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「足疲れた。もうやだ。ベッドで寝たい」
草原に座り込み足を投げ出す。前の町から歩き詰めだ。野宿までさせられた。
最悪だ。
「ルート、我儘言わないでよ。ほら、立って」
シャロンが呆れ顔で俺を見た。
耳がピンとしてる。金髪でイケメン。まさにエルフだ。
正統派エルフ。ザ・エルフ。
「おぶってやろうか」
シルワが無表情のまま俺を見下ろす。ちょっと本気っぽいのが怖い。
こっちも耳がピンとしているが、ガングロ黒髪。顔立ちもワイルド系だ。
ガッツリダークエルフである。
「おんぶは恥ずかしいからやだ」
足を投げ出したまま草の中に転がる。天気が良くてポカポカしているのになんで旅なんかしなきゃならないんだ。
「エルフのペースで歩かれても俺ついてけないしー。もうやだー。俺のことは置いて先に進むんだー」
「はいはい、そんな雑なフラグ立てなくて良いから」
「あと5秒で起き上がらなかったら背負っていくからな」
「うう……」
エルフに挟まれた俺はどうやらただの人間らしい。得意科目なし。魔法も戦闘力も知識もない。
それどころか記憶もない。
そんな三重苦を抱えたしょうもない俺が何故エルフと旅をしているのか。
俺の記憶で一番古いものは一月前、遺跡で2人と出会った時だ。
女神を祀る神殿で今は誰も管理していない、ダンジョンと化した遺跡らしい。
2人から聞いた。
神殿の一番奥。女神の宝物庫に俺はいた。
目覚めた俺は何も覚えておらず、自分の名前も知らなかった。
近くに落ちていた宝石に刻まれていた文字からとってルートと呼ばれている。
その後、2人に連れられ辿り着いた遺跡近くの街に留まるつもりだったのだが、熱心に説得され一緒に旅をしていた。
何故旅をしているのか、今になってもサッパリわからない。
怠いし疲れるし危ないし後悔していた。
「やったー!ベッドだぁ!」
白いシーツにダイブする。
スプリングが軋んだ。
野宿3日強いられた俺には安宿のベッドさえ天国に思えた。
「もー、ルートったらシャワー浴びてからにしなよ」
シャロンが荷物を片付けながら頬を膨らませた。御節介なやつだ。
「ルートは綺麗だ。問題ない」
シルワが真顔で言った。担いでいた資材(旅の中で倒したモンスターから拝借した)をシャロンに押し付け俺の髪を撫でた。ちょっとキモい。
「やめてよー」
「お前の銀髪は本当に美しい。髪だけではない。瞳も澄んだ青をしている。故郷の泉を思い出す」
顎に指をかけられ真剣に見つめられる。紫の瞳が宝石みたいで綺麗だが言ってることは気持ち悪い。
「シルワ君!所構わず、ルートを口説くのやめてよね!」
シャロンがシルワから俺を引き剥がした。腰に手を当てプンスカしてる。
「思ったことを言ったまでだ」
何が悪いと開き直るシルワ。何が悪いかわからないのが一番悪い。
「ルートも寝るならシャワー浴びてから!」
シルワと話すのは無駄と判断したらしいシャロンがビシッと俺に言った。
「はい!」
我ながら良い返事だ。しかも敬礼付き。
「あれ?シルワは?」
シャワーから戻ると部屋にはシャロンしかいなかった。四つあるベッドのうち一つが荷物で埋まっている。
「素材売りに行ったよ」
「ふーん」
そう言えば草原で肉食サイの群れを見つけてエルフ2人が乱獲していた。あの牙と骨と皮が高く売れるらしい。肉も食べていた。戦闘力ゼロの俺はドン引きしながら離れた場所で眺めるだけだったが。あれは酷い事件だった。
肉は美味しかった。
「シャロン〜、足揉んで〜」
ベッドにうつ伏せになり足をばたつかせるとシャロンが頬を膨らませた。
