた。 そして、顔を赤くしたまま 「ねぇ、さっきの質問に戻るよ? 僕の大事な彼氏さん。 抱きしめてもいいですか?」 自分は、あえて答えを告げないことにした。 …何故って? まあ、自分も男ですから。 こんな可愛い彼氏目の前にしてたら、そりゃ、抱きしめたくなるよな? だから、何も言わず抱きしめてやった。 「…!?」 予想外の出来事だったらしく、硬直している恋人。 「俺もやるときはやるよ?」 「ぼ…僕が抱きしめたかったのに!」 「はいはい」 抱きしめていた手を緩めて、腕の中から解放すると、直ぐに抱きついてくる。 「えへへ、ぎゅー!」 …本当に犬みたいなやつ。 ふわふわと動く髪がくすぐったくてそっと頭を撫でると心地よさそうに目を細める。 「…僕、コレしてもらうの…好き…。 安心するから…」 そう言ってうとうとし始める。 「…寝るのか?」 「ん…ねない……」 体の力が抜け、俺に体重をかけ始める。 「説得力ねぇぞ」 「……ん〜…」 結局そのまま眠ってしまった。 幸せそうな寝顔ですうすうと寝息を立てている[[rb:蒼良> そら]]の顔を見るのは、いつぶりだろうか…。 そのままだと風邪をひきそうだから、起こさないように抱き上げてそのまま布団に入る。 「……ん…すき…」 幸せそうにぽつりと呟かれたその言葉は、何度聴いても嬉しいもので。 不意打ちだったせいか、少し顔が熱くなるのを感じた。 顔をじっと見ているとどんな夢を見ているのか、ふるふると震えるているまぶた。 そこににキスを落とす。 ぴくり、と体が軽く跳ねるその反応は、起きている時の反応そのもの。 …こいつ、実は起きてるな…? そうと分かればやることは一つだけ。 耳元に口を近づけ、わざと息が耳にかかるように囁く。 「…蒼良…好き……好きだぞ………なあ、大好きだ…」 繰り返し「好き」を呟いて、顔を見ているとみるみるうちに真っ赤になり、閉じていた目を開け少し大きな声で言う。 「…わ……わかったから…!」 両手で耳を塞ぎ、少し潤んだ瞳で俺を見上げる。 「海南のいじわる!」 本当に可愛い…。 そう思って眺めていたら… 「…わっ、ちょっと……!?」 真っ赤な顔した蒼良に押し倒された。 「ぼ……僕もやる時はやるから!」 そう宣言され、キスをされる。 「……んっ…」 ぎこちなく舌を動かすその必死さがとても愛おしくて、舌を絡ませやすいように動かしながらキスをする。 「…っふ……ぁ…」 とろん、と完全に蕩けた目で俺を見つめ、ふにゃりと笑うその姿は完全に誘ってるようにしか見えなくて、遥か彼方へと飛んでいこうとする理性をどうにか引き戻す。 「よしよし…」 優しく頭を撫でてやるとさらに表情が柔らかくなる。 「…ねぇ、僕したいな……。 …シよ?」 うっとりとした表情で彼は言う。 そのせいでぎりぎり引き戻して保っていた理性は完全に飛んでいく。 「……わかった」 深くキスをしながら服を脱がす。 「…っん………ふ、ぁ……ぅ……」 必死に舌を絡めてこようとするのが可愛くて、舌を動かさずに好きなようにさせてやると 「んぅ…? ……ふふふ…」 少し驚いたように目を見張り、嬉しそうに笑う。 「…は、ぁ……」 口を離して頭を撫でてやる。 「ん……、海南…」 潤んだ目でじっと俺を見つめる。 「…はや、く………かなの……ちょうだい……?」 少し顔を赤くしながら、小さな声でつぶやく。 「ああ。 たくさん、気持ちよくなろうな、蒼良」 今年の記念日は…とても幸せな日になりそうだ。

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