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第1話
たとえば女が好きで女体が好きで会いたくて抱きたくてヤりたくて入れたくて出したくて毎夜震えて眠る三十路童貞なんてそこら中にいるように私たちの暮らしはYou can get what you want. にはほど遠い。朝起きて会社に行って働いて、帰りにコンビニ弁当と果実ゼリーを買って部屋でいやらしい動画を見ながら自分を慰めまた眠る私が男女どっちに欲情しているかなんて他人にはなんの関係もない。無駄に大きなディスプレイの中で揺れる、まるで腕くらい太い男性器。それに私がどうされたいかなんて何も分からないまま私は勃起した陰茎を擦り、射精する。
町には血の通った陰茎が鶏そぼろのように散っている。100均の店員にも、歯科医にも、卓球選手にも、体罰をする教師にも、体罰を受ける生徒にも。まるで薬指のように当たり前のものとして陰茎は男体に付属している。そして愛の度に各自それぞれのポテンシャルを発揮している。しかし世界には日の目を見ることのない陰茎がどれだけぶら下がっているのだろう。
同性、男を見て欲情する。いわゆる同性愛者。私は気付いた時にはそうだった。周りはそうでない人が多いのはよく分かっていたが、何事であれ周りと同じでなければならないと思ったことがないからダメージもストレスもなかった。男が好きだからといって、容易に好みの男を手中に収められるわけではない。それは相手が異性であっても同じことだろう。私は私の欲望を動画相手の粗雑な自慰で片づけながら独りで生きてきた。欲情と愛の違いがよく分からない。
そんな、そんな孤独な私にもたった1人だけ、なんでも話せる古くからの親友がいたら良いのだろうけれどいない。たまに読む物語には大抵いるものだが。世話焼きの友人が。厳しい現実だ、と呟き、じっと手を見る。恋人と呼んだことなど一度もない右手を。いつかこの手が別の誰かの陰茎を握り擦る日がくるのだろうか。その時、彼はちゃんと勃起し、射精してくれるだろうか。子供がいなくても、孫がいなくても男は年をとればお爺ちゃんになる。そんなことが最近、頭に浮かぶ。このまま生きてゆけば私も必ずそうなる。独居老人、孤独死。69ってどんな感じだろう、と仰向けになり口を開き、萎えた陰茎を握る私を蛍光灯が照らしている。
いつの間にか眠っていたようだ。朝を迎えている。陰茎は雄々しく朝のポーズをとっている。何もしてあげられなくて申し訳ないと思う。朝食をとり会社へ向かう。混雑する電車内、そこにいる人間の約2倍の数ある耳の中に、私が愛を囁いても訴えられない耳は1つもない。私はスマートフォンを持つ。今日も検索すべき言葉が見つからない。
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