「えー、ルートは一番荷物も少ないし休んでばっかだったじゃない」
「人間舐めんなよー。エルフの体力になんかついてけるわけないじゃん!」
足パンパンだ。一カ月旅をしてきたが体力なんか付かない。困ったことだ。
「もー、しょうがないなぁ」
そう言いながらもシャロンは嬉しそうである。御節介焼きなので頼られたら嬉しいのだろう。
ヒンヤリした手がふくらはぎに触れた。
「ん〜。きもちぃ」
筋肉をほぐすように揉まれ目を閉じる。
「太腿まで張ってるね。本当に疲れてたんだ」
「当たり前だろ」
なぜか疲労したことに感心した様子で言われムッとする。仮病でゴネたと思われていたのか。大変遺憾である。
「ゴメンゴメン。ちゃんとすみずみまでマッサージするからさ」
笑いながらシャロンの手が太腿から足の付け根に移る。腿の内側を親指で刺激され背筋に悪寒が走った。
「ひゃ、そこ、違うからぁ……」
身をよじるが、既にうつ伏せの身体を跨ぐようにシャロンが抑えているので抜け出せない。
「ルートって筋肉ついてなくて触り心地いいよねー。近頃は肉付きも良くなってきたし」
服の上からシャロンの手が尻を掴んだ。開くように両手で揉まれて身体が震える。
「んっ、ダメだってばぁ」
条件反射のように身体が熱を持ち始めた。宿で過ごすの久しぶりだからゆっくりしたかったけど、良いかな。
ここまで来たらもうヤっちゃっても明日一日寝かせてくれるなら……
ザクッ
「ひぃっ」
流されそうになっていた俺の目の前に黒い拳が刺さった。シャロンを狙った拳のようだが既にシャロンは俺の上から回避済みだ。
「ありゃ、早かったんだね。おかえりシルワ君」
軽い様子で片手をあげるシャロンにシルワはムスッとした顔のままベッドから拳を引き抜き頷いた。
「時間がかかりそうだったから料金は後日引き取りにした」
「うん、あの量じゃ仕方ないよね」
あーあ、ベッド穴空いてら。俺、シルワのベッドに移動しよ。
「じゃあ、僕は洗濯してくるよ」
そう言うとシャロンは洗濯物が入ったアイテムキャリーを背負って出て言ってしまった。
「俺疲れたぁ」
シルワの荷物を穴空きベッドに移して無傷のベッドにダイブする。
「おい、晩飯前に寝るな。起きれなくなるだろ」
「いーのぉ」
今は空腹よりも睡魔の方が強いのだ。毛布に包まり目を瞑る。すぐに意識が微睡んで行った。
随分、寝入っていたらしい。目を開けると部屋の中は真っ暗だった。
「んー……ばんごはん」
いつものパターンならシャロンが部屋で食べられそうな軽食を用意してくれているはずだ。
「あれっ」
起き上がろうとするが身体が何かに締め付けられて動けなかった。
「やっと起きたか」
「ひゃっ!」
耳元で囁かれた低い声に首筋がゾクゾクした。
「んっ……シルワ、やめてよっ」
シルワの腕にホールドされ起き上がれない。いつの間にか手が服の中に入り込んでいる。
「昼、運んでやった」
「ぁっ……」
指先が乳首を引っ掻いた。
「頼んでないだろっ」
昼間、疲れてゴネているのをシルワの背に乗せられ運ばれたが、俺が頼んだわけでも本意でもない。むしろおんぶとか恥ずかしいから勘弁して欲しかった。
「でも俺が労働したのは事実だ。労働には褒賞が不可欠だ」
「やっ……」
ちゅっと首のあたりを吸われ肩を竦める。全然、抜け出せない。
「ダメだってばぁ……」
「ルート……」
シルワの手が下着の中に入り込む。
「濡れてる」
中心を掴まれ、顔が熱くなった。
「もっ……」
どうでも良いから焦らすな。流されそうになった俺の言葉を遮ったのは扉の開く音だった。
サンドイッチの乗った皿を持ったシャロンがキョトンとした表情でこちらを見ている。
