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第1話
機械の街『オルヴィエート』。
霧の発生頻度が高いことと、工場からの蒸気でいつも薄い膜の貼ったような白に包まれた街であるために『白の街』とも呼ばれる。
人口の八割が人を模した機械たちで、人間からの命令に従うが、何も言われないのであれば、好き勝手に自分のやりたいことをやっていた。
その街で人間の少年___アルバは機械たちに混じって工場の下働きをしていた。
元々アルバは孤児で他の子供たちと教会で育ったが、今は家賃の安い屋根裏部屋を借りて一人暮らしをしている。
今の仕事は、ちょうどアルバの隣で工場の重機械(ここでは混同しないように自律型の人を模した機械を軽機械、そうでない設置型の機械を重機械と呼ぶ)に油差しをしている友人に誘ってもらった。
「ごめん、そこのスパナ取ってくれないか」
「ああ」
ぞんざいに投げたスパナは友人の手に収まった。軽く会釈をして礼を言って彼はまた作業に戻る。アルバも自分の手元へと目線を落とした。
「けどその作業にスパナいるのか。油差すだけだろ」
「いや、僕の右腕の方が調子悪いのさ」
「なるほど。大変だな」
「大変だなあ」
友人は機械だ。名前はシルヴェと言っていた。
外装の人工皮膚がところどころ剥がれていて、年季を感じるが、煤やら埃でくすんだ猫っ毛の金髪と緑の瞳、残っている皮膚の白さは彼が製造された当初の美しさを物語っている。
何故この工場で働いているのか、アルバは不思議に思っていた。
「なんだい、人のことじろじろ見てさ」
「……いや何でもない。手伝おうか、腕」
「助かる。僕は右利きだからね、左手で作業をするのは苦手なんだ」
どこが悪いのか、と聞きながら修繕する。人工皮膚はよく出来ていて、稼働による熱で人と同じように温いのにマイナスドライバーで血が出ることなくそれは開かれ、中には血管のようにコードが詰まっている。不必要なものを切らないように指示のとおり手を動かした。
「うん、アルバは上手だね。ほんと助かる。自分で直すのは不得手だけど、かと言って修理屋に行くのも嫌だし」
「……せめてメンテナンスくらいは月一で受けろよ」
「あはは、無理無理。僕は旧型だから取り替える部品も廃番になってるだろう。そうなると体のパーツを新型に総取っかえだ。それだけはごめんだね」
最後のネジを締め終えたアルバはその乾いた笑いに何となく腹が立ったので乱暴に肩を叩いた。
何するんだよう、壊れたらどうする、という文句を背に受けながらアルバは次の仕事へと向かうのだった。
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