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北国のぬくもり 12
「お待たせしました。葉山生花店です」
「あれ? 打ち合わせした人じゃないですね」
「あ……弟です。一緒にやっておりますので、ご安心下さい」
「なるほど、隣の男性は?」
イタリアンレストランのオーナーは、エプロンをした宗吾さんが気になったようだ。
「俺は、彼の助手です」
「あぁ、なるほど、あなたは力持ちそうですもんね」
「えぇ、この通り鍛えております」
張り切ってモリモリと力こぶを見せる宗吾さんに、ポカンとする。
「ははっ、随分とユニークで頼もしい助手をお持ちなのですね。じゃあ会場はこちらです。綺麗に飾り付けてくださいね」
「はい、お任せ下さい」
何だか……普段は広告代理店の営業マンとしてバリバリ働いている宗吾さんを、僕の助手扱いするなんて申し訳ないな。
「瑞樹、俺、ちゃんと君の助手に見えるらしいぜ!」
僕の心配を余所に、宗吾さんは喜んでいた。
「といっても相変わらず花の名前はさっぱりだから、運搬に徹するよ」
「くすっ、頼もしいですよ。じゃあ一緒に中に運びましょう」
バンの荷台から、店でアレンジメントしてきた装花を運び出した。
全部で十卓分、次々に……
「ふぅー、結構重たいな」
「こんなの軽い方ですよ」
「そうなのか」
宗吾さんが額の汗を拭いながら、驚いていた。
「瑞樹~、俺、勘違いしていたよ。君って結構、力持ち?」
「くすっ、はい、そうですよ。仕事柄どうしても重たいものを運ぶので」
「そうなのか。じゃあ今度……」
宗吾さんの瞳がキラーンと輝く。
「え? そ、宗吾さんは無理ですよ! 運べませんよ」
「ははっ、やっぱり瑞樹は面白いな。そんなに俺を運びたかったのか」
「あ……」
またやってしまった! 宗吾さんにひっかかったというか、僕の飛躍する妄想魂のせいだ。とほほ……
「も、もう、作業に集中して下さい」
「了解! 瑞樹せんせ♡」
「ぎょっ! そ……その呼び方も駄目です! とっても変です!」
「はは、よしよし、リラックスして来たな」
「あっ」
そうか、宗吾さんは、ずっと僕の心を解してくれていたのだ。
わざとおどけて、本当におおらかで明るくて優しい人。
大好きです。
「テーブルはこれで終了です。じゃあ次はアーチの装飾をします。僕が脚立に上がるので、この花を順番に手渡してもらえますか」
「了解!」
いよいよメイン装花に取りかかる。僕も集中しないと。
宗吾さんが傍にいてくれるのが、本当に心地良かった。
脚立に上ると、白い薔薇とすずらんのアレンジメントで装飾された会場が一望できた。清らかな雰囲気が満ちていて、まるで天上の世界のようだ。
いいな、僕の一瞬闇に引きずられた心も身体も、どんどん浄化されていく。
「次、お願いします」
「はいよ!」
宗吾さんから花を受け渡してもらう度に、愛情溢れるぬくもりが届いた。
この幸せを……僕は信じられる。
後を振り返ると、いつも見守ってくれる人がいる。
それを実感していた。
「これでラストです」
「お疲れさん」
さぁ、美しいアーチの完成だ。大きく背中を反らして見上げると、ずるっと足を滑らせてしまった。
「わわっ!」
「おっと!」
次の瞬間、僕は宗吾さんの腕の中に、すっぽりと収まっていた。
「みーずき、危なっかしいな」
「す、すみません」
「これは役得だな」
ニヤリと笑う宗吾さんに、僕の心も軽やかに転がった。
「えっと……い、今のは……サービスです!」
「おぉ? 瑞樹もいいこと言うなぁ~ サンキュ!」
「い、いえ、どういたしまして……」
照れまくりながら最終チェックをし、時計を見ると11時だった。出掛けにハプニングがあったが、予定通りに装飾を終えることが出来て良かった。
レストランのオーナーに挨拶すると、アイスハーブティーをご馳走してくれた。
そこでポケットのスマホが鳴った。
もしかして――
「瑞樹、俺だ!」
「広樹兄さん! もしかして……」
****
「よーし、芽生坊と一緒に店番をするぞ」
「うん!」
ぼくはジュンくんといっしょに、花やさんの前にたったよ。エプロンをしてもらったから、カッコイイでしょう!
「いらっしゃいませ~」
「あらあら、可愛い店員さんね。今日のオススメは何かしら?」
「え!」
わ! ぼくが言ってもいいの?
ジュンくんを見ると、ニコニコわらってくれた。
「芽生坊、がんばれ!」
「ちゅ、チューリップです。あの……はなことばは『おもいやり』です」
「まぁ、花言葉のサービス付きなのね。じゃあ三本ちょうだい」
「あ、ありがとうございます」
わっわわ、ボクがうったの?
すぐに潤くんがやってきてお金のやりとりをしてくれたよ。
だからボクはね、この日のためによういしていたクローバーの絵をかいたカードをわたしたよ。
「あの、これ、どうぞ」
「まぁ、素敵な贈り物ね。ありがとう。そう言えば、いつもの男性はいないのね」
「兄は急用で不在なので、弟の俺と甥っ子が手伝っています」
「そうだったのね、賑やかでいいわね。また来るわ」
「有り難うございます」
「あ……ありがとうございましゅっ」(舌かんじゃったぁ)
ジュンくんのマネをして、ぺこんとおじぎしたよ。
「へぇ、芽生坊は接客が上手だな。流石、宗吾さんの子供だな」
「お兄ちゃんのマネをしたんだよ」
「あぁ、そうか……うん、兄さんの優しさを受けついでいるんだな」
ジュンくんがとびっきりのニコニコ顔で頭を撫でてくれたので、くすぐったくなったよ。
「ジュンくん、だれかのやくにたつのって、きもちいいね」
「芽生坊はえらいな。俺の役にもたってるよ」
「えへへ!」
それから、ボクはコクバンに今日のおすすめをかいたよ。
お兄ちゃん、ボク、がんばっているよ!
お兄ちゃんもがんばってね!
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