「……」
「……チッ」
シルワが舌打ちをした。
シャロンが部屋に入り灯りをつけサイドボードに皿を置いてから深呼吸した。
「シルワ君のばかー!今日は僕の番って言ったのにぃ!」
地団駄を踏みシルワをポカポカ叩き始めた(シルワはノーダメージ)シャロンに俺は引きつった。
「え、なに?お前ら俺を襲う順番きめてんの?」
信じらなんない。
「三人でヤりたかったのか?」
シルワがシャロンの腕をねじり上げながらズレたことを言う。
「え、ホント!?僕張り切っちゃうよ!」
軽いノリでハツラツと応えたシャロンにもイラッとした。
枕を掴み振り上げる。
「だまれ、スケベエロフども」
枕はシルワの顔面を叩いてからシャロンの脳天に落ちた。
宿に泊まる度に2人から取っ替え引っ替え襲われると思っていたら2人は打ち合わせしていたらしい。
それが判明してから一夜明けたが俺は怒っている。どれくらい怒っているかというとMAXが100%として80%くらい怒っている。
移動アイテム買って徒歩旅を回避してもらわないとこの怒りは収まらない。それかシラカバショップの半身揚げ一年分。
俺って寛大。
記憶喪失を良いことに同性に処女を奪われても、良いように身体を開発されても、旅に連れ回されても許してやるんだから、それくらい要求しても良いはずだ。
「ごめんってばぁ〜」
猫撫で声で俺の機嫌を取ろうとしてくるシャロンから顔を逸らす。
「きこえなーい」
今朝からこのやり取り5回目である。
資材の査定にまだ時間がかかるというので宿を出て2人を巻こうと街の郊外にある森に入ったのだが、中々巻けない。こいつらしつこい。
「ほら、シルワも謝れって!」
「……悪かった」
シャロンに言われて漸く口を開いたシルワは憮然としている。
「思ってないだろ!」
「ルートが魅力的だからつい手が出た」
睨みつけるがシルワは悪びれず答えた。
「殺すぞ」
思わず今までで一番低い声が出た。
「あ、ほら。もうすぐ昼になるし疲れたでしょ。ごはん食べに戻ろう?ね?」
「仕方ないなぁ」
頷き戻るふりをしてすぐ、俺は油断した2人から逃げた。
そして森のはずれにあった洞窟に逃げ込んだのだ。
洞窟に入ってすぐ、後悔した。
思えば記憶がある限り俺は後悔し通しだ。
「おい、聞いてんのか!」
「イテテ」
知らないモブおじさん(雑魚)に前髪を引っ張られて顔を顰める。
「傷は付けるなよ」
モブおじさん(リーダー格)が雑魚おじに言った。
俺は今、モブおじさん8人ほどに囲まれていた。モブおじさん畑である。
「銀髪だし顔も整ってる。何より若いからな。奴隷として高く売れる」
リーダーおじが悪い表情で笑った。
銀髪は珍しいらしい。
そう言えば絶滅した古代人が銀髪だったとかでその遺伝子を持つ可能性がある銀髪は人身売買を行う悪人や金持ちに狙われやすい、とシャロンが教えてくれた。
俺が2人と旅する理由の一つがそれだ。あと他に10個くらい理由があったはずだが忘れた。
「(こんなことになるなら……)」
変なスネ方をして2人から離れるんじゃなかった。
2人とも何もできない俺の面倒を見てくれて、いつも助けてくれているのに。俺は迷惑をかけてばかりなのに。
「……俺、馬鹿みたいだ」
ため息をつく。洞窟にしては綺麗に切り出されているし、ここは盗賊の住処だったのだろう。飛んで火に入る夏の俺。
「味見くらいなら良いだろ」
ゲヘヘと雑魚おじBが俺に手を伸ばした。
「やめてよ、俺減っちゃう」
散々、エルフどもに弄ばれてるんだから知らないモブおじとか勘弁してほしい。
気心知れた2人なら兎も角。
いや、ダメだろ。弱気になるな!シッカリするんだ俺!
