「とっても楽しかったね～、あれ？　パパ顔が赤いよ。どーしたの？」 「お、おう！　なんでもない」 「宗吾さん？　大丈夫ですか」 『ツリー・オブ・ストーリー』 から降りると、宗吾さんの様子が少し変だった。いや……変といっても具合が悪いのではなく『ヘンタイ』の匂いがプンプン……！ 　嫌な予感がしてジドッと見つめると、宗吾さんは快活に笑って「やましいことなんてないさ～」と、はぐらかしていた。 「お兄ちゃん、ボク、おトイレ～いきたい」 「あ、宗吾さん、場所分かりますか」 「トイレならすぐ近くだよ。着いて来い」 　こういう時はとっても頼りになる。さっきヘンタイだって疑ってごめんなさい。と心の中で謝っておいた。 　手を洗って芽生くんを待っていると宗吾さんが近づいて来て、鏡越しに目が合うと耳元で甘く囁かれた。 　 「いや、その……さっきさ、瑞樹の悲鳴がエロ可愛くて参ったよ」 「は？　今、なんて？」 「……エロかった」 　ちょっ‼　うっかり宗吾さんの股間を見てしまったじゃないか！　（僕も駄目だ……もう完璧に……終わってる） 　 「も、もう！　ここは『ゆめの国』ですよ」 「わ、怒るな！　この通り！」 　両手を合わせて僕を仏様のように拝んでくるのだから…… 「もう……(憎めない人）」 「お兄ちゃん、パパ、またヘンだった？　ごめんね。それより来て、来て～」 「待って、どこへ」 「あそこ！」 　芽生くんに手を引っ張られ、トイレの外に出ると小さな噴水があった。 「ほら、クマさんがいるよー」 「本当だね」 　まるで宗吾さんと芽生くんみたいな大小二頭のクマが水遊びしているモチーフだった。 「いいなぁ、クマさん、きもちよさそう！」 　芽生くんが目を大きく見開き、キラキラした瞳で、噴水を見つめている。 　僕は芽生くんのこの表情がとても好きだ。 　大きく目を見開いて、じっと目の前のものを見つめる。 　素直な心で受け止めている瞬間だ。 　そうやっていつも心を開いて接したら、大切なものが何か掴めるね。 　僕も花に向き合うとき、いつもそんな気持ちになるよ。 　それにしても子供って水遊びが好きだよね。芽生くんが手をそっと伸ばし水に触れた。 　もっともっと触れたい気持ちがぐんぐん溢れてしまったようで、宗吾さんを見上げて「遊んじゃ駄目？」とお強請りした。 「芽生、今日は駄目だぞ～　着替えを持っていないからな」 「あ、そっかぁ……」 　少しだけしょんぼりな芽生くんに、宗吾さんがすかさず楽しい提案をしてくれる。 「なぁ、夏になったらここで水浸しになるイベントがあるらしいんだ。夏休みにまた三人で来るか！」 「え……いいの？」 「あぁもちろんだよ。パパも興味ありだ！　な、瑞樹」 　ウォーターイベントなのかな？　楽しそう！ 　　 「はい！　そうですね」 「だろっ」 　宗吾さんの視線を胸元に浴び一抹の不安を感じたが、気にしないでおこう。 「よし！　そろそろ腹が減ったな。キャラクターのショーを見ながら食べられるレストランがあるんだ。来年、彩芽ちゃんにも良さそうな所だから､下見も兼ねてそこでいいか」 「いいですね」 「パパぁー　お昼ごはんはなに？」 「ハンバーガーとクラムチャウダーだ」 「美味しそうですね」 「やったぁ～」 　＊＊＊＊ 「あーん」 「わぁ、大きいですね」 　キャラクターのぬいぐるみショーを見ながら、大きな口を開けてハンバーガーを頬張る息子と恋人を見つめていると、ほっこり幸せな気分になった。 　うさ耳姿の瑞樹は愛らしく、くま耳の芽生は可愛らしい。 　ここはうさぎもクマも仲良く共存できる『ゆめの国』なのだなぁと妙にしみじみと思ってしまった。 　ふと見渡せば、老若男女……様々だ。 　夫婦に恋人……同性同性の二人組もよく見かける。まぁだの友達同士だろうが、時々男同士で手を繋いでいたりするのを見ると……微笑ましかった。 　俺たちと同じポジションの匂いがするカップルも来ているんだな。 　ここでは皆が幸せな気分なので、人と違っても全く気にならないし、誰も気にしない。それが居心地の良さの秘密なのか。 　兄さん、俺たちが自然体でいられる最高の場所だよ。最高のプレゼントをありがとう！　サンキュ！ 　皆と違ってもいい。俺は俺だ。　俺らしく、この二人を守り寄り添い成長していきたいのだ。 「宗吾さん、『ゆめの国』って居心地がいい場所なんですね。僕もすっかり気に入ってしまいました。また来ましょう。夏休みに」 　瑞樹も変わった。 　未来に夢を持てなかった寂しい君はもういない。 　もう罪悪感にかられ……苦しみ耐えなくていい。 　この瞬間……今を楽しみ、未来に明るい夢を見てくれるのが嬉しいよ。 「宗吾さん、とても楽しいですね。ありがとうございます」 　そしてどんな時も……小さな感謝を忘れない君が大好きだ。