477 / 1740

深まる絆 8

 宗吾さんの幼い頃の写真を見出したら、夢中になってしまった。芽生くんも初めてだったようで、ふたりで前のめりだ。 「パパ、リレーのせんしゅにおうえんだんもしていたんだね。かっこいいな」 「うん、リレーの時の悔し涙はいいね。キリッとしている」 「よーし! ボクも負けないぞ。リレーもがんばる」 「芽生くんを応援しているよ」  そんな話をしていると、玄関のインターホンが鳴った。 「あら、誰かしら?」 「あの、僕が出ます」 「ふふ、やっぱり男手があるといいわね」    そう言ってもらえるのは嬉しい。  僕は宗吾さんに抱かれる方だが……男としての矜恃は、やっぱり持っているわけで……こんな風にお母さんに頼りにされるのは気分がいい。 「はい?」  インターホンに出ると、女性の声がした。あれ、この声は…… 「あ、美智さんですか」 「まぁ瑞樹くんも来ていたのね」 「今、開けますね」  美智さんは、宗吾さんのお兄さんの奥さんだ。 「お母さん、美智さんでした」 「あら? もしかしてまたおかずを持ってきてくれたのかも」  案の定、玄関をあけると、大きな風呂敷を抱えた美智さんが立っていた。 「瑞樹くんも来ていたのね。芽生くんと?」 「はい、今日は芽生くんと幼稚園のあと、庭の手入れがてら寄らせていただきました」 「そうなのね、ちょうどよかったわ。実はコロッケを揚げたんだけど……食べきれないから持ってきたの」 「いい匂いがしますね」  リビングに美智さんと入ると、すぐに芽生くんが飛んできた。 「あーお姉さんだ!」 「芽生くん、元気だった?」 「うん! 」  美智さんが風呂敷を広げると、洋風なお重箱に美味しそうなコロッケがずらりと並んでいた。 「わ、美味しそうですね! 」 「ありがとう。作ったのはいいんだけど、揚げ物をしていたら急に食欲がなくなってしまったのよ。ムカムカして……ごはんの匂いが急に駄目になったみたい。あの、よかったら皆さんで食べてもらえるかしら」 「まぁ……そうなの? あら。でもそれって、もしかして……美智さんちょっといい?」  お母さんと美智さんが台所でこっそり何か話している、何だろう?  聞くつもりはなかったが、聞こえてきてしまった。 「もしかして……」 「あ、そういえば。二カ月……来ていないわ」 「まぁ、それは早く検査薬で確認してみたら? 」 「そうですね! もしそうだったら……嬉しいです」  もしかして……あ、そういうことなのかな。  お腹に赤ちゃん……?  そう思うと、なんだか急にドキドキしてきた。  お兄さんと美智さんの間に赤ちゃんがやってきたら、きっと楽しくなるだろうな。 「あの、やっぱり気になるので、今すぐ検査薬を買いに行ってきます」 「まぁ……でも、まだ気持ち悪いんでしょう。ここまで来るのにくたびれたでしょうし、少し休憩しなさい。そうだわ、憲吾に買ってきてもらうのはどう?」 「あ、実は憲吾さんも、もうすぐ来る予定になっているので、連絡してみようかしら。さっき電車に乗ったと連絡があったので」 「ちょうどいいじゃない! 」  え……!   ということは、憲吾さんに妊娠検査薬を買ってくるように頼むってこと?   それっていいの?  疑問がプカプカと浮かんでくる。  真面目な憲吾さんが、真顔でドラッグストアで、それを買うシーンを想像してしまった。 「おにいちゃん、どうしたの?」 「ん、あ、いや。ふたりが幸せそうな話をしているみたいだなって」 「うんうん、おばあちゃんもお姉さんも、ワクワクしているね」 「そうだね」 「あれ? おにいちゃんもワクワクしてる?」 「わ! 顔に出ていた?」  立ち聞きしてニヤつくなんて、まずいな。 「いいお顔だよ!」 「そ、そうかな」 「お兄ちゃんのそういうお顔だいすきだから、ボクもワクワクしてきた」  ワクワク、楽しい気持ちって、連鎖していくのかな。  じゃあ、宗吾さんにもしてもらいたいな。 「ねぇ芽生くん、パパもここに呼ぼうか」 「うん、みんなでよるごはんをたべようよ。コロッケいっぱいあったし」 「そうだね、久しぶりにここで集まろう!」  なんだか楽しいことが起こりそうで、やっぱりワクワクする。  いい予感でいっぱいだよ。    

ともだちにシェアしよう!