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想い寄せ合って 2
やがてメリーゴーランドの動きが静かに停止した。現実に戻る時間がやって来たのだ。
「あーあ、もう終わっちゃった」
「もっと乗っていたかったなぁ」
「そうだね」
あどけない子供のため息がふわっと漏れてくる。この瞬間、大人も子供も……みんなどこか名残惜しそうな目をする。
いつまでも乗っていたい。
夢の世界にいたいと願う気持ちで一杯だ。
でも夢は覚め……現実に戻され、戻らないといけないのが僕たち……人だ。
そんなことを頭の中でぼんやりと考えていると、滝沢さんが芽生くんを抱っこして降ろし、そのまま出口に立っている僕の所に戻って来てくれた。
「瑞樹、待たせたな」
(ええ?)
うっ……隣にいた女性たちの視線が痛い。
一斉に僕の顔をじろじろと見るので動揺してしまう。
僕は一体どんな立ち位置に見られているのだろう?
(ねっあの可愛い男の子は誰?まさか兄弟?)
(似てないわよね。じゃあもしかして?)
(ちょっと何、妄想してるのよーいやね)
滝沢さんはそんなことは気にする素振りも見せず、躊躇うことなく僕の顔をヒョイっと満面の笑みで覗き込んで来た。
(きゃあ♡)
ちっ……近いから。
「あっ……いえ」
「それにしても嬉しかったよ」
「え?何がですか」
「瑞樹、君は俺のことずっと見ていたね。視線が熱かった。カッコいいと思っただろ?もしかして惚れ直した?」
「はっ?」
いやいや……そんなこと、この場で聞かれても、隣!隣の女性たちがポカンとした顔で見ているから、猛烈に恥ずかしくて俯いてしまう。
参ったな。
滝沢さんのテンポが……子供っぽいと思えば大人の男性らしく壮絶な色気もあって、そして時にこんな風に変に自信家だったりとコロコロ変わるので読めないよ。
でも……僕はいい意味で振り回してもらっている。 一馬とここに来た事を忘れてしまう程に、上書きするかのように、どんどん新しい思い出を作ってもらっている。
「パパー」
「ん?なんだ芽生」
「次はおにーちゃんといっしょにのりたい!あっちのトロッコでんしゃがいいな」
「あれは芽生の好きな乗り物だよな。瑞樹、いいか」
「もちろんです」
芽生くんが選んだのは、小さな子供が親と一緒に足漕ぎして進むトロッコ電車だった。亜熱帯ジャングルみたいな庭園を、小さな車体でぐるっと回るコースだ。
緑に溢れたコースはなかなか本格的に作り込んでいて、フラワーデザイナーだけでなく造園にも興味にがある僕は、職業柄思わずじっくり観察してしまった。
「おにーちゃん早く早く!」
「あっうん」
トロッコは自転車漕ぎをしながら進む仕組みだが、結構ペダルが重たかった。芽生くんの足はまだペダルに届かないので、ほぼ僕一人で漕ぐことになったので、半周する頃には汗が額に滲み出ていた。
「わーい!おにいちゃんすごいよ!はやーい!あっパパだ!パパぁ!」
でも芽生くんが隣で嬉しそうにはしゃいでくれたので、頑張った甲斐はあったようだ。それにしても滝沢さんに小さな手をブンブン振って可愛いな。
無邪気な芽生くんと接していると、ずっと思い悩んでいたことが小さく感じる。だから僕の方もますますペダルを漕ぐ足に力が入った。
****
可愛い息子の芽生と俺の恋人(と勝手に呼ばせてもらおう)の瑞樹が並んで遊具に乗っている様子を、微笑ましく眺めた。
なんて幸せな光景なんだ。
芽生も嬉しそうだな。やっぱり俺みたいなオッサンより、綺麗で若いおにいちゃんの方がいいよな。
それにしても瑞樹も奮闘しているな。瑞樹の綺麗な形の額に浮かぶ汗が、木漏れ日を浴びて綺麗だ。
なぁ……結構そのペダル、重たいだろう?
瑞樹の華奢な体には、結構堪えるだろう。
夜になったら、あの真っすぐすらっと伸びた美脚の……ふくらはぎから足首にかけて俺の手でマッサージしてやりたい。
(おっと、イカン!また煩悩に侵されているな)
あの乗り物には俺も何度も付き合わされたが、トロッコ自体の箱の作りが小さいから、きついんだよな。大人のサイズに合わないペダルを漕ぐのも大変で、庭園を一周する頃にはヘトヘトになるはずだ。
そうだ、瑞樹に何か冷たい飲み物でも買ってやろうと思い売店に並ぶと、後ろから声を掛けられた。
「あら……滝沢さん?」
「えっ!」
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