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第1話
――僕は、彼のことが好きだ。
彼は明るく、クラスの人気者でリーダー的な存在だった。勉強はでき、冗談も上手く、女性からはモテモテで、男友達も多い。彼は、背が高いのできっと運動神経も良い――きっと、というのは僕は彼の運動している姿を見たことないからだ。クラスにいる彼しか僕には見えない。
クラスのみんなは僕のことは眼中に無い。彼だけだった。放課後、みんなが帰った後、彼は僕のところにやってきて、じょうろで水をくれる。彼がいなかったら、僕はとっくに枯れていただろう。
そして、いつも話しかけてくれる。
「お前、ちょっと蕾が出来てきたなー」
本当に? 嬉しい。僕は自分の姿が見えないので分からない。
――いつも水をやってくれて、ありがとう。僕は喋ることはできないけれど、いつも君に感謝しています。
「今日、先生から私語が煩いって怒られちゃったよ。なぜか、怒られたのは俺だけなんだよね。俺の声が大きいから、目立つのかな」
それ聞いてたよ。確かに、声が大きいね(笑)。
――返事が出来ないのが悲しい。
「おっ、花が開いてきたじゃないか!」
彼はいつもより嬉しそうに水をかけてくれた。
――いつも僕に話しかけてくれて、ありがとう。僕は口はきけないけれど、いつも君に感謝しています。
「遂に、花が開いたな! 綺麗だよ」
僕は男なので、本当はカッコいいと思われたかったけど、彼が気に入ってくれて嬉しい。
「せっかくだから写真撮っておくよ」
そう言い、彼は僕を写真におさめてくれる。これで僕も彼の想いでの一部になれただろうか。僕が枯れても、彼の記憶に残れるだろうか。
――枯れてきたのを感じた。
僕が人間だったならば、彼にお礼を言えるのに。
「枯れてきたな。お前がいなくなると寂しいな」
――彼に好きだと伝えたい。
彼は毎日水を浴びせてくれた。
「いつも俺の愚痴を聞いてくれてありがとうな」
――彼と会話がしたい。うんと返事をするだけでいい。一言でいい。喋りたい。
――葉っぱが落ちた。そろそろ寿命だ。花の命は短い。
今日も彼は来てくれた。
「そういえば、お前の名前を決めてなかったな……何にしようかな。花がついた名前がいいかなー」
彼は考える。僕、男なのに。
「よし、花太郎にしよう! 花太郎、今までありがとうな」
――花太郎。僕が男だって気づいていたの?
ありがとうを言わなきゃいけないのは僕なのに。
――頭が重い。花が落ちそうだ。もう、枯れてしまう。
生まれ変われるならば、人間になりたい。
彼が僕にそっとキスをしてくれた。
「花太郎、愛してるよ」
「僕もあいして……る――」
枯れ逝く中で、想いを伝えられた気がした――
――了
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