1 / 1
第1話
柔らかい風が吹き抜ける丘の上、住宅街から少し離れた緑広がる土地の中にある小さな墓地。月に一度、花を抱えてそこに訪れるボクは、今までずっと独りだったけれど。
───今日からは、違うのだ。
睡眠中のボクを起こすのは、慣れ親しんだ音楽。スマホのアラームとして登録してあるソレを聴きながら朝を迎えるのが、ボクの日課。ついでに、隣で眠る恋人を起こさないようにボクは静かにアラームを止め、ゆっくりとベッドから抜け出すことも忘れない。
5年前、ボクがまだ15歳だった頃に出逢った運命の人。ボクは今日、その人と伴にある場所へ行くことを決めている。でも、そのためにはまず恋人を起こさなきゃならないから。
今日は少しイレギュラーな朝だけれど、それも悪くないと思いつつ、ボクはうーんっと小さく唸りながらも大きく伸びをして。ベッドサイドからのっそり移動し、寝室の遮光カーテンを開け、太陽の光を部屋の中へと招き入れた。
どんな目覚まし時計よりも、効果があるらしい自然光。体内時計をリズムよく刻むためには、お日様の力を借りるのが一番だそうだ。
ベッド上で気持ち良さそうに眠る恋人を無理矢理起こすのは気が引けるけれど、ボクはカーテンを開けただけに過ぎないからボクは悪くない。
そう心の中で言い訳をしながら、ボクは愛しの人が目覚める時を待つ。
「…いい、天気だなぁ」
室内から視線を移し、外を眺めて思わず洩れた独り言。五月晴れを絵に書いたような空の色はどこまでも青く見え、ふんわりと流れる雲は気持ち良さそうに泳いでいる。
2DKのマンションの寝室から見ている景色は、都会の空なのに。ボクはなんだか、この空と同じ景色を見たことがあるような気がして、そっと笑みを零すけれど。
「……眩しい、みぃくん」
ベッドの方から弱々しい声が聴こえ、そちらに顔を向けたボクは溜め息を吐く。
「おはようございます……って、ボクのこと猫みたいに呼ぶのやめてください。猫っぽく丸まってるのは、貴方の方なのに……ほら、起きてくださいってば」
今日は朝から2人で出掛ける約束を、一ヶ月前からしていたのに。なんなら、昨日の夜だってボクと一緒にカーナビの目的地設定をしていたのに。
「まったく、コレだからオジサンは困る」
起きる素振りがなく、布団を体に巻き付けて足の先から頭の先まですっぽり埋まる恋人を見兼ねたボクは、本音をだだ漏れにさせつつ布団を剥ごうと手を伸ばすけれど。
「……っ、うわ!」
伸ばした手を布団の塊に素早く捕まれ、体勢を崩したボクはベッドにダイブして。
「誰がオッサンだ、誰が。これでもまだ35歳、俺の人生これからだっての」
ボクの言葉を否定しながらもニヤリと笑ってボクを抱き留めてくれた恋人は、不本意だけれど予定の時間通りに目覚めてくれたのだった。
ともだちにシェアしよう!