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見守って 7

 昨日の朝、同じマンションに住む兄弟に、芽生と一緒に登校して欲しいと頼んだ事……ちゃんと覚えているかな? 「パパ、はやく、はやく!」  芽生は昨日はかなりお疲れだったが、一晩寝たらすっかり元気になったようだ。子供はタフだな。電池を入れ替えたようにイキイキして眩しいよ。  いやいや、そういう俺も昨夜瑞樹とじっくり身体を繋げられたお陰で、元気満タンだ。  いつになく瑞樹が大胆で俺のあそこを……ちろちろ……あぁ可愛くて最高だったな。 「パパーってば、またぁ、ニヤニヤして」 「おっと、すまん!」 「キリリってして」 「おう!」  シャキーンと背筋を正すと、瑞樹が隣で口に手をあてて笑いを堪えていた。  俺の脳内から煩悩は全部筒抜けのようで、うっすら頬も染めていた。 「そうだ! お兄ちゃん、昨日、お風呂で話したこと覚えている?」 「えっと……」 「ちゃーんとパパに元気にしてもらえた?」 「あ……うん」  おいおい、芽生もやるなぁ、そんな話を風呂場でしていたのか。  瑞樹は昨夜の情事を反芻したようで、うっすら染まっていた頬がポンッと赤くなった。  積極的な瑞樹、良かったぜ。しかも君からのアレは相当気持ち良くて、ヤバかった!  なんというか、俺たちもエッチの新学期を迎えたようだな。  などと阿呆なこと考えてしまった。    芽生とエレベーターを降りると、昨日の二人が嬉しそうに手を振ってくれていた。 「おはよう! メイくん、いっしょにいこう」 「うん!」 「じゃあ、メイくんのお父さんたち、行って来ます」  6年生の兄の方が、俺たちに礼儀正しく挨拶をしてくれた。  へぇ、6年生にもなると、こんなにしっかりするのかと感心してしまうな。そのうち、俺……芽生に叱られそうだ。(いや今も叱られているか) 「あっ、パパ、お兄ちゃん、今日からはついてこなくて大丈夫だよ」 「……そうかぁ。よし! 楽しんで!」 「はーい! いってきます」  小さな身体に、まだ大きすぎるランドセル。  でも、いつの間にかランドセルの方が小さくなってしまうんだよな。  少し寂しいな。  そう思うと、今この瞬間を大切にしたいと思った。  芽生の背中が見えなくなるまで、瑞樹と見送った。 「見守る……のですね。これからは」 「そうだな。俺たちも少しずつ子離れだ。だがまだまだ小さな子供には変わりない。いいバランスを心がけたいな」 「はい。そう思います。朝は元気ですが夕方が心配ですね。もっと早く迎えに行けたらいいのですが」 「仕方が無いさ。慣れてもらうしか」 「……ですよね」 「さぁ俺たちも行くか」 「はい!」  瑞樹と肩を並べて、足並みを揃えて駅まで向かう。  この時間が、俺は好きだ。  瑞樹が……前の彼氏をこうやって歩いて行くのを1年間見守っていた。ずっと憧れていた。  今は俺が横に立てている。    そのことは、願い事が叶ったような気分で、いつまでも感謝したいことだった。 ****   大沼・瑞樹の生家 「セイくん、ちょっと来て~」 「何?」    瑞樹が譲り渡してくれた子供部屋から、妻の声がした。  すっかりあんよが上手になった息子と遊んでいたはずだが。  ヒョイと覗くと、息子が青い車を嬉しそうに持っていた。 「あれ? うちにそんな車あったっけ?」 「さっき、この子が見つけて。瑞樹くんのベッドの下から出てきたのよ」 「へぇ……結構古いものだな。俺もこんなの持っていたよ」 「これって瑞樹くんのじゃない?」 「どうだろ? 亡くなった弟のかもしれないぞ。思い出すのが辛くて置いて行ったんじゃないか」 「ううん、ここ見て」    妻が車をひっくり返すと、裏にマジックで『みーくん』と書かれていた。  みーくんは、みずきのことだろう。  弟は『なつき』だったから。 「お母さんがお名前を書いてくれていたのね」 「そのようだな」  優しい字体だった。    瑞樹のお母さんのことなら覚えているぜ。  いつも野原で一眼レフを首から提げて……明るくて綺麗な人だったな。  瑞樹に面影が似ているな。  そういえば……瑞樹の家に遊びに行くといつもいい匂いがした。  カップケーキ・マドレーヌ・クッキーなど、手作りのおやつが頻繁に出てきて、部屋の隅々には、野の花が生けてあり、日だまりのような家庭だった。  弟は瑞樹にべったりで、いつも俺たちの遊びにもくっついて来たな。瑞樹はそんな時、嫌な顔もせずにギュッと手を引いて……弟が転んで泣けば、一緒に泣きそうな顔をして、おんぶしていた。  ……あんなにも、心温まる世界を、あいつは一瞬で失ったのだ。  あいつの大切な家を受け継いだ俺に出来ることがあれば、してやりたい。  結婚し赤ん坊が生まれ、子供の成長と共に親の心を知り……思うことだ。 「ねぇ、これ東京に送ってあげない?」 「そうだな。お母さんのサイン入りだもんな」 「でしょ! そうだわ。あなたが焼いたクッキーやマドレーヌも一緒に」 「それ、いいな」  あの時控えた、瑞樹のお母さんのレシピ集がある。  俺なりのお母さんの想い出を詰めて、届けよう。  おーい、瑞樹、あれから東京で幸せにやっているか。  瑞樹がお母さんに買って貰った車は、瑞樹がちゃんと持っていろよ。  俺の息子には、別のモノを買うからさ。  瑞樹の家で、びゅーんっと走らせてくれ。  天国のお母さんの所にも、青い車に乗って遊びに行けるかもな!  瑞樹のことだから……大事にし過ぎてベッドの下に隠したままになっていたのだろう。  この車を買ってもらった時の思い出を、どうか大切にして欲しい。 あとがき(不要な方はスルーで) **** 皆さまからのリクエストもあり、楽しく小学生編を書いている最中です。 いつもリアクションをありがとうございます。 尚、この瑞樹の青い車については、以前、出てきました。 この青い車に乗ってお母さんに会いに行く夢の話は、BOOTH『しあわせやさん』においてあります。https://shiawaseyasan.booth.pm/items/3059188

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