心の中でノリツッコミしてみるが状況は変わらない。
モブおじさん達が俺の服を脱がせにかかっている。
この世界観、ホモばっかりかよ。
「あーれぇー、お助けをー」
「棒読みやめろ!」
それっぽいセリフを言ってみるがモブおじさんのツッコミを食らった。
なんてこったい。
「ん?」
首を傾げる。洞窟の奥から振動が伝わってくる。
「ねぇ、おじさん。なんかここ揺れてない?」
モブレイプは回避できなくても生き埋めだけは回避したいので聞いてみる。
「はあ?そんなわけ……あるな」
「地震か?」
モブおじさん達がざわつき始める。
ゴゴゴゴゴッと竃で煮炊きしているような音が響いてきた。
「うっわぁ、ないわぁ」
目に入った光景に思わず呟いた。
モブおじさん達は外ばかり気にしていて気がついていない。可哀想だから黙っててやろう。
こいつら背後から沢山の触手が湧いてるなんて教えたら俺だけ置いて逃げるだろうし。
「うーん……俺の半身揚げ……」
自分の寝言で目が覚めた。
よくあることだ。
「くそっ、あとちょっとで食べれたのに。なんで起きたんだ俺」
ボヤきながら辺りを見回す。
俺は相変わらず洞窟にいるようだったが、盗賊たちの姿が見えない。ついでに洞窟の出口も見えない。
なにやら洞窟の奥が遺跡だった予感がする。触手に巻かれて吊るされてる壁にめっちゃ古代文字書いてるし。
触手にぶら下がったまま辺りを確認していると細い触手が俺の首のあたりまで登ってきた。
ヒンヤリする。
目の前に別の触手が現れる。
『意識の回復を確認。生体認証を開始します』
「触手が喋ったぁ!」
ビックリだ。
今まで捕まったことのある触手は喋らないでめっちゃヌルヌルしてたけど、いつもの触手とは違うらしい。
『声紋確認。指紋、虹彩、身体データ、遺伝子情報の確認を開始します』
「わっ、眩しい!」
触手から光が出て俺の目を照らした。思わず目を閉じる。
細かい触手が掌や身体を這い回り始めた。
「なんか、ヌルヌルするぅ」
ひええ。さっきまでなんも分泌してなかったのに。
「むぐっ……んんっ!」
首筋にいた触手が口の中に入り込み、歯列をなぞり舌を摘んだ。普通に苦しい。
『生体認証完了、記録と一致。これより転送を開始しま……』
ブツッ
触手の声が途切れたかと思うと目の前に大剣を構えたシルワが居た。
「ルートを離せ」
シルワは低く呻ると剣を投げ捨て素手で触手を千切っていく。
……なんでこいつ剣士の癖にいつも素手なんだ。
「あーあ、服が台無しじゃない」
触手から解放された俺にシャロンが杖を向けた。
バシャンとかなりの勢いでかなりの量の水が俺に向かって噴き出した。
「……なんで水かけたの」
このクソ狭い洞窟の中で。あり一面水浸しにしてまで。台無しな服が形なしになったんだけど。
「ルートが僕らから分泌された以外のぬるぬるした液体まみれとか生理的に無理だから洗ったの」
「へー……」
シャロンってたまに訳わからないことを言いはじめる。
「これ、遺跡の防衛ゴーレムだから本来はこんなイタズラしないで追い出して終わりなはずなんだけどな」
シャロンが引き千切られたゴーレムを検分しながら首を傾げた。
「これ、国が配置したゴーレムじゃなぞ。いつもより硬い」
国が配置したゴーレムも壊したんかーい。
俺の突っ込みをよそにシャロンがゴーレムの残骸を熱心にみている。
「あ、ホントだ。これ、遺跡の一部じゃん。考古学者がみたら気絶するよ」
壊しちゃまずいやつってことじゃないか。
「しらん。ルートに手を出すなら考古学者も千切る」
せめて剣士らしく斬るって言ってほしい。
「うん、仕方ないよね。どうせここまで来た人いないだろうし、申請書無しの探索だから僕達がやったってばれないもん。おっけー!」
シャロン、軽くない?
いつももっと常識人なのに。
「ははは……ありがとぉ、2人とも」
細かいことは考えないことにした。
「しかし未開の遺跡を発見なんてルートはすごいな」
シャロンが遺跡の奥に向かいながら俺を褒めた。俺は素直に賛辞を受け取れずに俯く。
「ごめんなさい」
「なにが?」
シャロンが不思議そうに首を傾げた。
「俺、足手まといなのに変に拗ねて2人に迷惑かけた」
立ち止まり2人に頭を下げる。
「ごめんなさい」
ぎゅっと目を瞑る。
旅が嫌だ。疲れる。怠い。
そう言いながら俺は2人に見捨てられたら生きていけないのにそれをちっとも考えていなかった。
シャロンもシルワも一度も俺を責めたりしなかったから。調子に乗っていたのだ。
「迷惑なんて思っていない」
シルワの手が俺の頭を撫でた。
「そうそう。ルートと居ると楽しいよ」
シャロンが俺に抱きつき頭を上げさせる。
「ただ、申し訳無く思うなら宿に帰ったら3ぴ……」「それは嫌」
「残念だ」
シャロンの言葉に食い気味に拒否するとシルワが落ち込んだ声を出した。
え、俺悪くないよね?
