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第1話

キミは知らない。 あの日の約束も、ボクの気持ちも…。 もし、キミに記憶が戻るなら-。 「ごめんね。約束、守れなくて…。 ずっと一緒にいようって。 必ず幸せするよって言ったのに…ね。 でも、もし、また愛し合える日が来るのなら… その時は強い心臓がほしいな…。 そしておじいちゃんになるまで2人で愛し合って 今度こそずっと一緒にいて幸せに暮らそう。」 そう言うキミに 「もし生まれ変われたとして… またボクとキミが出会えたとしても こんな風に愛し合える確証なんてない…! しかも次に会うときはボクはおじいちゃんで キミは子どもかもしれないんだよ?」 ってボクが言ったら 「大丈夫…絶対見つけ出すから。 たとえおじいちゃんだったとしても。 どこにいようと。どんなに離れていても。 絶対に見つけるから待っててくれる? そしてまた…恋人になろ…_。」 とボクに言いながらキミは人生の幕を閉じた。 15年の短い人生だった。 生まれつき心臓が弱かったけど強気なキミと 体は丈夫でも気弱で弱虫だったボク。 学校に行きたくてもなかなか来られないキミと 出会ったのは小学3年生、秋の保健室。 その頃のボクはいわゆる不登校だった。 クラスに馴染めなくなったのは小学3年の春。 クラスのリーダーに嫌われてしまったボクが クラスの嫌われ者になるのは早かった。 毎日学校に行くのが怖くて、嫌になった。 そして…不登校になった。 毎朝、母親が学校へ電話をかける。 夕方になると担任から電話が来る。 偶に担任が家へ来ることもあったけど ボクは1度も会わなかった。 いや、会えなかったんだ。 その時の担任は体育会系な先生でイジメなんて ボクの勘違いだ!話せばみんな仲良くなる! だから毎日ちゃんと学校に来い! …そんなタイプだった。 その担任に会いたくないのもあって 余計に学校へ行けなくなったボクを見かねて 家へ来てくれたのが保健室の先生だった。 初めはメモ用紙1枚を母親に渡して ボクには会わずに帰って行った。 そのメモ用紙には “保健室へ遊びに来ませんか?” とだけ書いてあった。 その次の日もメモ用紙が1枚。 “クラスへは行かなくても大丈夫!” その次の日のメモ用紙には “給食を食べてお話しませんか?” またその次の日のメモ用紙には “30分でも大歓迎!” 毎日、毎日渡される1枚のメモ用紙。 そこに書かれている内容は ボクの今の状況も探ることも 友達や担任のことも何も書かれていなかった。 それに安心したのもあって 少しだけ保健室へ行こうと決めたあの日。 体の調子が良くてキミが来ていなかったら ボクとキミは出会ってなかったかもしれない。 キミと保健室で出会ったあの日から ボクの人生は大きく変わった。 あの日久しぶりに学校へ行ったボクは 緊張しながら保健室のドアを開けた。 そこにいたのは保健室の先生と、キミ。 他にも人がいると思ってなかったのもあって 怖くて何も言えなくなったボクに 笑顔で話しかけてくれたキミに恋をした。 それから卒業するまで保健室登校だったけど キミと出会ってからは毎日が楽しかった。 小学校卒業した日にキミから告白された時は 本当に驚いたけどそれ以上に嬉しかった。 そして、ボクたちは恋人になった。 初めてデートした春。 初めて手を繋いで花火を見た夏。 初めて遠出をした秋。 初めてキスをした冬。 毎日が宝石のように輝いていた。 だから信じて疑わなかったんだ。 キミがいなくなることなんてないって。 心臓が生まれつき弱いのも知ってたのに。 あまりにもキミがキラキラ笑うから。 キミが隣にいる毎日を当たり前だと、 これからも続くものだと思ってしまったんだ。 キミと出会って5年。 キミと付き合って3年。 この宝物の日々を胸に何年かかっても キミがボクの前に現れてくれる日を待つよ。 だから、早く。 