2 / 1732

涙の雨 2

 彼は俺がバス停から見ていたことを知らないので、初対面の人に泣き顔を見られたことを恥ずかしそうにしていた。  彼は……いつも明るい朝日を浴び、隣を歩く同い年位の青年と朗らかに笑いあっていた。  ずっと伏目がちに笑う所もいいなと思っていた。明るい栗色の髪に朝日があたり天使の輪ができるのも綺麗だと。  その雰囲気がいいなと目に留まったのが最初だ。その後……残業した帰り道に、公園で二人が軽くキスを交わしているのを目撃してしまい、その青年が彼氏だと知った。  それでも彼氏のことを信頼し優しく浮かべる笑みが可愛いと、俺も次に恋をするなら、あんな風に優しい笑顔を浴びてみたいと憧れていた。  だから……こんな酷い泣き顔は、幸せそうだった君に似合わないよ。 「これを君にあげるよ」  そっと彼の手にさっき俺が見つけた四葉のクローバーを載せてあげた。 「四つ葉だ。あっ……すみません……見ず知らずの人の前で泣くなんて」  彼にシロツメグサの花言葉と『幸せに暮らすことが最大の復讐である』という外国の諺を教えて励ましてあげると、そのまま黙りこくってしまった。 「……」  まずいな。初対面なのに、いきなり過ぎたか。こんなおっさんが突然話しかけてきたら、普通引くよな。  俺はまだ32歳なのに老けて見えると幼稚園のママさん達によく言われていたのだ。怖がらせるつもりはなかった。  それにしてもこんなにも悲しげに辛そうに泣くってことは、もしかして……あの隣を歩いていた彼と別れてしまったのだろうか。  この青年のことを密かに好いていた俺には朗報だが、人の不幸を喜ぶ趣味はない。   「もしかして……あなたにも何か悩みがあるんですか」  初対面の俺を警戒するでもなく気遣ってくれるとは驚いた。  自分が辛い状態なのに、俺のことまで気遣うなんて……お人好しで優しいんだな。  それに初めて彼の傍に寄ると、ふわっと花のようないい匂いがした。  これは惹きつけられるな。 「んーでも俺のは……いきなり初対面の人に話す内容じゃないからね。それより今日は君は君自身のことを大事にしてあげるといいよ」 「うっ……」  彼の眼から……また涙がポツポツと雨上がりの雫のように、静かに降り出してしまった。 「どうやら君は今日とても辛いことがあったようだね。でもね、雨の日も雲の上にはいつも綺麗な青空が広がってることを知っている?それと同じだ。そのことを忘れなければ何があっても大丈夫。 だからどうか元気を出して」   **** リンク部分……『幸せな復讐』の「ふたつの指輪」「シロツメグサの魔法」  

ともだちにシェアしよう!