シルワがこの世の終わりみたいな顔してんだけど。
「おっと、此処が中心部かな」
再び歩き始めてすぐにシャロンが声をあげた。
太陽の光が入るように設計されているらしく、灯りががなくても明るかった。
見覚えのある造りをしている。
「ノルニルの神殿だな」
シルワが呟いた。
正面には女の人の像が三体向き合って立っていた。
「また、女神の遺跡?」
首を傾げる。
「ノルニルの遺跡は島の各地に点在しているんだ。ここは三女神を祀っているけれど、他は三女神のうち、誰か1柱を祀るものが多いよ」
シャロンはコンパスを片手に壁を調べながら言った。
「俺がいたのは?」
「スクルズの神殿だ」
シルワは3人の女神像の一番端を指差した。
「ふーん」
俺には像は全て同じに見えたがシルワには違って見えるらしい。
「宝物庫はこっちかな」
「行くぞ」
歩き出した2人についていく。
「相変わらずなんもないねー」
「他の神殿に転送された後か」
2人は宝物庫を眺めてさして残念じゃなさそうに言った。
慣れているのだろう。
「石版は残っているから剥がしていけば売れるか」
「それなら遺跡は無傷のままデータを売った方が儲かるんじゃない?」
「ゴーレム壊したのがバレるだろ」
「あー、そっか」
悪い相談を始めた2人を尻目に宝物庫の中を眺める。
「あれ?なんだろ」
キラキラしたものが落ちていた。
近付いて拾い上げる。
赤い宝石だ。
真ん中に古代文字が彫られている。
「あっ」
身体から力が抜けた。その場に蹲る。
頭がズキンと痛んだ。
目の前が白くなる。
「だれ……?」
目の前に砂漠が広がっている。そこに誰かがいた。
女の人だ。
銀髪で、色白で、青い瞳の、俺によく似ている。
「母さん……?」
勝手に口から溢れた言葉にあれは母親なのだと納得した。
「大丈夫か?」
「どうしたの?」
2人が心配そうに俺を見ている。
頭を抱え目を瞑った。目の奥がチカチカしている。
「いま、なんか見えたんだんだ」
宝石をそっと床に置いた。
指先ほどの小さな宝石は俺が2人と出会った時に側にあったものと良く似た形状をしていた。
「女神の宝石にお前の記憶があったのか?」
シルワが宝石を拾い上げた。
「亜空間時空では神殿同士は繋がってるらしいから、ないことはないんじゃないかな」
シャロンも宝石を突いているが2人には何も見えないらしい。
「他の女神の遺跡にもルートの記憶があるかもしれんな」
ポツリとシルワが呟いた。
「じゃあ、次の目的地は決まりだね」
「え?」
シャロンの言葉に首を傾げる。
「ここから先はルートの記憶を探す旅だよ」
「だな」
2人が当然だという顔をしていた。
「シャロン、シルワ……」
目頭が熱くなる。ぎゅっと拳を握り締めた。
「なんで2人は俺と旅して、しかも俺の為に目的地を決めたりしてくれるんだ?」
俺が遺跡の近くに残ろうとした時も熱心に説得してくれた。
「俺は魔法も戦闘もからきしだし、旅で何かできるわけじゃない。2人の足を引っ張ってばかりだ」
自分が情けなくて、泣きそうになるのをこらえる。
「そんなの」
「決まってるだろ」
2人が顔を見合わせてから笑った。
「「ルートのことが好きだからだよ」」
旅なんてウンザリだ。
怠いし疲れるし危ないし。
でも、この2人が居てくれるならもう少し続けてみようかな。
「でもそこまで言うなら僕らのモチベーションを上げるために宿に帰ったら3P……」「却下」
「残念だ……」
先行きが不安だけど。
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