ボクを迎えに来てよ…。 どんな形でもいいから…。 会えるだけでもいいから…! そう願ったはずなのに。 …その願いを後悔する日が来ることを この時のボクはまだ知らない。 昔から自分は普通の人と違うと気づいていた。 そしてそれが理解されないという事も。 “前世の記憶がある”なんて。 一体誰が信じてくれるのだろうか。 昔はあやふやだった記憶も 歳を重ねるごとに鮮明になってきた。 そしてボクが10歳になったあの日。 …前世の記憶がボクに戻った。 自分に前世の記憶があるなんて まるで小説や漫画の世界の話のようだが 確かにこの記憶は現実のことだった。 そして、あの時は叶わなかった約束。 現世では叶えたい…のに。 「一緒に帰ろうよ〜!」 キミの隣にいるのはかわいい女の子。 ボクより背が低くて。 ボクより声が高くて。 柔らかい身体にいい香りの女の子。 …ボクとキミはまた出会えた。 なんの偶然かボクとキミが再会したのは 小学3年の秋。 その頃のボクは前世の記憶が戻ったばかりで 色々と混乱している時期だった。 いつもより遅くなった帰り道。 薄暗い道を帰っている時の事だった。 ぼんやりと歩いていたボクは 曲がり角で誰かにぶつかってしまった。 「いっ…た!」 「ご、ごめんなさ…い」 相手に謝って顔をあげた瞬間、時が止まった。 痛そうにしていたのが…キミだったから。 「え、もしかして…?」 と言うボクに 「あれ?会ったことあるっけ?」 なんて言って笑うキミ。 その言い方からボクのことは覚えていないって わかったけど希望を捨てられないボクは 「ボクの事覚えてない?」 って聞いたら 「うーん?どっかで会った事あったっけ…?」 と言われた。 それでも諦めきれなかったボクは 「ううん!ボクの勘違いだったかも! でも、もしよかったら友達になろう?」 なんてキミに言ってしまった。 今思えば、それが苦しい日々の始まりだった。 その後一緒に遊ぶようになって 中学が一緒になったというのもあり 親友と呼べるくらいには仲良くなった。 …でも親友止まり。 ボクとキミが付き合い始めた季節に キミはかわいい女の子と付き合い始めた。 どんな形でもいいからまたキミの傍にいたいと 願ったのは僕のはずなのに。 キミがあの子のことを嬉しそうに話す度 ボクの心が少しずつ壊れていく。 初デートはどこに行こう? -そんなの行って欲しくないよ。 昨日初めて手を繋いだんだ。 -前世ではボクも繋いだよ。 初めて、キスしちゃった…! -ボクの記憶の中では キミのファーストキスの相手はボクだよ。 もうあの子の話なんて聞きたくないよ…。 あの子のことで笑うキミを見たくないよ…。 ボクのこともう一度、好きになってよ…。 そう思うのにキミの傍にいるのは… 「やっぱり歌上手いよね!」 そう言いながらキラキラの笑顔を見せるキミ。 その笑顔は前世のキミと全く同じもので。 そうやってキミの中に昔のキミを 無意識に見つけてしまう。 だから期待してしまうんだ。 いつかキミがあの時の約束を思い出してくれる 日が来るんじゃないかって。 …いっそ、ボクの記憶もなくなってしまえば いいのに、ね。 そう思うのにま前世の約束と褒められた歌に 縋りついているボクは滑稽なカナリアだ。 でも滑稽でも醜くてもボクは約束に縋りながら キミがあの日の約束を思い出してくれる日が 来ると信じて待ち続ける事しか出来ない。 たとえキミがこの先ずっと… ボクの事も記憶も思い出さなくても ただひたすら待ち続ける。 だってそれが約束だから。 だからさ。 もう一度ボクの隣に戻ってきてよ。 なんて思いながら今日もボクは キミが褒めてくれた歌を歌いながら キミの親友であり続けるんだ。 -これは前世の記憶を持つ少年のお話。 彼は滑稽なカナリアなのだろうか? 彼は、ただ恋をしているだけ。 完

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